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03:入学式

 チクバ学園には三つの学校がある。


 一つは魔法を学ぶ生徒が集まるチクバ魔術学院

 一つは武術や作法を学ぶ生徒が集まるチクバ騎士学院

 最後の一つがどちらにも属さない生徒が集まるチクバ学院


 僕とサルーンさんが入学するのはチクバ学院。

 その高等部である。

 初等部と会わせて七年生の学院は前半の一〜四年次が初等部、五〜七年次が高等部となっている。

 実力が上がったと認められない限り次の年次に進む事は出来ない反面、七年次になると研究のため何年も居続ける人も居る。


 僕達は実力があるとみなされて高等部からとなったわけだ。

 もっともサルーンさんは勉強が目的ではないので試験は無いし、僕も相談役という事で試験は無い。そう言う人は、実力が足りなくても良いけど授業の邪魔はしてくれるな。というのがここのスタンスだ。


 長くてありがたいお話を聞く趣味が無い僕は、学生証を受け取ると入学式には出ずに一路図書館へ。

 図書館は学園に来た目的の一つであるので期待に胸が高まる。

 この図書館は三学院全ての生徒が使用する事が出来るのだけど、まだ開いていなかった。


 待つ事10分。司書さんらしき女性がやって来て鍵を開ける。

 入学式も出ずに図書館に直行した僕に呆れた顔の司書さん。入学の目的の一つだと話すとちょっと早いけれど入れてくれた。

 彼女曰く「本を好きな人に悪い人はいないから大丈夫よね?」とのこと。

 勿論、本に狼藉を働く様な事をするつもりはないし彼女の信頼を裏切ることもないつもりだ。


 外から見ていて思ってはいたけれど改めて見ると大きい。外身ではなく中を見るとその本の量に圧倒される。

 まずは何処から見るか・・・。

 そんな事を考えながら案内板を眺めていると先程の司書さんがやってきて、ありがたい事に簡単な案内を買ってくれた。


 一番多いのは歴史、と各種図鑑。その次はかつての学生の論文。他にも数学、地学、鍛冶、薬学、魔法学、礼儀作法、建築、言語、等の分類がされているが、物語は少なく勇者の話しが大部分を占める。

 王城の図書室は王家の歴史書と魔法書が大部分を占めていたのでどれも楽しそうだ。ただし精霊魔法についてだけは確実にあちらの方が充実していたと思う。

 他にも地下に入るのは許可が必要だけど禁書、破損書等人を選ぶ本が眠っているらしい。

 また、魔術の最新情報が知りたい場合は魔術学院に尋ねる方がよいとのことだ。ただし、基本的に本になるまでに時間がかかるし、魔法使いは魔法を秘匿したがるからあまり期待しないことが注意点。


 一通り案内してくれると司書さんは本来の仕事に戻って行った。

 僕は一番近くにあった勇者の物語を手に取ってみる。この勇者の物語は子供の頃にも絵本を持っていたし、もう少し詳しい物は国の図書室にもあったが、ここでは本棚を幾つも使って保存されている程に種類が多い。

 各国で出している様で、またギルドによっても出している所がある。それらが改訂される度に保存されているのでこれだけ多いのだろう。

 先程の司書さんの話しではさすがに学園にまで来て読む人は少なく、街の人達が子供に読み聞かせるのは自分達が買うのでここの本達の出番は無いらしい。それなのにこれだけ揃っているのは面白い。

 理由の一つは学園都市は自由都市共和国に属してはいるけれど、学園自体は各国・各ギルドの協力の元に成り立っているのでその団体が発行した書物が寄付されている為に増えている

 もう一つは本は比較的高価な為に処分するということは滅多にない事。


 先程今期の分として届いた本の仕分けに戻って行った司書さんがそう言ってた。


 絵本一つとっても国によって少し違う。

 物語では更に違う様だ。

 改めて比べてみると面白くついつい色々と抜き出してしまった。


 「くぅー。」


 僕以外に気配がない図書館にお腹の音がなって気付いた。

 お昼を食べていない。

 日は落ち始めており、おそらく時は既に夕方。

 

 「あっ。」

 サルーンさんと入学祝いの食事会があるのを忘れていた。


 引っ張り出していた本を元あった場所に戻し、慌てて図書館を出る。

 会場はサルーンさんの仮住まいの館。

 図書館を出ると西に向かって飛ぶ。何人かが驚いていた様だけど気にしない。


 全速力を出す前に着いたけど、スピードを落とさなかったので庭に着陸痕が出来てしまったので後で謝ろう。

 ドアの外にはメイドさんが待っていてくれた。


 「皆様お揃いでございます。」

 「すいません。遅刻ですよね?」


 あいにくと腕時計なんて高価な物は持っていないし、慌てて出て来たので学校の時計も確認していない。


 「いえ、皆様お早くお着きになられただけですので。」


 時間的には間に合ったのか。


 「どうぞ。」


 ドアを開けてもらった先には老若男女多種族の人達がいた。

 既に始まっている様でドリンクを片手に談笑している。


 「ルイジュ様いらっしゃって下さったのですわね。」


 本日のホストであるサルーンさんが直に僕を見つけて近寄って来た。


 「すいません。本に夢中で・・。」

 

