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03:父との再会

 

 どれだけ泣いたのだろうか、泣きつかれて眠るまで泣き続けていたと思う。


 途中誰かが声をかけてくれた様だけれど顔も内容も思い出せない。


 目を開けて母を見る。やはり母は死んだのだ。綺麗な顔をして目を閉じているけれども顔色は生きている人のそれではないし、触ると冷たく体温を感じない。


 あれだけ血が流れていたのに母の顔は綺麗だ。誰かが拭いてくれたのだろうけど今更気付くなんて・・。


 涙が出そうな目で母親の顔を見続ける。



 暫くそうしていると女性が食事を持って来てくれた。

 ありがたい。どうやら僕は昨夜から何も食べていなかったらしく、心配をされた。温かいスープと優しさが体に染みる。母はいっぱい生きてと僕に願った。ならば精一杯生きてやろうと思う。その為にはまずは食事だ。生きる為には食べなければいけない。一口一口を血肉になるように噛みしめてスープを完食した。


 お礼を言って食器を返すと女性は優しく微笑んでくれた。


  


 昨夜は何が起こったのか。女性が部屋を出てから母を見ながらそんな事を考えている。


 街中、それも家の中で弓に撃たれ剣で斬られるとは異常だろう。


 考えるでも無く母親を見続けると部屋に三名の人間が入って来た。

 一人は血の付いた甲冑を身にまとい剣を下げた男性。

 一人は先程食事を届けてくれた母よりも年上であろう女性。

 一人は甲冑は着ずに剣だけを下げた青年。


 「ルイジュ君。少し話しをしても良いかい。」


 「はい。」


 「私の名前はロバート・ダージ。ここの警備を勤めている。君のお母さんを助けれ上げられなくて申し訳ない。」


 「いえ。母を運んでくれてありがとうございました。」


 彼は直に治療師を呼んでくれたし、母を助けようとしてくれた。それに彼が居なかったら僕も母と同じ運命をたどっていたに違いない。責めるのは間違っている。


 「ずいぶんとしっかりとしているね。」


 悲しくて忘れていたけれど僕はまだ三歳。まともな受け答えをし過ぎだろう。


 「無理しなくて良いのですよ。」


 「大丈夫です。」 


 その事に気付いても直す気がしないのは気持ちが落ち着いていない所為だと思う。


 「昨夜のあらましを聞きたいかい?」


 甲冑を身に着けていない青年が聞いて来た。


 「母親を無くしたばかりの子供に他に言う事はないのですか。」


 女性が気を使ってくれるけれどそれよりも話しが聞きたい。


 「聞きたいです。教えて下さい。お願いします。」


 女性は心配そうに。青年は真っすぐとこちらを見て来る。


 暫く目をそらさずに置くと青年が口を開いた。


 「良いでしょう。首謀者の名前はブラッド家第一夫人ギレーヌ。その息子で長男のフェノール。君たちを襲った犯人は金で雇われた者らしい。こちらは探しているけれど半数以上が行方知らず。」


 「それは、」

 僕が言葉を発する前に青年が続きを話す。


 「ギレーヌとフェノールは既にこの世の人では無いから復讐もできないよ。やったのは君の父親でもあるブラッド家現当主ロデス・ブラッド男爵。彼は事件しゅうげきに気付いてのち、家に居た二人を斬りその首を持って王城へと自首し、今は一室に留め置かれています。」

 

 自分の妻と息子を斬るとは何とも凄まじい世界だと思う。


 「会う気があるなら面会の許可はありますけどどうしますか?」


 「母をお願いできますか?」


 「任せて下さい。」


 優しい顔つきの女性に母をお願いして父親に会う事にする。


 「会います。」


 「では参りましょう。」


 最後に冷たくなった母の頬を撫でて青年の後に続く。

 建物の前には馬車が止まっており、乗り込むと直に出発した。


 馬車の中でも城に付いてからも必要最低限の会話しかしていない。


 案内されたのは牢ではなく城の一室。

 王様の指示で牢屋には入れられて無いそうだ。

 

 「どうぞ。」

 ノックすると直に返事があった。


 聞き覚えのある父親の声よりもいくぶんか弱い気がするのは気のせいではないだろう。

 

 父親は椅子には座らず立って僕達を出迎えた。勿論その顔には笑みなどは無いけれど、手足も縛られておらず本気で逃げようと思えば逃げられそうだ。


 「ウェルザード王子。」

 父親がその場に跪く。


 「礼は要りません。私は一法務官としてご子息をお連れしただけですから。」


 「ありがとうございます。」


 「では話しが終わりましたら声をかけて下さい。」


 そう言って王子様は部屋から出て行ってしまった。良いのだろうか。


 「王の寛大な御指示でこうしていられる。」

 

 僕の疑問を感じた父親が話しをしてくれた。


 元々一騎士でしかなかったブラッド家は祖父と父二代の活躍により男爵家の地位を与えられ、その活躍により王家の覚えは良く、また、問題を起こした家人を家長自ら断じた事を見て逃亡の恐れ無しとされた為、手足の枷も無く牢屋にも入れられていないそうだ。

 義母と兄が僕達を襲ったのは家督が僕に譲られるのではないかと不安に駆られたからで、何処からか僕が固有魔法を使えてとても優秀であると噂を聞いた為だったとか。

 そもそも父は王に頼んで家督を僕が今日初めて居る事を知った次兄に譲るつもりであったらしい。今回長男が起こした事件を見ればわかる通り明らかに考えが足りず、さらにその母親である第一夫人が色々と囁いていたので向かないと判断していたとこのとだ。

 さらに話しは続く。

 今後はおそらく家は取り潰され、父は処刑されると思われる事。僕の今後については次兄に託すつもりである事。

 楽しい話しは無かったけれど父親とこんなに話したのは初めてだったかもしれない。

 最後に准男爵の頃に人のススメで第一夫人と結婚し、苦労もかけただけに強く諌める事をせずにこうも問題を起こしてしまったこと。家督について明言を避け僕達の命が狙われ母が命を落とした事等、父親としての不甲斐無さを泣いて謝られた。

 それと母を愛していたと。

 最後に絞り出す様にして言ったその言葉で僕は父を恨む事はもうできない自分が居る。

 僕もまた母が大好きだったのだ。

 その気持ちを確認して二人して思う存分泣いた。



 父と僕の涙が止まった所でウェルザード王子を呼ぶ。


 父の罪が決まるのは一週間後。


 また話す機会はあるだろう。



爵位は物語仕様です。

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