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春夏秋冬短編小説  作者: 夕夜鶴
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春5月16日の話(前編)

桜も散り始め、葉桜へと変わってきた。今年高校生になった私早川美希は、まだ新しい環境に慣れなかった。高校には一人も同じ中学校の人が居なくて、親しい友人も出来ずにいて、グループを作る時も、どちらかというと一人余ったりする時が多かった。

正直、学校が辛い。そう思うことも少なからずあった。中学校に戻りたいと思うこともあった。そんな事を思っている時、私はある人と出会ったのだ。

それは5月8日の事いつものように私はため息をつきながら、学校を目指して登校していた。

「はあ〜行きたくないわけじゃないけど、正直あまり楽しいわけでもないんだよなー」

そう私は俯きながら呟いた。親からは「学校には慣れた?」とか「一人になっていない?」などと毎日聞かれた。私はその度に「大丈夫」と言って、親に自分の悩みを打ち明けられずにいた。どうしたものだろうか。何かこう今の状況を変える決定的な出会いはないだろうか?と少女漫画のような馬鹿な妄想を膨らませていた。そんな事を考えていると、ふと公園が目に入った。その公園は私が高校生になってから通学路で通るそれくらいのものだった。私はなんとなくその公園に入ってみた。ブランコ、シーソー、ジャングルジムとたくさんの遊具が並んでいる。その遊具達はたくさんの傷やサビがあって、かなり前からあるものだと連想出来た。そんな事を考えていると、ベンチに一人の男性が座っていることに気がついた。その男性を見てみると、和服を着ていて、とても古そうな本を読んでいる。顔立ちは整っていて、本に送る眼差しは実に暖かそうだ。私がじっとその男性を見ていると、私の視線に気がついたのか、本に向けていた眼差しをこちらに向けてくる。その顔は、きょとんとしていた。

私は、その優しい視線から目が離せず、ただ呆然としていた。

「僕の顔に何かついていますか?」

と、男性は苦笑いを浮かべながら、そう問いかけてくる。

その言葉で私は我にかえる。

「あ、いえ!?そのなんの本を読んでいるのかなあ〜と思いまして」

と私は誤魔化す。

そう言うと、男性は微笑み、

「この本ですか?」

と、古い本を私の目の前に見せてくる。やはりその本はとても古く、少し力をいれただけで破れそうな本だった。

「どうぞ」

と言い、男性は古い本を差し出してくる。

「ええ!?いやこんな高そうな本触れません!」

私は両手を振って触れないアピールをする。事実ここら辺では買えないような本だったため、万が一のことがあった時、たいへんである。

「まあまあ読んでみてくださいよ」

そう言って押し付ける形で、私に本を渡してきた。

「うう〜、、、」

と私は呻きながら表紙を見る。表紙には『幸福の本』と書かれている。随分胡散臭い本だと思った。私は1ページめくる。

『私はとても幸せだ。桜を見ることができる目がある。春の香りを嗅ぐ鼻がある。手を握ったときの感触が感じられる。声を聞ける耳がある。食べたものの味を感じられる。平凡であることの幸せ。それはとても感じにくい。だけれども幸せと感じられれば、きっと幸せは広がっていく。他人に評価されるようになる。好きなものをもっと好きになる。『友達を作ることができる』人を愛することができる。私はそう思う。めげずに頑張って行くべきだと誰にも替えられない自分の人生を作って行くように努力したい。』

「・・・この本、借りてもいいですか?」

と、私は自然に声を出してしまっていた。男性はニコリと笑い、

「構いませんよ」

と言った。

「それじゃあ、お名前を教えてもらってもいいですか?」

「ええ、、、、私の名前は桜川 琳と言います」

「いつ返せばいいですか?」

と私は問うと、

「いつでも構いません。私はいつもここにいますから」

と言った。

「それじゃあ、来週お返します」

「はい、待っていますよ」

その時の表情がとても暖かくて、私はそれじゃあと言い、学校に一目散に向かった。


学校。余りにも無機質で余りにも無感動な場所。私はそう考えることがあまりにも多かった。そんな所に私は昇降口から飛び込んで行く。玄関では集団になって、騒がしい声をあげている女子たちで群がっている。

「昨日さ〜⚪︎⚪︎なことがあってさ〜」

「嘘〜マジで!?」

なんでこんなに騒げるのだろうか?人がこんなにいると言うのに、そんなに自分の個人情報をさらけ出せるのだろうか?と、常日頃思ってしまうのだった。あまりにも隙が多すぎる。あまりにも無警戒すぎる。あまりにもやらしすぎる。あまりにもバカすぎる。あまりにもあまりにもあまりにも。

そんな事を考えていると、階段を登り終わり、私は教室の扉を開けようとしていた。この中ではこの空間の中では私は灰色でしか居られない。無関係でしか居られないとそう思いながら、扉を開いた。

挨拶をされることはない。その空間にいるものたちは、私だと言うことを確認した後、スマートフォンへと視線を戻したり、話してた友達との会話を再開する。あの柔らかな暖かい琳さんのような視線は誰からも感じられない。私は自分の席に着く。一番後ろの窓側の席だ。そこから外の風景を見る。桜の花びらが地べたに、落ちている。そんな風景を見ていると、ぽつりぽつりと雨が降ってくる。桜の花びらは茶色に変わっていき、数分経たずに、土の色へと染まって行った。ああ、私もあんな風になるのだろうか?私もいずれはあんな風に汚なくなっていくのだろうか?

そうだ。こう言う時こそ、あの本を読むべきなんじゃないだろうか?私は琳さんからもらった本を鞄から取り出す。勿論、慎重にそっとだ。

私はそっとページを開く

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