日本 異世界初交流
「アマタニ……そういえばその服は学校の制服とやらだろ?お前は貴族なのか?」
オルフェウスはその事が先ほどから気になっていた。魔族はともかく人間は王族、貴族、平民に別れておりその比は順に1:10:9989の比率だ。つまり人間の人口の0.11%が王族や貴族でありその他が平民なのだ。話を戻そう。その平民は大多数が学校に通わない。その理由として一つ、学費が異常に高すぎるのだ。日本円に直すと年間1億円という高さだ。そんな巨額を数年間も払うならばオルフェウスが今経営している(現在は準備中だが)地下迷宮などに潜り込んで魔物を倒してアイテムを拾って金を稼ぐ。それが常識だった。
「貴族なんてものはもうないよ」
「……なんだと?」
流石に予想していなかったのかオルフェウスは呆れてしまい、ショックを受ける。
「それに余程恵まれていない限りは大体18歳まで学校に通うんだよ」
「なんてクレージーな国だ……」
オルフェウスはその事に感心していた。歴代の魔王の中には大体が次代の魔王に殺されるが勇者という人間によって倒されるケースがある。勇者は人間の国の国王によって領地を貰い国を立ち上げるが失敗する。その理由は平民であるが故に常識が身についておらず兵としては一流だが国王として三流という状態がよくある。それなら王族や貴族などから勇者を輩出してもおかしくないが王族や貴族は頭でっかちで魔法を中心とした後衛の場合が多く、魔族にも魔法で劣るので勇者にはなれなかった。
オルフェウスがショックを受けていると優が口を開け尋ねた。
「そういえばオルの世界について教えてよ。地下迷宮も含めて」
優はオルフェウスの世界が気になっていた。それもそのはず。オルフェウスの世界は異世界であり、ファンタジーな異世界からやってきた人から話しが聞けるとなれば興味を持つのは無理なかった。
「俺の世界は魔族、人間、龍族が住んでいるな。他にもいるがこの三族が世界を支配しているようなもんだ」
「龍までいるんだ……」
「俺の世界で一番数が多いのが人間だな。その次は魔族、一番少ないのが龍族だ。だから前提として人間の国の話しをするぜ? あいつらが一番影響力が大きいしな」
「うん」
オルフェウスの説明に優は頷いて話しを聞いた。
「人間は冒険者って言う職業につくことが多い。その冒険者ってのは人の依頼を受けて報酬を貰ったり、魔族が作り出した地下迷宮に潜ったりして稼いでいる連中のことだ」
「へえ~……って、もしかしてオルって魔族?」
「まあそうだな。悪魔王っていう魔族だ」
「悪魔王……」
「話しを戻すぜ。地下迷宮には地下迷宮を作った魔族……迷宮主が魔物を作り出して金銀財宝を餌に利益を得るってわけだ」
「利益?」
「迷宮主によって利益は違うな。普通の場合だったら冒険者の懐にある金だな」
「ず、随分と現実的な答えだね」
「まあな。金があれば贅沢出来るし、何より俺達魔族は食事は取らなくてもいい」
「そうなの!?」
「といっても味覚はあるからストレス発散に食事を取ることはあるがな。俺なんかは美食家だから今みたいに人間に化けて冒険者活動をして人間の飯でも食っていたもんだよ。おかげで人間達の文化もよくわかるようになったぜ」
優はそれを聞いて納得した。オルフェウスは人間の文化に触れてここまで詳しくなったかということを……
「それじゃこの世界の食べ物なんか食べない?奢るけど……」
「是非ともいただこう」
即答だった。平民が恵まれているのならその食事も美味いと確信していてのことだった。
「美味い……!」
オルフェウス達はハンバーガーチェーン店に入ると優は照り焼きバーガーのセットと安物のハンバーガーを幾つか注文してオルフェウスと共に食べていた。
「ね? うまいでしょ? オル」
優はそういってオルフェウスに尋ね満足げに微笑む。
「ああ…今まで食べてきたものが不味くなるくらい美味い。特にこの照り焼きバーガーは俺が食ってきた中でも特にそうだ」
オルフェウスは魔族である。先ほども説明したが魔族は食事を必要としないが味覚はある。味覚を堪能するために食事を取る。そうでもしなければストレスが溜まるのだ。だがそのストレスも照り焼きバーガーによって一気に吹き飛んだ。
「やっぱり? 私も好きなんだ~」
「そうか。是非ともまた食べてみたいものだな……」
オルフェウスは照り焼きバーガーを味わい、ゆっくりと食べた。
「(照り焼きバーガーの魅力に勝てない人はやっぱりいないよね…ふふふ。)」
