七話
親愛なるウラへ。
元気にしているだろうか。風邪は引いていないだろうか。
私はとても心配だ。
君がこの本を読んでいるという事は、私はもうこの世界にはいないのだろう。
何たってこの本は私の遺書。
私が死ぬ時、この本は初めて出来上がるものなのだから。
ちょっと話がずれてしまったようだ。
私はこの場を借りて、君に伝えたいことがあるんだ。
君に私の知っていることを全て教えてあげよう。
この世界のことも、君のことも。
今まで黙っていて、すまなかったね。
悪いとは思っているよ。
でも話す時間さえも神は与えてくれなかった。
だからこの場で君に教えてあげよう。
この世界は危険だ。
この世界にいては駄目だ。
この世界には魔物が潜んでいると言われている。
その魔物が目覚める前にこの森から出るんだ。
君なら分かるだろう。これは大切なことなんだ。
ずっと昔、この森もあの世界と繋がっていた。
しかし魔物によってあの世界とは離れてしまい、この森に住んでいた人々は元の世界に帰れなくなった。
残された人々は必死に生きようとしていた。けれど、魔物がやってきてしまった。
その魔物はこの森に残された人々を一人残らず食べてしまった。
魔物は食べるものが尽きて、消滅した。
しかし、今、まさに魔物は目覚めようとしている。
一刻も早くこの森から出なさい。
ウラ、これだけが私の願いだ。
君の幸福を願おう。
そして君は大きな鍵を握っている。
この森は君にかかっているんだ。
生き延びてくれ、ウラ。
何をしてでも、どんな手を使っても、だ。
信じているよ。
そこでこの本は終わっていた。
そう思って、次のページを捲る。
しかし、やはり終わりのようだった。
でもどこかがおかしい。
まるで破り取られたような跡が残っていた。
「ここで終わりじゃないのか……?」
ウラという人がこの森の鍵を握っている?
この森とはきっと、僕が今いるこの森のことなのだと勝手に予想する。
この森に人がいないのは魔物に食べられてしまったからだ。
そう考えれば何となく理解できそうな気がしたのだ。
しかし、何とも現実味の無い本だと思う。
僕はこんなの信じない。
もしこの本を書いた人の仮説(これを仮説としよう)があっているのならば、この森には一人も人間がいないはずだ。
しかし、いるではないか。
概に、ここに住んでいる。
僕より前に迷ってきたと言っていた。
しかし、この森のことを教えてくれる人などいなかったはずだ。
今の状況を一人で理解できるとは思えない。
彼女は。リズは。どうやってこの森のことを知ったのだろう。
元々この森にいたのではないか。
しかし、どの仮説も本のように納得のいく答えは出せなかった。
何かが引っかかってしまうのだ。
この難題を解けるのはただ一人なのだろう。