28:甘味って・・・。
商売を初めて早3ヶ月。
引っ越しました。
例の広場に面した三階建てに。
正確に言えば2店舗目です。
この件に関しては僕の見通しが甘かったのか、イヴさんの見る目が良かったのか。
ある意味イヴさんが正しかったのだろう。
一番上の三階が住居なのは変わらない。
二階が宝飾品販売及び商談スペース。
一階が喫茶店。
どうしてこうなった?????
何が原因かと問われればルーファとリファイタさんだと思う。
6大竜の特権を使って街に降りて来たリファイタさんとルーファがお菓子片手にお茶をし始めたのがいけなかった。
リファイタさんにお茶を出した者を責める事は出来ない。
6大竜の意思>竜の里の決定>竜達ということらしいから。
それに身内感覚で僕が接していた事も良くなかったのだろう。
折しも良い天気で、裏庭にテーブルを出してソールさんの新作、栗とナッツのタルトと僕作紅茶を楽しむ二匹。そのうちに手の空いた僕とキスレさんがそこに合流。
緩やかな午後の時間が流れていた。
イヴさんが商談しに来店。
裏庭に通す様な事はせずに二階の商談スペースに案内したのだけど、僕の注意があまかったらしい。
キスレさんが残っていたタルトにお茶を添えてイヴさんに出してしまったのだ。
子供にしては気が利いたのだと思う。
けれどこのときばかりはよろしくなかった。
彼女が訪ねて来たのは宿屋組合にお茶菓子を定期納入できないかという相談と、砂糖と塩と魚の安定購入について。レシピは提供しているのだけど、オーブンの魔導具に手を出せなかったり、砂糖に手が出なかったりするらしい。
キスレさんが去った後、無言でタルトにとりかかったイヴさんの前から何故か僕は動けなくなってしまった。あれが無言の圧力というものなんだと思う。
最後の一口までじっくりと味わったイヴさんが発したのは一言。
「美味しかったわ。今まで食べたことが無いくらいに。」
食べたことが無いのは当たり前で、出した事が無かったから。
そして僕には副音声でこう聞こえた。
(「何故、内緒にしていたの?こんなに美味しい物を!」)
以下、括弧内副音声でお届けします。
「このレシピも差し上げますよ。」
「それは嬉しいわ。クッキーと同じ様に皆も喜ぶでしょうね。」
(「つまりレシピだけ?クッキーの様に作れない人が多いでしょうに。」)
「今後少しずつですがお店にも並べますので・・。」
「あら、少しなの?もっと出してくれても良いでしょうに。焼き菓子だけでもいつも売り切れなのよ?」
(「自分達で食べる分はあるのに少ししか店には出さないの?」)
「焼き菓子も増やす方向で善処します。」
「しばらくは順番待ちに泣く娘が増えそうね。」
(「今ですら私が皆を押さえているのに、まだ出し渋るの?」)
「えっと、魚の事ですけど、こちらのリストに・・。」
「あら、ありがとう。でもこのリストに先程のものは乗っていないようね。」
(「まだ話しは終わってないわよ!!!」)
そして話しが終わる頃には何故か喫茶店を出店する事になっていたのだ。
転生分と会わせれば三十路は越えているはずなのに、全く勝てる気がしなかった。だって彼女の瞳と背後に黒い炎が見えた気がしたほどだもの。
恐ろしや・・・・。
開店までは早かった。
多少の改装やテーブル等の搬入は職人達が家庭内の女性陣に急かされ、店舗の購入にはカンパが集まり、仕込みの手伝いにもボランティアが集まる始末。
終いにゃ街の入場待ちすら便宜が図られ、一刻も早い開店を求められた。
おっかないよーーーーーーーーーーー。
どうせ三階建てなら魚や素材もこちらで売ろうと思ったのだけど、これまた女性陣の大反対を受けて挫折。
魚の臭いや素材の臭いは乙女の城(イヴさんの宿の店員さん命名)に合わないし、職人達が出入りするのもよろしくないらしい。
お父さん達涙目である。
現在の従業員は僕を除いて7名。クローさんと竜族が4名、ドワーフの娘さんが2名。
クローさんは基本的に素材と魚の販売の方に回ってもらい、そこのサポートとして竜族が一名、娘さんが一人。喫茶店のホールに竜族三名。キッチンにドワーフの娘さん一人。
本来の目的を考えるとクローさんのサポートに竜族二名としたかったのだけど、喫茶店には美形が良いというイヴさんとリファイタさんの意見でこの体制に決まった。
店の休みは5日に一度。
二、三日かけて他の街へ行きたいときは要相談。という事にしているけれど、今の所そのような要望は無い。この街だけでも充分に物珍しいうえに、何処の街にも彼等は日帰りで行けてしまうからだ。
それに基本的に彼等はみな優秀で商売に関しても直に覚えてくれるし、今ではお菓子作りも任せられる。問題があるとすれば食費がかかる事と、オリジナルレシピを作らせると変な物が出て来るという事。
生肉のケーキっていう発想、僕にはなかったわー。
基本的に二ヶ月に一度。竜族が二名やって来る。
基本的にというのはその前にやって来た竜族の進捗具合を見てなんだけど、今の所特に問題は無い。皆優秀だし、どうやら竜の里でも人の生活に付いて教えているみたいだ。
彼等はその優秀さを活かして後輩に教える事もするし、最近では宝石の加工なんかも覚え店に並べている。お菓子も作ってくれるし、掃除洗濯も完璧。
人と争う事も無く、もう僕が要らない気がして来た。僕が必要となるのは空間収納にしまった魚や素材を店に卸すときくらいで、それすらも彼等の能力があれば代替出来ると思う。
後は初めて来た竜族に身分証を発行する時に付合う必要があるけれど、学園都市の冒険者ギルドのマスターであるキョウさんも最近じゃルーファが行くだけで大丈夫だし・・・。
そんな訳で時間がある僕ですが何をしているのか。
相変わらず配達とお使いと狩りの日々です。
お金に余裕はあるけれど、なんか自分で稼いだお金じゃないので落ち着かないし、やろうと思っている事にももう少し時間が必要。
あ、たまに竜の里というかルイの所に顔を出す様にはなりました。
このルイという名前はお気づきの人も多いと思いますけど、僕の名前から取ったそうだ。ある意味ルイともう一匹の竜の恩人でもあり、ルイの懐き用が凄いからという事らしい。良いのかな?と思わんでも無かったけれどルイ自身が気に入っている様なので、僕も嬉しくある。
島の方も相変わらずで女神様が誰かしら常駐。
『神の書庫Ver1.1』が『神の書庫Ver2.1』までバージョンアップし調味料だけでなく、お菓子、酒の食料品に始まり、下着(主に女性用)、靴、服といった衣類。他にも楽器、武器、陶器、釣り竿といった趣味の物の知識が引き出せる様になった。ラインナップを見て判る通り、全て女神様達の希望です。
もう少年神が女神様達に勝てるとは思わないけど、バージョンアップするなら一言言って欲しい。
いきなりはビビりますよ。
最近はその少年神もちょこちょこと顔を出す様になった。仕事が一段落したらしい。仕事の内容は世界の調整と新機能の追加が主立ったらしく、その新機能の中に竜族の人化が含まれていたらしい。
あと覗きの罰として女神様達の仕事を押し付けられていたんだとか。
道理で女神達ばかり島に来るはずだ。
とにかく島は賑やかで商売も順調、竜族達も皆優秀と順風満帆な生活である。




