日本 甘味を喰らう
「それで今日はどうするんだ?」
土曜日の朝、オルフェウスはマンホールの蓋を開け、外に出て優に会っていた。正確には優を待ち伏せしていたのだがそれを突っ込むものは誰もいない。
「オル。そういえばさ、日本人がどんな家に住んでいるのか興味沸かない?」
「確かにな。家は文化の基本とも言うし日本の文化をみるには丁度いいか」
オルフェウスの言う通り、家は文化の基本だ。オルフェウスの世界でも国が違えば家が違う。つまり、国の文化によって家がどんなものになるのか違ってくるのだ。
「それじゃあ私の家へレッツゴー!」
優の提案により観光しながら優の家へと行くことになった優は歩きながら前回外へ出た時尋ね損ねたオルフェウスの質問に答えた。
例えばオルフェウスが見た矢先にある鉄の塊を指差し尋ねた。その答えは車という機械で出来た乗り物であり、以前優が説明したバスの小型版であることを理解し、次の質問に入ろうとした時…
「オルこっち来て!」
突然優がオルフェウスに声をかけるとオルフェウスは止まってしまい、優は目を閉じた。その理由はオルフェウスが信号無視して横断歩道の真ん中に突っ立っており、大型トラックが迫っていたからだ。
その瞬間、轟音が響く
オルフェウスに大型トラックが直撃したのだ。
「ん? なんだこれは?」
しかしまるでものともしなかった。オルフェウスは歴代最強の魔王ギアロードを圧倒的な力で瞬殺した男だ。たかが大型トラック如きでやられるような輩ではない。
「トラックが……人に負けた……っ!」
むしろ大型トラックの方が大きな損害を受けていた。その被害はオルフェウスのぶつかった部分だけでなく前面が潰れており運転手も頭を打って気絶していた。オルフェウスの物理結界が働き、そうなったのだ。
「行くよ! オル!」
野次馬達が集まる前に優はオルフェウスの腕を掴み、その場から立ち去った。
「危なかった……」
優は家の前に着くとホッと一息付いて安心した。
「一体何なんだ?」
オルフェウスは優が焦った理由がわからずそう尋ねると優はギギギと錆び付いた自動人形のように振り向いた。
「あのねぇ、あんな巨大な鉄の塊が突進して来たら普通の人間はどうなると思う!? 冒険者でもほとんど死ぬでしょ!?」
「……あ」
確かにそうだ。オルフェウスの冒険者時代に潜った地下迷宮にあった罠にも似たようなものがあり、他の冒険者達はその罠を発動させないようにしていた。それを見かけるまでオルフェウスは力任せに罠を壊していたのでそれを見て反省したのを思い出した。
「そういうところは常識外れなんだから今度は気をつけてよ!」
ただでさえオルフェウスの見た目は注目される。そんな人物が常識外れな行動を取れば間違いなくマスコミの餌食となるだろう。
「わかったよ。今度は気をつけてあの鉄の塊の下に潜って避ける。これなら冒険者でも出来るぞ」
少しズレたことをいうオルフェウスはそういってドヤ顔になった。
「あんなところに隙間なんてものはないのよ! それに避けたとしても違う場所に次が来るからどうやっても避けられるわけないでしょ!」
優のいうとおりトラックにも乗用車にも下に隙間はない。仮に隙間があって避けたとしても時速60Kmオーバーの車が突っ込んで来るのだ。冒険者ならともかく一般人が二度も避けられるはずもない。
「じゃあどうすればいいんだ?」
オルフェウスはそういって腕を組むと優はため息を吐いた。現代において常識がないのは知っていたがいくらなんでも酷すぎである。
「そこらへんも含めて説明するから家に入って」
「わかった」
二人は靴を脱いで優の家へ上がった。靴を脱ぐ文化はオルフェウスの世界には無くこの世界でも日本や韓国などの一部の国にしかないがオルフェウスはアニメの影響で靴を脱ぐ文化があることを知っている為スムーズに済んだ。
「これが日本の家か……不思議なものだ」
オルフェウスは驚愕していた。何故なら本当に魔法や魔法道具を使わずに松明よりもよっぽど強い光が出来るのとオルフェウスの世界の貴族並みの家の衛生や広さ(向こうの貴族が家を小さく建てているのが好きなわけではなく経済的な事情)、そして何よりもアニメで見た家となんら変わりないのだ。
