地下 来日
日本に異世界人が来日することはあってもダンジョンは来日しないので書いて見ました!
魔王城。それは文字通り魔王が住む城で歴代の魔王によってデザインが変わる。その主な理由は魔王が先代のよりも威圧感を与えようとしたり、先代のことを忘れさせようとするアピールであるが今代の魔王オルフェウスは5日前から魔王となりそんなことをする暇はなかった。
そしてその先代のデザインのままの魔王城にいる人間年齢15歳ほどの少年が書類仕事をしていた。
「つまらん!」
オルフェウスは机を叩き壊しぶん投げると魔法障壁があるはずの魔王城の壁をぶち壊し、その机は星空へと消えた。
この少年こそが現代の魔王オルフェウスである。歴代の魔王達が若くとも300歳、一番年を取っていた先代ですら3000歳なのに彼は143歳と歴代の魔王よりも若い……それどころかまだ子供である。確かに人間からして143歳も生きていれば十分生きていると言われるが魔族からしてみれば200歳程度で成人を迎えるので充分若いと言える。
成人してすらいない彼が魔王になれた理由は彼が強すぎたからだ。彼は先日までは一介の魔族である悪魔将軍だったが歴代最強と呼ばれた先代魔王ギアロードを秒殺してしまった。しかもギアロードを倒したため進化して悪魔王となり魔王の称号を得た。
しかしそんな彼はかなり多忙になってしまった。何故なら書類仕事が余りにも多いのだ。ギアロードを倒す時に使った魔法の処理、魔王就任の処理、処理、処理、処理! とにかく処理が余りにも多い。
始めは黙々とやっていたが100枚やっても全然終わらない…その量にキレてしまい現在にいたる。
「あ~あ~……先週までは良かったよな自由で」
机がなくなるとオルフェウスは椅子に座り、壁が壊れて空いた穴をじっと見つめて現実逃避を始めた。彼とてまだまだ遊びたい年頃なのだ。元々魔王になろうとしたのも遊びたい放題だと思ったからだ。しかし実際はブラック企業も真っ青の労働環境である。昨日などは書類の魔物が抵抗すらも許さずオルフェウスを殺した夢を見たくらいだ。そのくらいブラックな環境に子供が耐えきれるはずがなかった。オルフェウスは自由になるにはどうするかを考えるとふと思い出す。
「そうだ! 地下迷宮を創ろう」
地下迷宮を創ってしまえば書類仕事はほとんどなくなるし、何よりも侵入者撃退の報告が楽になる。それなら何故歴代の魔王達は魔王城など作ったのかが気になるがオルフェウスはそんなことを考えるまでもないと判断して魔王城の宝物庫からほとんどのものを八つ当たり気味にかっぱらい、魔法道具の迷宮建築も取った。
魔法道具は魔法の力を使い、様々な現象を生み出す道具で迷宮建築は魔力を通すことでどんな迷宮かを設定し創造する道具だ。そのため魔力を通す者によって個性が浮き出る。
オルフェウスは魔王城から抜け出し、誰もいない荒野に来ていた。
「出でよ! 地下迷宮!!」
迷宮建築に魔力を通して迷宮を創り、中に入るとオルフェウスは感心する。彼自身も初めてこの道具を使うのだ。
すると地面に穴が開き、地面が揺れる。しばらく経つと地面の揺れは収まり、オルフェウスは財宝を中へと入れ、自身のその中への入る。
「中々俺らしい所じゃねえか。ん?」
オルフェウスが感心してみていると目に止まったのは文字が書かれている石板だった。
「こりゃ魔法石板じゃねえか。なんでこんな所に?」
魔法石板とは太古の時代にとある魔法使いが開発した黒板みたいなもので魔力を込めて書かなければ書けない石板だ。
オルフェウスはそれを詳しく見るととある部分だけ空白だった。その空白の上を見ると何か文字が書かれておりオルフェウスはそれを読んだ。
「えーと何々……【迷宮の名称と階数、場所の設定をします。この石板の空白部分に横書きで迷宮名、階数、場所の順で記入してください。なお迷宮名は後でも変更できます。】だと?面倒なことをしてくれやがるぜ。迷宮の名前は俺の名前にちなんでフェウスの洞穴でいいだろ。階数は1万と書きたいが怪しまれないように地下100階だな。場所は魔王城から近いと部下どもに捕まる可能性も否定出来ないしな。どっか遠い場所とでも書いとくか」
ブツブツ言いつつもカリカリと音を立て自分の爪で記入し終えると石板から記入しろの部分が消えて代わりに【記入完了しました。迷宮を創ります。しばらくお待ちください】と書かれ、揺れが起こった。
「どんな迷宮になったか楽しみだ。くくく……」
そして石板の文字が代わり、石板にはオルフェウスの世界文字でこう書かれていた。
【迷宮名 フェウスの洞穴】
【迷宮主 オルフェウス】
【階数 地下100】
【場所 日本国内のマンホールの下】
【魔物 ナシ】
【報酬 未設定】
オルフェウスは日本国という言葉が気になり、余程の小国なのか、あるいはギアロードが産まれる前、太古に存在した国なのか訳が分からず首を傾げた。
「場所を適当に設定しすぎたか? まあいい、外に出たらわかる話だ。」
しばらく考え、オルフェウスは迷宮から出ようとした。
「……? 妙だな。こんな鉄の蓋は設定していないはずだ」
その蓋は鉄で出来ており丸く、一般人が持つにしては重いと感じるくらいだ。その上チェーンもあり上から入るには障害となるだろう。
「よっ……!」
だがオルフェウスには何の問題もない。オルフェウスはチェーンを千切り、二度と戻らないようにすると蓋を押して地下迷宮から出るとオルフェウスが見たのは別世界だった。
「なんだこりゃ……?」
蓋の周りにあったのは石の壁に完璧なまでに舗装された石らしき道、オルフェウスの目線の先の石の道を走る鉄の塊、大きさこそ魔王城には及ばないが貴族級の質の家がゴロゴロある。どう考えても異常だった。
「……」
オルフェウスは目の前にある蓋をそっと閉じ、地下迷宮へと潜った。
オルフェウスはこれまでの経験上、色々な幻術を見せられたがあれは間違いなく本物だった。
「おいおい……冗談じゃねえぞ? 異世界なんてよ」
それ故にオルフェウスは異世界だと理解してしまった。オルフェウスは若いが頭が柔軟である。そうでもなければ歴代最強の魔王を倒すには無理がありすぎる。
オルフェウスは魔法石板を何度も確認するが
【場所 日本国内のマンホールの下】
と書かれていた。
「くそ!こうなったら書き直すまでだ!」
オルフェウスが爪を立てその部分だけを削る。
【場所 日本国内のマンホールの下】
しかしオルフェウスの努力も虚しく何度もやってもそのままだった。
「うがぁーっ!!」
オルフェウスは魔王であるがそれ以前に子供である。それ故に石板に八つ当たりとして何度も蹴飛ばすが何の意味もなさなかった。
「ならば転移魔法だ!」
オルフェウスは魔法陣を作り出しせめて自分だけでも元の場所に戻ろうと考えるが失敗した。
「くそ!!」
オルフェウスは舌を打ち、冷静になり考える。
「もともとあの書類が嫌でここに来たんだ。贅沢など言ってられんな。あの書類の量に比べればここが異世界など大したことはない。むしろ好都合だ。明日考えよう」
オルフェウスは諦め、地下へと潜り、熟睡してしまった。
数年後…地下迷宮ブームが起こり資格すらも出来ることは誰も予測出来なかった。