五話
愛を頂戴。
リズは確かにそう言った。
愛をどうやってあげるのと言うのだ。
「本当に愛さなくていい。ただ、愛を知りたいの。それがさっきの御代。」
リズを愛する?
僕がリズを愛すことでさっきのお返しになる?
「分かった……。愛をあげる。」
僕はそれがどんな事が、深く考えずに返事をした。
愛をあげる術など知らずに。
何て表現したらいいのだろう。
僕は後先考えない性格なのかもしれない。
大切な判断を誤ってしまったのだと気付いたのは、もっと後になってからだった。
「おはよう。」
目を擦りながらベッドから降りる。
まだ頭が冴えない。
いつもと変わりなく、誰かに挨拶をして僕が体を起こした。
いつもは返ってこない声。
でも今日は、聞こえた。
「おはよう!」
元気な声だった。
その一声で、僕は朝なのだと知った。
こんなにも幸せなことがあるのか。
おはようと独りでに呟いた挨拶が返ってきたことが、何より嬉しいことだった。
「朝ご飯出来てるよ。飲み物はミルクとコーヒー、どっちがいい?」
僕は、机に並べられた色とりどりの野菜のサラダや、焼けたばかりのパン、ふわふわのスクランブルエッグを見て「コーヒーかな。」と返事をした。
「はーい。あ、すぐ注ぐから先に座ってて。」
僕は言われたとおりに、席に着く。
こんなに素敵な朝食を食べたことはない。
見ているだけでお腹が空いてきた。
朝ご飯など誰も作ってくれないから、自分で作るのは面倒。
それに時間の無駄だと思っていた。
いつも朝食を抜いて学校や仕事に行っていた。
だから朝はあまりお腹は空かなくなっていたはずなのに、今の僕はとてもお腹が空いていた。
グゥゥーッとお腹を鳴らす。
「お腹空いてるのね。さあ、召し上がれ。」
クスリと笑って、リズは僕の前にコーヒーを置くと手を合わせた。
そして声を揃えて「いただきます」と言った。
リズは綺麗で、優しくて、素敵な女性だと思う。
誰もが羨む美女だ。
そんな彼女の傍に僕がいてもいいのだろうか。
ふと、僕は悩んでいた。
僕が愛しても良い女性なのだろうか。
こんな幸せなことってあるのだろうか。
「どうしたの?
ボーッとして。」
「いや、何でもない。いただきます……。」
2度目の合掌をして、止めていた手を動かした。
口にスクランブルエッグを入れようとした瞬間、手を止められる。
「まずはサラダから食べて。食べ方にも順序があるの。まずは汁物、次に副菜、そして主菜、最後に主食。」
「何か関係あるの?
リズのこだわり?」
「この順序で食べるとお腹一杯になるから、太りにくいの。一緒に住んでいるうちは空太にも健康でいてほしいから……。」
そう言って、リズは笑った。