三話
熱々のアップルパイを頬張る僕に、彼女は問う。
「お味はどうですか? 今回は上手く出来たと思うんですが……。」
「美味しいです! しつこくない甘さで、何個食べても飽きませんね。」
「それは良かった。」
頬杖をついて、彼女はそんな僕を見つめた。
その視線にドキリとした。
そこで改めて彼女の容姿を見た。
なんて美しい顔立ちをしているのだろう。
長い睫毛に、綺麗な瞳。
今まで出会ったことのない美しい容姿をしていた。
「あの……一つ、お尋ねしたいのですが。」
「敬語はやめてください。あまり年も変わらないようですし、ここでは初めてのお客様だから仲良くなりたいんです。」
「し、失礼ですが……お幾つで?」
女性に年齢を聞くのはあまり良くない、いや良くないことなのは承知の上だ。
しかし年齢も知らずに敬語をやめると言うのは、少し気が引ける。
彼女の歳次第、ということだ。
「今年で20歳になります。」
僕より一つ年上だ。
しかしあまり差がないのは確かだ。
「あなたもそのくらいでしょう? だから、敬語はなし! ね?」
「は、はい!」
その無邪気な笑顔に、胸を打たれた。
年上だというのに、何て子供のように無邪気に笑うんだろう。
「あなた、と呼ぶのもおかしいかな。良ければお名前を教えてください。」
その一言で、僕の脳裏にある場面が浮かんだ。
『それでは、番号と名前をどうぞ。』
『は、はい! 34番、東雲 空太です』
緊張しながら、面接官を前にそう名乗った。
あれは、あの会社の面接の場面だ。
今でも鮮明に覚えている。
「……どうかした?」
「い、いえ。何でもないです! じゃなかった……何でもない! 東雲 空太と申します。」
僕の名前を聞いて、彼女はにっこりと微笑んだ。
「まぁ、何て綺麗な名前でしょう。素敵ね! 私の名前はリズ。宜しくね、空君。」
「この国の人、ではないですよね。」
その問いに、リズは頬を膨らませて僕のおでこに刺激を与えた。
俗に言うデコピンをされた。
「駄目駄目、敬語になってるよ?」
「あ、そうだった。それじゃあ改めて……ハーフ?」
今度は僕の問いに応えるように、頷いてくれた。
「ヨーロッパの血が混ざってるの。ほら、純血ではないでしょう?」
見た目、という意味だろうか。
確かにこの国の人ではないのだろう。
髪は染めているようにも見えない、綺麗な色をしているし、瞳だってコンタクトではなさそうだ。
「あなたは私の容姿、どう思う?」
突然の問いに、僕は首を傾げた。
どうしてそんなことを聞くのか。
リズは、静かにため息をついた。