07:迎撃
あの甲冑の男よりもサルーンさんの方が肝が座っていた。
「わかりました。ナツとアミルを残して皆は西門へ。ルイジュ様の邪魔をしない様に支援を。」
『『『はっ』』』
僕の報告を聞き、西門を守ることを伝えると直に指示を出した。
「私は邪魔にならない様にここに引っ込んでいますわ。」
その言葉に見送られて西門へと向かうことにする。
サルーンさんは兄弟の中で一番戦闘能力が無い事を自覚しているので、こういう場面に出しゃばって来ないのだろう。
「最悪、サルーン様とお逃げ下さい。」
「お一人なら抱えて飛び逃げる事も可能でしょう。」
「よろしくお頼み申す。」
一緒に西門へ向かう皆に頼まれた。
特に騎士の四人の目は真剣だ。
「そんな最悪は来ないと思いますけど、了解しておきます。」
「我らも死力をつくします。」
騎士やメイドと言ってもエルフやハイエルフ。
皆、精霊魔法が使えるので後ろに二・三匹通しても叩き落としてくれるだろう。
西門に上がると既に敵は見える所まで来ていた。
「あの木を越えたら魔法をぶち込みますので、近くに落ちた敵からとどめを刺して下さい。魔法隊は僕が撃ち漏らした敵を狙って下さい。」
魔法隊といってもサルーンさんの護衛の6人とアルノルドさんだけ。
僕が出た後あの甲冑の男が文句を言うのをマスターがなだめ、アルノルドさんが後詰めにつくという条件で許可が出たらしい。聞き分けが良かった訳じゃなかったのね・・・。
まぁアルノルドさん一人でも数十分は守り通せるらしいので、僕が簡単に抜かれても援軍が間に合うという算段だそうだ。
久々に竜刀グアスランドを抜く。
最近は魔法ばかりだった。直接攻撃はルーファが居たからさ・・・。
竜刀に込めるのはLv07風魔法『風刃林』。
ただし、まだ発動はさせない。
続いて選ぶ魔法は『炎石塵』。Lv08火魔法の『炎石雨』とLv04風魔法の『風塵』を組み合わせた僕とリファイアさん共同開発の複合魔法。
敵影が指定した木を通り過ぎる直前に同時発動。
風が吹き荒れ、敵の体勢を崩し、そこに風の刃と燃えたぎった石が襲いかかる。その体が力を失ってなお、風に舞い上げられてその身が地に落ちる事は無い。
想像して欲しい。
身動きが取れない所に四方八方からギロチンの刃と燃え盛る隕石が飛んで来るのを。
ぞっとするよね?
魔法が消えた後に残ったのは範囲から逃れた数匹のみ。
「魔法隊任せます。」
「はっはい。」
少し驚いていた様だけど魔法を発動しているので大丈夫だろう。
僕は飛んで逃げようとしているのに近づく。
こいつは一番奥に居たので近寄る事も出来なかったのか?
「ナニモノ!」
「ただの魔法使いさ。」
話しかけて来るとは思わなかったけど、既に彼の頭には刃が落とされている。
そのまま股下まで斬り裂くと亡骸は消え、魔石が地面に落ちていった。
先程まで残ってた敵ももう空にはいない。
魔法隊が叩き落とした敵と警備兵が戦っているけれど、飛んでいない空の魔物はそこまで強くないので大丈夫だろう。
北門へ向かうと先程僕が起こした惨劇とは違う惨劇。
門を固めた冒険者達は数十頭を相手にしているが、その更に前方。
そこには真っ赤な鬼が居た。
鬼、つまりギルドマスターその人である。
獣化して敵のまっただ中で敵を斬り殺すその姿は『血舞士』の名前に相応しく、一つ彼が動く度に敵の命が消え、血が舞い散る。
この調子ならそうかからずに敵は潰走するだろう。
次に向かったのは南門。
こちらが最も人が多く、指揮を執るのは先程マスターの執務室で会った甲冑の男性。
敵よりも人数が多いくらいなので大丈夫だとは思うけど、影狼に噛み付かれている人も多い。
手を出そうにも敵味方入り乱れ始めているので難しい。
それでも傷ついた人は後ろに下がり、回復を受けてまた前線へと戻る。
一番正しい冒険者の戦い方なのだろう。
ここでも確実に敵を減らして行き、なんとか暗くなる前には戦闘が終わった。
暗くなってなお行動をしているのは南門のみ。
魔石と死体の回収らしいけど人数が多いのでそれほど時間はかからないはずだ。
僕が受け持った西門に関しては既に済ませてくれていた様だし、北門はほとんどをマスターが倒したので回収範囲が広くなく比較的早く終わっていた。
ギルドホールや酒場は騒ぎの真っ最中。
一応警戒状態を維持している人達も居るけれど大半は思わぬ臨時収入に喜んで騒いでいる。
今回の報酬は各門の参加者に対してそれぞれで山分けする事になっている。
本来であれば倒した数によって比率が変わるのだけど、僕とマスターが山分けで良いとしたためにそうなった。南門は他門と比べて人が多いため少なくはなるけど収入としては悪くないはずである。