「流石日本だ」
「まあ日本は世界一とは言わずともこの世界から見ても裕福な方だからね」
「貴族並みの生活が送れる一般人か。俺の世界の人間だと誰もが羨ましく思うだろうな」
「それよりも今日は一般常識を教えるから覚悟しておいた方が良いよ……」
「上等だ」
優の日本講座を受けたオルフェウスは小学校で習うような漢字も覚え、少しずつだが確実に日本に染まってきた。
「ただいまー!」
玄関のドアの開く男と青年の声が聞こえた。
「やっと帰ってきた……お帰りー」
どっしりと疲れの溜まった優はそういって返事をして立ち上がった。
「面倒だけど紹介しにいくから立って」
「おう……」
優とオルフェウスは玄関の前まで歩き、その青年の元へと連れて行った。
「優ープリン作ってー……ってお客さん?」
机に寝伏せてダラけているこの青年はオルフェウスを見ると起きて優に尋ねると優は紹介し始めた。
「紹介するよ。彼はオルフェウス。この前もらったプラチナのメダルをくれた人だよ。お礼し足りないから日本のことを教えている。」
「オルフェウスだ。敬語は使わなくて良いぞ」
「へえー…それじゃ遠慮なく。俺は天谷勇気。そこにいる優の兄だよ。勇気って呼んでくれ。よろしくオルフェウス」
「ああ…よろしく勇気」
「勇気、それよりもプリン作って欲しいの?」
優は勇気にそう言って話題を変えると勇気は頷いた。
「うん、材料はそこにあるからお願い」
「了解」
優は台所に向かって歩き、2人が残された。
「オルフェウス、妹が世話になったね。ありがとう」
勇気がオルフェウスの前の椅子に座り、頭を下げるとオルフェウスは手を振った。
「世話になったのはこっちだ。何から何まで日本のことを教えてくれて大助かりだ」
「優はあのプラチナのメダルを貰う前は学業が上手くいかなくてストレスが溜まっていたんだ。だけどあのプラチナのメダルを貰った後、ストレスが解消されたかのようにすっきりとした笑顔になっていたんだ。優が明るくなったのもオルフェウスのおかげだ。ありがとう」
「そうか……質問いいか?」
「答えられる範囲ならどうぞ」
「何故勇気はアマタニと同じ名前なんだ?」
オルフェウスは勇気が同じ名前だと思っていた。その理由は言わなくともわかるがオルフェウスの世界では苗字が後ろに来るのが一般的であり前に来る例はほとんどない。
「え? ……あー、そういうこと。日本じゃ苗字、いわゆる性が前に来て名前が後ろに来るんだ。だから今度から優のことを名前で呼んでくれないか?」
それを説明し、解説するとオルフェウスは納得した表情で頷いていた。
「わかった」
「ところで話は変わるがプリンって何だ?」
「卵と牛乳を使った甘味だよ。まあ食べてみればわかるさ」
「是非頂こう」
即答だった。異世界の魔王というのはやはり甘味が好きらしい。
「「いただきます」」
「待て。なんだそれは? アニメでもそんな描写があったが……」
オルフェウスが2人を止め、いただきますの意味を尋ねた。
「食べる前に食べ物に感謝する挨拶みたいなものよ」
「食い物に感謝?」
「私達は食材がなければ生きていけない。だからこうして食べ物に感謝してこの言葉を送るんだ」
「そういうことか…ではいただきます」
そしてオルフェウスがスプーンを使い、一口。
「(美味い……っ!!)」
舌に絡みつくような卵とカラメルの甘さとドロドロに溶けた毒スライムのような舌触りはないのに関わらずとろけるような柔らかさが舌とマッチし、オルフェウスの口の中だけを天国へと行かせるような美味さだった。
「(……このプリンがダンジョンにあったらいつでも食えるが…俺自身が料理しても無理だろう。となれば材料作りだな。)」
オルフェウスはプリンを味わいながら無言でそう考え食べる。
「そんなに美味かった?」
「ああ、元いた場所じゃこんなの食えなかったしな」
「あ〜確かに。それじゃオル。お土産にこのプリンを」
「是非いただこう。」
やはり即答だった。元魔王と言えども甘味には勝てないらしい。
翌日、ダンジョンでオルフェウスのプリンを頬張る姿があったのは余談である。




