四話
何故彼女が溜息をついたのか、僕は首を傾げるばかりで理解できていなかった。
だから単純に、第一印象を口にした。
「綺麗、だと思いました。妖精のようだ、と。」
「そう……。妖精だなんて大袈裟ね。でも嫌いじゃないわ。」
リズは傍にあった椅子に腰掛けて、昔話を話す時のように遠い目をしている。
「私はこの容姿が嫌いなの。だからこの森から出たくは無い。
ごめんなさいね、私は空太君とは違うの。迷ってこの森に入ったんじゃない。」
リズは息を整えて、僕と目を合わせた。
そして静かに口を開いた。
「自分の意思でこの森に迷い込んだ。この森はね、迷い込んだら二度と出れないの。」
「じゃあ僕は……。」
「ここで一生を終える、それしかないわ。」
妹は、どうなるのだろう。
僕は妹を見捨てたことになるのだろうか。
「駄目だ! 僕は戻らなきゃいけない。どうしても戻らなくては……。」
「どうして? 空太君、あなたはあの世界が嫌いなんでしょう?」
そのリズの言葉に、僕は頭を殴られたような衝撃を受けた。
嫌い、なんでしょう。
確かに間違っていない。
僕はあの世界から、あの社会という名の檻から逃げ出したかった。
そうだ。少しだけ思い出した。
僕はあの世界から逃げるために会社を無断で休んで、車に乗って彷徨っていた。
行く当ても無く、ただ進み続けていた。
そこで、僕を呼ぶ声が聞こえたんだ。
『こっちだよ。』って。
「君が、リズが……ここへ呼んだのか?」
「何のこと? 私はただ散歩をしていて、迷っていた空太君をここへ連れて来た。それだけよ。」
違うとしたら、僕をここへ呼んだのは一体誰なんだ?
今の所、リズにしか出会っていない。
「この森はね、あの世界から逃げたいと思った人間しか迷えない森なの。だからこれは運命なのかも。ねぇ、空太君……私と一緒にここで暮らしましょう?」
ここで、暮らす……?
こんな美女に誘われたら、誰でも断れないだろう。
しかし、今の僕はそんなことをやっている暇ではない。
「でも僕は、家に帰らなきゃ……。」
「空太君……。そっか。初めてのお客様だったのに……。」
そういえば、さっきからお客様って……。
何のことなのだろう?
「あの、お客様って……?」
「あぁ、それはね! 私ここでお店をやってるの。小さなカフェなんだけどね、この通り、人が全然いないんだ。」
カフェ、ということはさっきの林檎ジュースもアップルパイも売り物だったのだろうか。
僕はポケットの中を探った。
やはり、空っぽだ。
「ごめん、僕……お金が……。」
「いいのいいの。お金なんていらないの。その代わりにね、空太君にはあることをお願いしたいんだ。」
「あること?」
リズは満面の笑みで頷く。
「私に愛を頂戴。」