12:亡国への道
結局全員に嘗められた後、普通の泉で体を洗い、新しい服を用意してもらった。
またしても貫頭衣だけど、そもそも竜族は服を着ないのであるだけマシだと思う事にしよう。
その後、用意してくれた食事を取っているとフロウさんがやって来た。
「あの人間達の扱いをどうするべきか話しにきた。本来であればあの者達を生かしておく道理はないし、その一族に責任を負わせるのだが、ルイジュ殿も当事者である故になるべく殺さずに捕えてある。」
「なんかすいません・・・。」
「なに。恩人殿に迷惑をかけたく無いのだ。人間は国同士、血族同士色々しがらみがあるのだろう?」
「はい。あの人達が盗賊とかだったらどうでも良いのですけど、何処かの国の人間っぽいですし、こう見えても貴族の一員だったりするので助かります。僕一人が敵対するのでしたら問題ないのですけど、国対国になると僕の恩人達に迷惑をかけてしまうかもしれないので・・・。」
「うむ。幸い我が子の命は無事だ。あの者達の身もわかっている故、考えてくれて良い。」
「身元がわかっているのですか?」
「幾人かの竜に聞いた所直にわかった。あの者達が身につけていた鎧の紋章は神聖イストロ王国の者だそうだ。」
「一度街に戻っても良いでしょうか?」
「勿論だ。ただしあまり長い時間がかかるとあの者達の命が尽きるとだけ覚えておいてくれ。治療をするつもりはないのでな。」
「わかりました。」
少なくとも両手足は折られているらしいから、生き残っていてもただ苦しむだけだろう。
ある意味殺してしまうよりも残酷なのかも・・。
「さすがに今日はゆっくり休み、明日からにすると良い。水だけは与えているので数日は生きるであろうし、いきなり動いてはルーファが心配するからな。」
「わかりました。」
それに今日はもう暗くなりつつある。
明日朝一番で街へ行くことにしよう。
予定通り朝一で竜の里を飛び立ち、一路学園都市チクバへと向かう。
お供に突いて来たルーファが心配していたけれど、飛んで確かめた限り問題はなさそうだ。ただ、パンツすら履いていないので下に人が居ない事だけは確認しながら飛ばないと色々見えてしまいそうで拙いけどね・・・。
久しぶりの我が家で着替えると、直にサルーンさんの屋敷へ向かう。
幸い出かけていなかったので直に会う事が出来た。
「至急の御用とはなんでしょう?」
彼女の余計な事を言わない所は好ましい。
「二つ程お願いがあります。」
「ルイジュにお願いされるとは珍しいですね。」
「勝手ながら一つは相談役以来の破棄を。」
「えっ!?」
「もう一つはブラッド家からの勘当を願います。この後、国へと飛び手続きを願おうと思っています。」
「突然ですね。」
「すいません。」
そう言うしか無い。恩ある王家の依頼を突然破棄するのだ謝るしか無い。
「訳をお聞かせ下さいますよね?」
「詳しくは聞かない方が良いと思いますが、馬鹿な国が僕の友達に喧嘩を売ったので。」
エルフの貴族から抜けるのも相談役の契約を破棄するのも神聖イストロ王国と事を構える事になった際に迷惑がかからない様にする為だ。そして理由を話してから僕と関係ないとした場合に黙認したと言われない為にも理由は話さない方が良いと思う。
それでもこれだけ言えば聡いサルーンさんの事、わかってくれるだろう。
「ふぅ・・・・。」
サルーンさんが深く席に座り直した。
「我が国としては同じ立場に立ちたいですが、ここはルイジュの好意に甘えさせてもらいます。」
「はい。」
竜族に味方してその矛先がエルフに向かうのだけは阻止しなければ駄目だ。それは僕よりも国を預かる立場であるサルーンさんの方が理解していると思う。
だからこそ事を起こすのは一個人である僕だけの責任にしたい。
「少々お待ち下さい。」
サルーンさんが席を立つと机の引き出しから書類を取り出した。
「ルイジュ立って下さい。」
近づいて来たサルーンさんに言われるがまま立ち上がると、彼女は壁にかけられた剣を持ち上げてこちらに向き合った。
