表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

◆第一章 一話




永遠にここからは出られないのではないか。

僕は途方に暮れていた。


見渡しても見渡しても目に付くのは一面の緑。

鳥の鳴き声。

暑苦しくて嫌になる程、耳を(つんざ)くような蝉の鳴き声が響いている。

汗を拭い止めていた足を動かし始める。


どうしてこんな事になってしまったのだろう。

本来ならば、新社会人として会社で働いているはずだった。

高校を卒業してすぐに職に就いた。

特にこれから学びたい事などなかったし、早く自立してあの家から逃げ出したかったのが本音だ。


怯えるだけのあの家から。

母親と父親が毎日のように喧嘩を繰り返し、その被害は僕らにも及ぶようになった。

喧嘩の原因はいつも些細なことだ。


姉も兄も、既に就職していてあの家にはいない。

あの家にいるのはまだ高校生だった僕と、今度高校生になる妹だけだった。

妹を一人、あの家に置いておくのは気が引けるが、僕が働いてお金を貯めて助け出す。それが僕の就職の理由で、社会への期待だった。


僕は何かに甘えていたのだ。

何か弱みになるようなものを持っていれば、きっと社会は僕を助けてくれる。

そう、心のどこかで思っていたのかもしれない。



けれど、半年前に抱いていた期待が跡形もなく消え去った。


無駄に期待を抱きすぎていたのだ。

現実はそれほど甘くはなかった。


その結果、僕は今に至る。


入社式から一週間が過ぎて間もないというのに、早速僕は逃げ出してしまった。

あの会社を選んだのがミスだったのか。

僕には合わなかった、などと言い訳をするのは都合が良すぎるのだと思う。

それでも合わなかった。


例えあの会社でなくとも、きっと僕は社会で生きていく事が出来ない人間なのだと痛感した。

現実はそんなに甘くはない。



「はぁ……はぁ……。」


息が切れる。

もうそろそろ体力の限界か。

歩くだけでも辛いのに、暑さで更に体力が奪われていく。


今頃、会社でパソコンと向き合ってキーボードを打っているはずじゃなかったか。

どうしてこんな森の中にいるのか、どうやってここまで来たのか、何も覚えていない。



「喉が……乾いたな。」


どこかに水はないのだろうか。

このままではここで息絶えてしまう。

残された妹はどうなってしまうのか、考えるだけで寒気がした。


僕しかいない。

そうは分かっているのに。




「何かお探しですか?」


「えっ……?」



透き通るような声がその場でこだました。

そこにいたのは、何とも美しい女性だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