その騒ぎを聞きながら僕は今ギルドマスターの執務室に居る。
僕以外の顔も襲撃前に顔を合わせたものと変わりがない。
「まずは人的、物的被害ともになくて良かった。」
人的被害に怪我人は含まれてはいないが、死者なし。門を抜かれる事も無し。この規模の戦いに置いての損害としては無いに等しい。
怪我人は重軽傷者合わせて100人を超えるが、いずれも魔法で治療済み。数人指を無くした人は居るけれど、体の破損を治療できるのは光属性のLv10回復魔法『完治』だけであり、使える人がいないのだから諦めてもらうしか無い。
街は文字通り無傷。あえて言うなら門や塀に影狼の爪痕がついたくらい。
「恐れていた東からの襲撃もなかったしのぅ。」
「おそらく東に行けば海にあたる為にそれだけの数のモンスターがいなかったのだろう。」
アルノルドさんに答えたのは甲冑を着ていた男性。さすがに今は脱いでいるけど、騎士学院の代表イアン・ターネットさんだと先程聞いた。
「どちらにせよ今夜は警戒にあたらせておきましょう。」
最後の一人は僕が所属するチクバ学院の代表ジジ・プレデンタル。この中では唯一の女性で獣人。
「うむ。既に警備兵と幾人かの冒険者には声をかけてある。」
「杞憂ではないか?」
「杞憂で済めば良いのじゃよ。」
イアンさんの中では既に終わった事なのかもしれないけど警戒はしておくべきだ。少なくとも今夜くらいは。
「何より問題なのは北門には悪魔が居た。」
「悪魔か・・・。」
ここで言う悪魔は別に地獄からの死者という訳では無い。
何らかの理由により「知性を持った魔物・魔獣」とされている。
「確信は持てませんけど西門にもいました。」
「なに?」
そう睨まないで欲しい。
「確信が持てないとはなぜじゃ?」
「出会い頭に「ナニモノ?」と聞かれましたけどさっさと斬り捨てましたから。」
「いや、それでいい。会話を交わす事に意味はないだろうからな。魔石の確認はしていないのか?」
「直に他の警戒に当たったのでしていません。多分、西門の誰かが回収してくれたとは思いますけど。」
「ちょっと待ってくれ。」
マスターが部屋から出て行く。
「今確認させている。西門は一番最初に回収が終わった為、分類作業が始まっているので直にわかるだろう。」
その言葉の証拠にギルド員が一つの魔石を持って来た。
「悪魔だな。」
「これがそうなのか・・・。」
「俺が倒したのも今出そう。」
並べられた魔石は共に赤黒く、拳大程の大きさがある。違いは若干僕の方が大きいくらいか。
「北と西に居たとすると、南にも居たと考えるのが自然か。」
「それらしい奴は見なかったが・・・。」
「西では群れの一番後ろに飛んでいて味方がやられると逃走しようとしました。」
「北も群れの一番後ろにいたな。違いは不利となると仲間を逃がす為に俺に向かって来た所だが。」
「南の場合は乱戦の上に逃げられた数も多い。悪魔を逃がしてしまったか・・。」
レオンさんが悔やんでいる様だけど、あれだけの人数を統率して死者無しで戦い抜いたのだから誇って良いと思う。
「まぁそう言うな。実力が劣る者達を指揮して死者無し。それに今回の目的は敵の殲滅ではなく街の防衛であった事を考えると充分すぎる所為かだ。」
「しかし・・・。」
「自分で言っちゃ何だが、俺とそこのルイジュはある程度の規格外だからな。それにあれだけの数を指揮できるのはイアン以外にいなかったさ。」
マスター以外も同意見の様で、頷いている。
「そう言ってもらえると助かる・・・。しかし、悪魔が居た可能性があるなら警戒ももっともだな。」
「うむ。どちらにせよ暫くは無いだろうが、近隣諸国に連絡は出しておこう。」
「ギルドとしても周辺ギルドには連絡をするつもりだ。」
これで大体の報告は終わっただろう。あとの報償の分配何かは大人達に任せてそろそろ帰りたい。
「それにしてもルイジュ君のあの魔法。見た事が無い物だった。」
「む。それ程のものか・・。」
「あの、僕はそろそろ・・・。サルーン王女への報告もしなくてはいけませんし・・・・。」
メンドクサイ方向へ話しがそれそうなのでここは退散するに限る。
「ふむ。それでは後日話しを聞かせてもらおうかの。」
「爺。ギルドへの報告も頼むぞ。」
「彼の所属学院の長としても知っておきたいわね。」
「あ、お疲れさまでした。」
返事は聞かずに部屋を出る。
あのままいたら質問攻めに合いそうな雰囲気だった。特にアルノルドさん・・・。
サルーン王女への報告は騎士の皆さんを通して済んでいたので顔見せだけ。
今日くらいは外で寝る事を止められたけど、まぁ大丈夫だろう。
西門の皆も警備をしていてくれる様だし。
それに一応結界を張りながら寝るつもりである。




