27:商売準備(従業員)
商品の値段に付いてはゲイロクさんの下ろしていた値段を参考にした。
店の値段で無いのは輸送費がゲイログさん程かからないから。それでも僕の儲けは結構な額になる予定だ。そもそも関わっている人数が違うから人件費がかからない上に地上での輸送費もかからないからね。
在庫については砂糖待ち。
一応目玉の一つなので余裕を持っておこうという考えだ。
お菓子についてはソールさん達の協力も会って絶賛増産中。
従業員に付いては思いもよらない所から決まった。
始まりはルーファの一言。
「あのねルイがルイジュにあいたいんだって。」
「ルイ?」
「うん。まえにあったでしょ?」
誰だろう?
ルーファが言うのだから竜の誰かなんだろうけど。
「カリズのこどものルイだよ。わすれちゃった?」
「あぁ。ルイって名前にしたんだね。」
「あれ?いってなかったけーー。」
「初めて聞いたよ。」
竜の子供は竜の里に行ってから名前をつける習慣があった為に、お祝いを持っていった時には決まっていなかったし、その後はバタバタして決めるのは後回しになっていた。
なので名前が決まったのは今回初めて聞いたことになる。
「うん。それでルイがあいたいんだって。」
「今日?」
「いつでもいいってよー。」
そんなわけで行ってきました竜の里。
成長するまで幼竜は外に出れないからね。
辿り着いてまず感じた違和感。
竜の数が少ない気がする。
「ルー・・。」
「るいじゅーーーー。」
ルーファに聞く前にルイが飛びかかって来た。
幼竜と言っても既に車以上の大きさになっているルイ。支えきれる訳も無く押しつぶされ舌で嘗められるままになるしかない。
「こらっ。そう飛びかからないの。」
「ルイジュ君にも迷惑だからどきなさい。」
「はーい。」
ルイを止めてくれたのはおそらく両親。
聞き覚えのある声だ。
「だいじょうぶ?」
「うん。それよりもお二人ともご無沙汰し・・・・・。」
「お久しぶりねー。」
「うむ。」
「るいじゅあそびにきてくれないんだもん。ルーファちゃんばかりずるいー。」
「ずるくないよー。ルーファはルイよりおおきいもん。」
「久々に来たのだからゆっくりしていきなさい。」
「折角だから美味しい物でも用意しましょう。」
「腕が鳴るな。」
「ルイもいっしょにいくー。」
「よし。ルーファとルイジュ君も一緒にどうかな?」
「ルーファはまけないよー。」
止まっている僕を置いて会話が進んでいく。
いかん。いつまでも止まっているわけにはいかない。
「な、なんで人間になっているんですか!!!」
驚いたのはお二人とも人形になっているから。
少年神の言葉を借りるなら人化しているということになる。
「あら?知らなかった?」
「はい。」
「出来る様になったのだよ。」
「ルーファもできるよ?」
勿論、ルーファが人化出来るのは知っている。
ただルーファだけが特別なんだと思っていた。だって明らかに創造神が後付けした設定だし。
話を聞くと、ルーファが人化できる様になった一週間程後に竜達に神託が下り、出来る様になったらしい。
出来るのは幼竜を脱した竜のみで、人形になるとルーファと同じく身体能力が制限される。他にも竜によっては飛べなくなったり、火を吐けなくなる等の身体能力以外の能力が制限される場合もあるんだとか。
里の人数が減った様に見えたのは新たな能力に慣れようと人形で過ごす人達が多い為なだけだった。
それにしても会う人皆美形である。また、服装が以前借りた貫頭衣か布を巻いただけ、人によっては着てない場合もあって目のやり場に困る。
人化したのだから人の文化に近づこうとしているらしいけど、服に慣れていないのと服が足りないのでこのような状況らしい。
とりあえず僕の予備の服を何枚か差し入れておいた。残りは後日持ってこよう。女神達が作りすぎた服があるので言えば分けてくれるだろう。
他にも街の暮らしに付いてなんかを話しているとルーファ達が帰って来た。
成果は上々で各自両手に獲物を捕まえている。
他の竜も食料を持ち寄り宴会の準備だ。
あれから顔を出していなかったので、宴会を開いてくれるらしい。
折角なので僕も料理を作ることにした。さっきの話の途中で皆興味津々だったからね。といっても凝った料理はしない。
手間をと量を考えて揚げ物だ。魚介類と野菜、多少の肉をフライにする。肉の残りはルーファの指示のもと切って焼く。塩と胡椒も僕の持ち出しの為、それほどの量は作れないけれど皆で分ければ大丈夫だろう。
こうして見ていると面白い。
一概に竜と言ってもソースが好きな者、マヨネーズが好きな者、醤油が好きな者、塩をつけるのが好きな者、そのまま食べる者と揚げ物の食べ方一つとっても違いが出る。
ちなみにルーファの最近のお気に入りはマヨ&ソースだ。
服は皆同じ様な物だけど、今後種類が増えたら個性が余計に出るのかな?