「これは王の剣です。」
王から託された剣というのは、許された範囲でのみ王命を下させることが出来る。国を離れるにあたってサルーンさんに託されたのだろう。
「ルイジュ・ブラッド。この王たる剣の元に命を下す。」
「はっ。」
膝を付いて頭を垂れる。
「我が国王の名の下、そなたをブラッド家と縁なき者とする。これは家長たるケイン・ブラッドから願い出され国王が承認した者である故、意見する事は許されない。」
「はい。」
「これによりルイジュとなり、我が国に対しての責務は無く、また、その身を決めるのは己である。いかに望む?」
「許される事なら自由民として。」
「許す。」
「ありがたく。」
「自由民であるとすれば我が国の相談役として相応しく無く、その役を解任する。異は認めない。」
「はい。」
「自由民であるならば王と言えども何事にも縛り付ける事叶わず。その頭を上げるがいい。」
「はい。」
頭を上げ立ち上がるとサルーンさんの目を真っすぐに見る。
「私達は何時でも力になります。お気を付けて。」
「ありがとうございます。」
「いつでも戻って来て下さいね。」
サルーンさんのありがたい言葉に見送られて館を後にする。
次に向かうのは冒険者ギルド。
サルーンさんがくれた依頼破棄の書類を持って手続きをする。依頼者の都合で破棄となった事にしてくれたので違約金等は発生しないらしい。そもそも違約金がかからない契約だったこともあり、ギルドのランク審査への影響も少ないとの事だ。
最後まで面倒を見てもらった形になってしまったことは心苦しいけれど、今はただ感謝するだけだ。
ギルドを出た足で図書館へと向かい神聖イストロ王国について少し調べる。興味があった国なので他の国と比べて知っている事は多いけれど、それでもこれから必要と思う事はまた違う。
調べ物しているうちに日が暮れ始めた。
急いで家へと向い、夕暮れの中ルーファと共に竜の里へ。
「ただ今戻りました。」
「早かったな。」
里に着いて直ぐ目に付いてフロアさんに帰って来た胸を報告する。
「一つの街で用事が済みましたので。あと神聖イストロ王国について少し調べてみました。」
「こちらもカリズが彼奴等を脅して情報を得たぞ。なんでもルイジュ殿が斬った騎士はかの国の王子らしい。王になる為の争いに勝つために勇者に習い我らを従えようとしたのだと。それにあの器具を実験するのに幼竜が一人捕われているらしい。」
「それは・・・。」
「あぁ。カリズだけでなく怒っている竜が多い。」
「僕としては何も知らない民への被害は押さえて欲しいです。」
「我らにも誇りがある。ただ罪に対する責任を何処まで負わすかそれが問題だ。」
「それと幼竜は早く助け出した方が良いと思います。責任者が戻って来ないとなると何をするか判ったものではないですから。」
「うむ。皆に伝えよう。」
「できるなら僕が先に話しにいきます。それにあの首輪を一時的にしろ無効化できるのは僕だけだと思いますし。」
「それは頼むと思う。実績があるからな。」
そんな話しをしているといつも間にか竜が集まりつつあった。前回のときとは違い幼竜や若い竜は居ない様だ。
「奴らを許してはおけぬが、まずは子を助け出す。」
焦げ茶の鱗を持った竜が提案する。
「異議は無い。」
「その後に我らが怒りを知らしめてやろう。」
桜色の鱗を持った竜がそう言うと、他の竜も同意し吠えた。
「竜族の力を持って彼等を倒すのは用意ですが、捕まっている幼竜の安全を確保するのは僕が適任です。任せてもらえますでしょうか。」
「どうするつもりだ?」
「彼等の鎧を使います。幸い顔まで隠れる鎧の様ですし、少なくとも近づく事は出来るでしょう。安全を確保し次第攻撃をお願いします。」
「頼む。」
「それまで怒りを抑え姿を隠そう。」
「隠れるのは性に合わんが子の命には代えられんな。」
「おう。」
その間に血で汚れた鎧が運ばれ準備が進んでいく。




