19:竜人国ルファ。
首都が完成したことにより国の形としては予定していた所まで辿り着いた事になる。
「よう。国を名乗ってそうそうお役目ごめんだって?」
「順番は逆ですけどね。」
久々に顔を見るキョウさんがワイン片手に話しかけて来た。
「望めば建国王にでもなれるだろうに。」
「それは望んでいませんし、ここはあくまで竜人国ですから。」
竜人国ルファは六つの街の代表と首都の代表が協力して治めて行く国という形を取っていて、首都の代表は国の代表をも兼ねる事にもなっている。
いわゆる国家元首というやつだ。
「竜族も人族もルイジュなら文句を言わないと思うがなぁ。」
「まぁルーファが最初の代表になるのでしばらくは手伝いますけど、キョウさんもお願いしますね?」
「わかっているさ。アルノルドの爺さんもいるしな。」
他の都市の代表と大きく違うのは、国を代表するということと、国家元首の下には国防軍と魔術研究所が存在していることがあげられる。
国防軍とは文字通り国を守る為の軍隊で、陸海空の三軍から構成される。
陸軍は人族と獣人族を中心に構成。一応一般兵と魔術兵にわかれているけれど、同じ部隊に配属されたりする。それは業務が街の警備や設備の維持管理だったり、街道の整備だったりと余り戦う事を前提としていないからであり、どちらかといえば工作兵という表現が正しいのかもしれない。
海軍は水竜達と人魚族、それに輸送船団によって構成されている。戦う船が無いのは戦力は竜族だけで充分な為で、船団は通常時は人魚族の協力の元、貿易に従事することになっている。
空軍は竜族のみ。代表はルーファのお父さんのルファルクさんで、ワイバーンやグリフォンを使った飛行騎士は存在しない。そもそも竜族を怖がってしまい一緒に飛ぶ事もおぼつかないからだ。常群は20人だけど、緊急時には竜族のネットワークを使い国家に属す竜族が集合することになっている。
正直空軍だけでどの国にも勝つ事ができる気が・・・・。
魔術研究所の名誉研究所長がアルノルドさん。本来の所長とは異なり面倒な行事とうへの参加は自由。研究内容も自由。研究所は僕の結界を使った特別な物があり、必要に応じて研究所員への協力も求めることができる。
ちなみに初代所長はカルアさん。所長になりたくないというアルノルドさんに、納得できる代わりを用意してくれるなら考えると言った所、オビリアン王国から引き抜いて来てしまった。
同盟国とはいえ、いや、同盟国だからこそ拙いと思ったのだけど、オビリアン王国からの回答は「問題無し」。ついでにエネさん達が客員研究員としてやってくる始末。
そのせいでオビリアン王国の研究所は閑古鳥が薙いでいる状態だ。
その他に相談役として竜の里の長老衆と神殿ギルドの本部長がいる。その本部長がキョウさん。以前はサラマンドラの神殿ギルドが本部だったけれど、首都が完成したのと同時に本部をこちらへと移した。それに合わせてキョウさんもやって来たのだ。
僕の立場はルーファの個人的な客ということになっているけど、未だに色々と仕事をさせられている。
ルーファの印を勝手に押す事もしばしば。
その所為か「影の王」とか「竜王」とかいわれているらしい。
僕のお気に入りは「客将」。
理由は響きがカッコ良い気がするからなんだけど、誰も呼んではくれていない。
ちょっと寂しいなぁ。
「るいじゅー。つかれたーー。」
「頑張れ。」
ルーファが人垣を抜け出して抱きついて来るけれど、華麗に躱す。
ここで捕まったら僕も人垣に囲まれてしまうのが目に見えているからね。
「こうたいは?」
「ナシ。」
「ルーファのご飯は?」
「帰ったら作ってあげる。」
「約束だよ?」
「だから行って来い。」
「はーい。」
僕に対してはこんな話し方だけどルーファも成長し、人付き合いはまともにできる様になっている。
人形でいる事が多い所為かもしれないが竜の中でも成長率が著しい。
「お待たせ致しました。」
「いえいえ。彼はルーファ殿の旦那様でしょうか?」
「いえ、色々と相談させてもらっている大切な友人です。」
「ほほう。」
ほらね。
ひとえに女神達の餌付けと秘書さんの教育のおかげだろう。見た目の美しさが多少の違和感をごまかし、知らない人が見れば立派なお姫様に見える。
そのルーファと話しているのは何処かの国の偉い人なんだろうけれど、こっちに視線を飛ばしているところをみると今のルーファの話しで興味を持ち始めたみたいだ。
「じゃ、キョウさん。僕は花でも摘んできます。」
「ん。そうか。たまにはギルドのほうにも顔を出せよ。」
「わかりました。では。」
言葉通り花を摘みに行くつもりは無いのがキョウさんには伝わった様だ。これなら他の人にも伝えてくれるだろう。
宴には充分参加したし、これ以上人に捕まる前に宴を後にする事にする。
折角表舞台の面倒事から逃れる事ができたんだ。