それにしても巻頭衣や布を巻いただけなのは目に毒だ。
特に女性。胡座をかいて座る人が多く、不意に見ちゃいけない物が飛び込んで来る。
服だけでなく下着も差し入れよう。
宴会は大いに盛り上がった。
人形だと酒量も減るらしく、吞み潰れた人も多い。それでも人化は解けない事が分ったので一安心。隣で寝ていて潰される事が無いと分ったからね。
人の生活や娯楽に興味を持つ竜は多く、そのうち慣れたら人里に降りてみるつもりらしい。
その際には付き添って欲しいと言われた。そこから順に降りる人数を増やしていき、最終的には僕に頼らないで遊びにいける様にしたいとのことだ。
その為にお金を稼がないといけない事も彼等は理解しており、とりあえず数枚の鱗を売る事にした。売る先は僕に任せてくれるらしいけど、こんなに高価な物をひょいひょいと売る事が出来るだろうか?
今回の事は急だった為に鱗を売る事にしたけれど、今後はそのつもりは無いらしいので値下がりすることはないだろうけど。
やっぱり自分起ちの素材を売るという事は余り気分の良い物では無いらしい。
竜鱗の販売に付いては直に話がついた。
販売先はオビリアン王国に5枚、港湾都市モスターのゲイログさんの商店に1枚、学園都市の冒険者ギルドに1枚、ゴウゴウニュの鍛冶組合に1枚。
預かった竜鱗は全部で20枚だったのでまだ半分以上残っている。全部売らなかったのは相手の資金的な問題と、一遍に出す事で色々と探られることを懸念したからだ。
風竜だけならルーファが出所という事になるけれど、今回出した竜鱗はいずれも成竜の物だし、まだ老竜の鱗も残っている。
それでも世界中の竜が生活する為の資金にはまだ足りない。
生きていくだけなら彼等にお金はかからないけれど、食事や風呂、その他娯楽を楽しみたい者が大半なので足りないのだ。
最初に人里へ降りる竜がまだ決まっていない様なので、その人達が決まり次第僕が付き合い生活をし、その際にどれだけかかるか概算するつもりではある。
この最初に降りる竜というのが僕の店の従業員になる。
給料は無し。
社会勉強ということだ。
そうはいっても僕も商売に関しては素人。
なのでゲイログさんに相談した所、壮年の男性と少女を紹介された。
老人の方は先々代から働いていた方で、例の人魚族に助けられた一人でもある。少女の方はその孫娘。僕と同じくエルフの血が流れている為に年と見た目があった居ないらしい。ただし、僕よりは血が薄い様で若いままとはいかない様だ。
この度、ゲイログさんの商売を縮小するにあたって引退し、孫娘と行商をするつもりだったらしい。
なんでも息子夫婦は冒険者だったのだけど、ダンジョン攻略中に死亡。残された娘に元気なうちに世間を見せてあげようと言う事らしい。
なので長く働く事は無いけれど、商売が軌道に乗るまでは面倒見てくれる事ととなった。
壮年の男性の方がクローさん。孫娘の方がキスレさん。キスレさんの将来の夢は魔法も使える剣士の冒険者。お父さんが剣士でお母さんが魔法を使えたので両親の後をついで冒険者となり、ダンジョンを攻略したいとのことだ。
こうして店舗選びから1週間。僕の第1号店がオープンの日を迎えた。
開店前には既に行列。いずれも女性でお菓子を求める人達だ。
イヴさんが出張ってきて皆を捌いてくれたので良かったけど、今後も続くのだろうか?
クローさんもお店の開店から行列ができた事なんて経験が無いらしく、驚いていた。
お菓子が捌けてしまうと、その後はちらほらと顔見知りが来てくれた。
ゴリガスさんを含む職人の皆さんや、宿の女将さん達、それに冒険者ギルドのマスター。
そしてちょこちょこ売れる砂糖。
海獣の素材や宝石に関してはある事を知らなかった人達が見て、金額に付いて訪ねて来てくれる。売り上げこそ微々たる者だけど順調な滑り出しだ。
特に素材に付いては空間収納で保管運送をしている為、海から離れたこの街では考えられないくらい良質である。今までここで海獣の素材を売る人居なかった様なので今後売れると僕達は踏んでいる。何せここは職人達が集まる街。新しい素材に食指が動かない訳が無いのだから。
他に魚とかも売ってみようかな?