 遅れてはいなくても最後の到着になった事を詫びる。


 「以前より本が好きですものね。ルイジュ様は。」

 「あっはい。そうですね。」

 「いつでも王城へいらっしゃって下さって構わないのですわよ。」

 「ありがとうございます。」


 一瞬忘れていたけど、今回の食事会への参加は二人が知り合いであると周囲に知らせる意味もある。

 その為に親しげに話す必要がある。


 「お姉様もお兄様もルイジュ様はお気に入りですから、学園に来られて寂しがられているかもしれませんわね。」

 「お二人からもサルーン様をよろしくと言われております。」

 「三年間相談役よろしくお願いしますわ。」


 そう言ってこちらの様子をうかがっていた集団へとサルーンさんは向かって行く。

 人に話しかけるのはサルーンさんに任せれば良いだろう。

 飲み物をもらうと食事を取りに行く。


 食事マナーに気を使わなくて良い様にビュッフェ形式だけど、あまり食事をしている人はおらずおしゃべりに夢中の様だ。

 まぁ人脈とかを作ったり親交を深める為の会なのだから食事に夢中になるのは間違っているのだろう。

 僕やこのお爺さんの様に。


 「少年。こちらの鶏肉も美味いぞ。」

 「あちらの果物も中々美味しかったですよ。あと、あれはオビリオン王国でもよく食べた野菜です。」

 「ほう。食べてみるとするか。」


 魔術師らしいローブを纏ったお爺さんは会話を交わす間にも、そのローブと口髭を汚しながら口に食事を運び続けている。

 (結構な年に見えるのに健啖家だな・・。)

 明らかに僕よりも食べて飲んでいるだろう。


 「無料なのだから遠慮なく食べるだ。少年。」

 「僕の名前はルイジュです。」

 「そうか、少年がルイジュ君か。」


 食事の手を止めて僕の目を覗き込んで来た。


 「儂はアルノルド・アニアニス。エネザベード姫とカルアを教えていた事もある。二人の手紙にもルイジュ少年の事は書いてあった。今度遊びに来なさい。」

 「ありがとうございます。」


 このお爺さんがエネさんが紹介状を書いてくれた人か。


 「ルイジュ君の顔も見たし、腹も膨れた。今日は帰るか。」


 他の人達と話す事に興味は無い様だ。


 「それではまたの。」


 気に入った料理をメイドさんに詰めさせると、アルノルドさんは帰ってしまった。

 

 「帰られてしまわれましたか。」

 「御用が?」


 再び一人になった僕にサルーンさんが話しかけてきた。


 「アルノルド様はあまりこのような会にいらっしゃられる事が無いので、御不快な思いをさせてしまったかと・・。」

 「その心配は無いと思いますよ。お腹いっぱいになったので帰ると言いながらも気に入った料理をお土産に持って帰りましたし。」

 「それならば良かったですわ。」


 また何処かへ向かう様だ。

 こう見ていると一つの所に長々と留まる事は無く、会場を回りながら色々な人と話している。

 向こうから話しかけられた場合だけ少し長いくらい。

 王女のスキルと言っても通じそうな程、見事な作法をもって皆さんと接している。

 

 一方僕はお腹一杯になってしまうとやる事が無い。

 アルノルドさんのように帰ってしまう訳にも行かないだろうし、壁際で一人飲んでいる。

 僕に多少興味がある人もいる様だけれども、遠目に見ているだけだし、こちらが見ると顔をそらす。


 「なんだかなぁ・・。」


 予想していた展開だけど、暇な事には変わらない。

 取り合えず、食事はあまりそうなので僕も料理を詰め合わせてもらおう。

 

 ルーファも食べると思うから多めにね。





 「疲れたわ。」

 「お疲れ様です。」


 サルーンさんの口調が元に戻っているけど、ここには僕とサルーンさん。あとはメイドさんしかいないので問題ない。


 「手応えはありよ。」

 「おめでとうございます。」

 「お兄様達の名前を知っている方々も予想以上に多くて助かったわ。」


 長男のロベルトさんは騎士学院、エネさんは魔術学院、ウェルザード王子はチクバ学院をそれぞれ卒業している。


 「昨日の門の騒ぎを知っている人もいたし、冒険者ギルドでも何かしたらしいじゃない?」


 メイドさんの入れてくれたお茶を一口飲んでこちらを覗いて来る。


 「ウェルザード王子が予想していた騒ぎの一つですよ。」

 「毎年、下級生を狙うなんて愚かしいけど今回は役に立ったのだから相手方の責任は追求しません。」


 昨日の騒ぎも僕が目立てば目立つ程に起こりえる騒ぎだとウェルザード王子は予想していた。それが一ヶ月後か昨日かという話しなだけで、かえって早い分話しが広がるのも早いだろう。


 「助かりましたね。まぁ追求しようにも名前も知りませんが・・・。」


 聞けば教えてくれたんだろうけど興味が無かったので覚えてない。


 「アルベルト・ハッキウス。騎士学院の高等科3年。聖アリシウス王国出身。親の身分は男爵。10年前に入学。卒業できないのならばとっとと国に帰れば良いものを・・・。」

 「親が元気で帰ってもやる事無いのではないですか?」

 「もしくは、親も疎む馬鹿息子か。」

 「それにしても耳が早いですね。」


 さっきは僕が事を起こしたのを知らないと言わんばかりだったのに。


 「ご親切に教えて下さる方は多いのですよ。」

 「それはなにより。」


 おそらく何人もの人から聞かされたのだろう、サルーンさんの顔は嫌そうだ。


 「ルイジュ君に求める役割と違うとは思っていますけど、そう言われると変わって欲しくなります。」

 「ご勘弁を。」


 そんなことになっても、ああも上手く立ち回る事は出来ないだろう。


 「もしそうなったらとっとと何処かに逃げ出す事にしますよ。」

 「それはそれで困りますけど。」 


 たわいのない雑談をしてお茶を飲み干したくらいで席を立つ。


 「入学式には出ていなかったようですので、授業のリスト等も入れておきました。」

 「ありがとうございます。」

 「いえ、お気を付けてお帰り下さい。」


 料理の折り詰めと共に何枚かの紙も受け取り、我が家へと夜道を行く。

 ルーファもお腹をすかせて待っているだろう。





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