目立たず静かに過ごしたい。
おっと。お土産として料理をいくつか空間収納にしまっておく事も忘れずにね。
建国の宴を抜け出して気配を探る。
「今日はこっちに来ているのか。」
気配は簡単に見付ける事ができた。
数は4つ。土産に貰った料理では足りないかもしれないので道すがらお酒と共に買い足して行こう。
政庁から大通りを進むと、やがて神殿ギルド本部が収まっている神殿が見えて来た。
神殿の前にある広場には屋台が多く建ち並んでいるので、そこで軽く買い物をして路地へと入る。
路地をいくつか曲がり辿り着いたのは一軒の家。
周囲は他の住宅に囲まれているけど、それらの家に扉は無い。そして点在する窓のいずれにも灯がともっているけど、カーテン等は無く中は丸見え。そのおかげで人が居無い事もわかる。
こうなると、この家を見ようと思ったら周囲の住宅の屋根の上か空を飛ばないと見る事ができないだろう。
それに見ても何故こんな所に家が在るのかと思うだけだと思う。家自体、周りと比較しても特に違いは無く、あえて言うならば少し小さいくらいなのだから。もしかしたら土地が余ったので家を建てただけと思うかもしれない。
もっとも、周りの住宅は竜族達が住む家が固まっているので一般の人族が住む家に比べて庭が極端に広い。これは空軍の招集等の理由により竜族が街から飛び立つ必要が在る場合、街を壊さずに竜の姿に慣れる様にとの配慮からだ。
基本的には街の外で人形に成ってもらい、他の人間達と同じ様に街の出入りをしてもらうけれど緊急時や許可を得た者は空を飛んでの出入りが認められている。
ちなみに僕も許可持ち。理由は国賓だから。他にも重要書類を各地に届ける必要や盗賊や魔物の緊急対応をすること等、色々あるのだけど、面倒なので人にいうときは国賓だからということになっているのだ。
鍵を取り出して家へと入る。
何の変哲も無い家だ。物は片付いているし掃除も行き届いている。
タンスを開ければ洋服が入っているし、時折郵便物も届く。食料庫には常に新鮮な食べ物が並ぶ。
壁にかけられた絵を横目に玄関から居間を抜け台所へ。
念のため周りに誰も居ない事を確認して台所に面した食料庫の裏口を開く。
扉を開いても外には出ない。
それもそのはずで家の後ろには他の住宅が建っている。だからといってその住宅内に繋がっているのかと言ったらそうでも無い。そこに住む住人には知らされていないし、備え付けの暖炉や棚によって巧妙にその部屋の大きさをごまかしこの通路はできている。
秘密の通路を通り幾つもの建物を抜ける。
途中、結界が設置してあるけど気にしない。いずれも僕が設置した物だ。
直線最後にあるのはただの扉。
鍵穴はあるけれど鍵を入れる事もドアノブに触れる事もせずにしばし待つ。
「今開けるわねー。」
声と共に内側から扉が開かれた。
「ただいま。」
「お疲れさま。お風呂湧いているわよ。」
出迎えてくれたのはソールさん。
「それはありがたい。料理がいくつか入っているのでルーナさんに。」
「ええ。着替えはシルフィールドが用意していたわ。」
「後でお礼を言っておきます。」
「そうね。それがいいわ。」
空間魔法を司るルーナさんは当然空間収納術を使う事ができ、以前より熟練度が増した僕の空間魔法により彼女との共有する空間を生み出す事に成功した。
空間魔法にはこの可能性が元々備わっていたのだけど、現在空間魔法を使う人間は僕一人な為に使われていない技術なのだそうだ。
ちなみに人間以外では6大竜王の深闇竜メルティナも使う事ができるので、彼女とも共有化は済ましてある。
まぁルーナさんにかかれば共有化をしなくても相手の空間収納から物を取り出す事ができるらしいけど・・・。
「先に食べているからゆっくりと入ってらっしゃい。」
「ありがとうございます。」
彼女が向かうのは居間か台所のはずで、僕が向かうお風呂とは別の方向だ。
ソールさんと別れて一人お風呂に向かうことにする。
なんだかんだで疲れたし湯船につかってリラックスしようかね。
—ステータス—
—ルイジュ・ブラッド(18)—
契約:竜刀グアスランド(創世神、六女神、七竜)
種族:半神ハーフエルフ Lv115
職業:冒険者(B)
スキル:『無形魔法』 Lv10『光魔法』Lv10『闇魔法』Lv10『火魔法』Lv10『水魔法』Lv10『土魔法』Lv10『風魔法』Lv10『識別』Lv10『重力魔法』Lv10『空間魔法』Lv10『時間魔法』Lv10『召喚魔法』Lv10
固有スキル:『神の書庫Ver3.7』『神通信』『神の贋作』『神託』『飛行魔法』 Lv10
称号:『殉教者』『神子』『天駆ける者』『神言』『創世神の加護』『老地竜の祝福』『老地竜の弟子』『若風竜の祝福』『若風竜の友』『自然魔術を極めし者』『ダンジョン踏破者』『人を越えし者』『ダンジョン創造者』『建国者』『女神達の寵愛』




