二話
単に美しい女性がそこにいたから驚いたのではない。
確かに、その美しさは異様だ。
人形のような、はっきりとしていて、造られたような美しい顔立ち。
妖精のようなか弱さが、僕の目を引いた。
しかし、この驚きそれだけではない。
僕以外にここに人間はいないとばかり、思っていたのだ。
いるとしたら動物くらいだろう、と勝手に思い込んでいた。
こんな森に人がいたことが驚きだったのだ。
これで助かった、と思った。
「どうかしましたか? 私で良ければお力になりますよ。」
ニッコリと微笑んだ彼女は、僕を見つめて答えを待っている。
僕はハッとして我に返った。
「どうやら道に迷ってしまったようで。」
「あなたも、ですか。」
「ということはあなたも?」
他にも迷った人がいたのだと思い、心の底から喜んだ。
しかし、それはたった一瞬の出来事だった。
「そうですね……。まあ、そんなところでしょうか。」
顔を顰めて、彼女は僕の問いに応えた。
何とも曖昧な返事であった。
「ここは暑い。良ければうちへご案内しましょう。」
「それは有難い。」
連られるがまま、僕は森の奥へと進んでいった。
ここがどこなのか、彼女は知っているのか。
ただ何も言わずに、彼女の足跡を追っていく。
気付けば、先程の景色とは一変した場所にいた。
「私の家はあれです。」
可愛らしい木造住宅だった。
それ程小さくはないが、隠れ家のような家だった。
「どうぞ。少し待っててくださいね。」
僕は喉が渇いて声が出なかったため、無言で頷いた。
涼しい風が頬を撫でた。
エアコンなど見当たらないのに、何故これ程まで涼しいと感じるのか。
ここは余程風通しが良い場所なのか。
「庭で採れた林檎から絞ったジュースなんです。どうぞ召し上がれ。」
新鮮ですよ、と微笑みながら僕にコップを差し出す。
林檎の甘味が口いっぱいに広がった。
林檎独特の酸味もあるが、甘味と調和して程良い甘さに感じた。
しつこくなくスッキリとした後味。
初めての味に、僕は思わず「美味しい!」と声を上げた。
「それは良かったです! あ、そうだ。」
彼女は何かを思い出したように手を叩き、どこかへ行ってしまった。
姿を消したかと思えば、両手に何かを抱えて戻ってきた。
ほんのりと甘い、食欲をそそる匂いだ。
「段々体も冷えてきたでしょう。焼きたてのアップルパイでもどうですか?」
僕は食欲に負けて、唾液をゴクリと飲み込んで頷いた。