優は照り焼きバーガー信者であり、友達にも照り焼きバーガーの魅力を教えてきた。だが学生にとって照り焼きバーガーは高く、そこまでして食べるくらいなら安物のハンバーガーを買う方がいいと言われてしまい最近では照り焼きバーガーを食べるのは優だけだ。そんな優に仲間が増えて嬉しかったのかもしれない。
「ふぅ……美味かったぜ。次はどんなところに行くんだ?」
二人は満足げに店を出るとオルフェウスはそういって優に期待していた。それだけ照り焼きバーガーが美味かったと感じているのだ。
「ん~それじゃ、ネカフェに行く?」
優は少しオタク気味な部分があり、ネカフェに寄ってアニメや漫画などを見たりする趣味があった。オルフェウスにタメ口を聞けたのもこれに理由がある。
「ネカフェ? なんだそれは?」
「ネットカフェ、略してネカフェ。隣にあるから行ってみればわかるよ!」
「そうか……」
二人がすぐそばのネカフェに入ると優はオルフェウスにどんなものがあるか説明した。
「ネカフェは色々な娯楽品があるよ。例えばあそこの漫画。あれは絵とセリフが同時進行で書かれている本だよ」
漫画コーナーと書かれた部分を指差すと優は少しハイテンション気味に説明した。
「む? 小説とは違うのか? 小説にもセリフや絵はあるが…」
「まあ見てみればわかるよ。これなんかどうかな?」
優はそういって漫画を取り出して読ませようとするが…
「そういえば……俺日本語読めねえんだった」
そう、オルフェウスは日本語を読めない。この事に気がついたのは定期券を見せられた時で確信したのは地上に出た時だ。それにも関わらずオルフェウスと優は何故か意思疎通が出来ることに疑問に持ち、考えた結果オルフェウスは日本語をオルフェウスが話す言葉である魔族語に、オルフェウスが話す魔族語は日本語に変換させられるようになっていたのではないかと推測した。
「あ……そうだった。それじゃDVDコーナーでアニメでも見よっ!」
優はそれをフォローするために新しく提案してアニメを見るようにした。
「DVD? アニメ?」
しかしまた新しい単語にオルフェウスは戸惑うばかりだ。それだけオルフェウスの世界と日本は違う。
「DVDはあそこにある機械を使って見るもの。アニメはそうだね……漫画に色と声が付いて動くものかな」
優がアニメを勧めたのはドラマよりもアニメの方が漫画を原作にしている作品が数多くあると理解していたからだ。
「なるほど……漫画じゃ分からなかったものがわかる訳だな」
オルフェウスは優の解釈通りに解釈して優に親指を立てた。ここら辺はあまり変わりない文化なのかもしれない。
「そう。日本はアニメ大国で世界でもダントツにシェアが大きいんだよ。外国人が日本語を勉強する時なんかにも使われるくらいだからねー」
「よし、早速見よう」
それを聞いたオルフェウスはすぐさま席に着いた。こうしてオルフェウスのアニメ鑑賞会が始まった。
「このセリフこんなのだったのか……」
オルフェウスはアニメを見ながら日本語を着実に理解していった。
「そうそう。でここはね……」
優もオルフェウスの日本語習得に協力して漫画を自力で見させようとした。優とて日本人だ。日本のものが褒められば嬉しいに決まっている。少しでも日本の文化に馴染んで貰おうと日本語を覚えさせるのは無理なかった。
とはいえ流石に漢字を読み書きするまでには至らなかったが平仮名や片仮名を読み書きする程度まで日本語が出来るようになった。
「それじゃもう暗いし、今日はもうおしまいだね」
そんなこんなで日が没し、星空が見える青い空となった。
「そうだな……今日の礼だ。受け取れ」
オルフェウスは白金貨…所謂プラチナでできた貨幣を取り出し優の手に渡した。
「うんありがとう……また今度遊ぼうね。私も今日楽しかったよ」
ここでだがプラチナはオルフェウスの世界、地球ともに高価な金属であるがあまりにも希少過ぎてどんなものか一般人ではわからない。金は色がわかりやすいがプラチナは銀やアルミニウムに似ている。そのため優は純度100%のプラチナが自分の前にあるとは思えなかったのだ。もしも優がプラチナで出来たものだと気付いていたら受け取らなかったのかもしれない。
「わかった。じゃあまたな。地下迷宮が出来たら報告するぜ」
オルフェウスはそういってマンホールの蓋を開けて地下迷宮の中に潜り込んだ。
その後、天谷家では優が持ってきた白金貨がプラチナだとわかり大騒ぎになったのは余談だ。