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六話

僕はリズに言われた通りの順番で口に運んだ。

リズの作ったご飯は凄く美味しかった。


将来は良いお嫁さんになるのだろうと思う。


「美味しかった。ご馳走様。」


手を合わせて、食事を終える。


「良かった。ねぇ、空太。」


部屋に戻ろうとした僕を、リズは突然呼び止めた。

その目はどこか行き場のない感情を抑え込んでいるようだった。

恥ずかしそうに、リズは僕に近付く。


「お遣いに行くから留守番を頼んでもいいかな?」


「あ、うん。いいよ。」


笑顔でそう答えた僕に、申し難そうにリズは目を逸らす。

一体どうしたのだろう。


「だからね、その……。行ってきますの……。」


行ってきますの……?

リズはその先を言わずに口ごもる。

僕はこういう事には鈍感なのか、全くリズの心情が分からなかった。


首を傾げていると、リズは意を決したように僕に近付く。

顔が近くになって、僕らの距離はなくなった。



「これが、したかったの。それじゃあ行ってきます。」


半ば逃げるようにして、リズは出て行ってしまった。

一瞬何が起こったのか理解出来ずに突っ立っていた。

我に返った時、僕はリズとキスをしたのだと理解した。


リズだって普通の女の子なのだろう。

少女漫画やドラマで見るような華やかな新婚生活のようなものを夢見るのは悪いことではない。


僕はただ、その感触を忘れられなくて感傷に浸る。

リズを愛さなければいけない、という使命感はもうなかった。


僕は最初からリズの玩具(とりこ)になっていたのだ。


リズも同じ気持ちなのだろうか。

それとも、愛を感じる為だけの行動なのだろうか。

僕の心は多分リズに向き始めていた。

愛おしいあの妖精が飛び立っていかないように。

そう願うだけだった。



部屋へ戻る途中に、一つの扉が目に入った。

こんなところにも部屋があったのだろうか。


「何があるんだろう。」


僕は興味本位でその扉を開けて中に入った。

そこにはたくさんの本が並べてある本棚があった。

辺り一面本ばかり。

まるで図書館みたいだ。


何の本があるのだろう、と一冊の本を手に取った。

そこには『ウラ』と書いてある。

どうやら『ウラ』というタイトルらしい。

変わったタイトルだ、と思ってその本を開いた。


「親愛なるウラへ。この本を送る……?」


一枚開いたページにはそれだけが書かれていた。

『ウラ』とは、『裏』ではなく『ウラ』という人物の名前だったのか。

イントネーションを変えて、僕はまたその文を読み直した。



この時はまだ知らなかった。

この本には重大な秘密があることを。

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