10:指名依頼
冒険者ギルドは閑散としていた。
冒険者の数が少ないことと真っ昼間である事の影響が大きいだろう。
「すいませーん。登録をお願いします。」
新規受付カウンターには誰も居なかったので、ウェルザード王子が声を上げると奥からおばちゃんがやってきた。
「おまたせしました。ウェルザード王子様!?」
おばちゃんが驚くのも無理は無い。そりゃ自分のところの王子様がいきなり来たら僕も驚く。
「この子の登録をお願いします。これが推薦状です。」
「は、はい。」
おばちゃんは丁寧に推薦状を開いて目を見開いていた。
「推薦状は確認しました。名刺の提示をお願いします。あとギルドカードの銀行機能は必要でしょうか?」
王子の推薦だけあっておばちゃんの対応は丁寧だ。
「はい。おねがいします。」
「それではこちらに表示する内容をチェックして下さい。」
ギルドカードはギルド員である事の証明でもあり、受注したクエストを登録する事ができる。また、名刺と同じ様に身分の証明にも使える。
最も重要なのは、名刺と異なり記載する内容を限定できると言う事と、冒険者ギルドであれば預けたお金を引き出す事が出来るという事。
名前・年齢・職業・レベルは隠せないが、スキル・固有スキル・称号は隠す事が出来る。もっとも依頼を受けるのに必要なスキルを持っていても記載していないといちいち名刺を提示してギルドカードの更新をしないと行けないので隠す人は少ない様だけど。
僕が表示する事にしたのはスキルは『無形魔法』と『風魔法』。固有スキルは『飛行魔法』。他は隠してある。
「承りました。あちらで少々お待ち下さい。」
カードの発行まで二人で椅子に座って待つ。
「どうぞ。ギルドカードです。」
わざわざ座っているところまで持って来てくれた。
「ありがとうございます。」
「ギルドの説明ですが必要ですか?」
おばちゃんは王子を見て聞く。
「そうだね。ルイジュ君説明をしてもらえば?」
「ではこちらにどうぞ。」
二階にある一室に案内された。
「気を使わせちゃったかな?」
「いえ。」
そうは言うけれど登録した冒険者一人一人をこうして個室に呼ぶ事はないだろう。
まぁ王子様を受付に座らせておく訳にもいかないか・・。
「どうぞ。」
部屋に入るとお茶まで出て来た。
「ありがとう。」
お礼を言って微笑むとお茶を持って来てくれた女の子の頬が微かに染まった。
王子様イケメンだもんしょうがないよね。
「では説明させていただきます。」
おばちゃんが説明してくれたことは既に知っている事もあったけれど次の通り。
・冒険者にはランクが有り、ランクが足りない依頼は受ける事が出来ない事。
・ランクはF→E→D→C→B→A→Sと上がって行く事。
・ランクを上げるには依頼を受けギルドにその実力を示す必要があるが、自分のランクより低いランクを受け続けても基本的には評価されない事。
・一年間依頼達成がないとランクが下がり、F以下になると退会処分になり二度目の退会処分で登録が以後出来なくなるという事。ただし怪我等の場合は考慮される事もあるらしい。
・ギルドカードは無くさない様に。無くした場合の再発行は銀貨三枚かかる事。
・基本的に冒険者同士の争いには口を出さないが依頼に関する事なら別。悪質な場合も相談して良いと言う事。
・どの都市で依頼を受けても良いけど、達成の報告は依頼を受けた都市ですること。他の都市で報告したい場合は受けたギルドで手続きをしてもらう事。
最後に他に細かい事が書いてある冊子を渡してくれた。読んでわからない事があったら聞いて下さいとのことだ。
多分ほとんどの冒険者は冊子を渡されて終わりなのだろう。
「これで説明は終わりです。」
今回僕はランクDからになった。まず魔法が使えるため戦闘技能有りとしてランクEに。種族Lvと魔法Lvから判断し、また王族からの身分保障があるのでもう一つあげてランクDに。
それと実際に依頼をこなして余裕がありそうなら直にでもランクCまではあげてもらえるらしい。
「ありがとうございます。ギルドマスター。」
おばちゃんはギルドマスターだった。なんでも小さいギルドだからギルドマスターも受付するのだと。
ちなみにさっきお茶を持って来てくれた人はマスターの娘さんなんだとか。他に三つの家族でシフトを組んで切盛りしているらしい。
「これでルイジュ君も晴れて冒険者だね。」
「はい。」
おばちゃんの返事を受けて椅子から立ち上がる。
王子もそのまま席を立つと思ったけど、座ったまま懐から紙を取り出した。
「では、ルイジュ君に指名依頼をします。」
「はい?」
「指名依頼ですか?」
「ええ。こちらに書いてある内容です。」
テーブルに広げられた紙を覗き込む。
『オビリオン王国サルーン第二皇女チクバ学園在学中の相談役』
先程話していた内容だ。
どうやら依頼という形にしてくれるらしい。
「承りました。ルイジュ君が受けるならギルドカードを貸して下さい。」
言われて受け取ったばかりのカードをおばちゃんに渡すと、おばちゃんは直に部屋を出て行った。
「依頼という形にしておいた方が何かと良いかと思ってね。」
聞く前に言われた。まぁ僕としても依頼の一つになるので嬉しい。
「護衛もしろと言われると思っていましたよ。」
「護衛には騎士もメイドもつくからね。それに一日中引っ付いていたら何も出来ないだろう?」
「ある程度は自由にしていていいのですね。」
「うん。数日学園を離れるくらいならサルーンに前もって言っておけば良いし。強いて言うとすれば、多少は目立って欲しいかな。」
「目立つですか?」
あまり目立ちたくはないのだけど・・・。
「そう。それをきっかけにサルーンに話しかける人も増えるかもしれないし、オビリオン王国に興味を持つ人が増えるかもしれないからね。」
「善処します・・・。」
「ははは。善処。いいね。善処してくれたまえ。」
何が面白かったのか王子が笑い出した。
「多分竜を連れてあの大きな剣を持って行けばそれだけで目立つとは思うよ。それを善処だなんて何を見せてくれるのか楽しみだよ。」
「あまり期待しないでおいて下さい。」
「あぁ。多いに期待しておくよ。」
駄目だ。会話が通じていない。
「お待たせしました。」
王子が笑っているとおばちゃんが戻って来た。
「受注はされました。長期依頼になるので一年に一回の依頼達成義務は免除されますが、依頼が達成できない場合はランクが下がってしまうので何か受けておく事をお勧めします。」
笑っていた王子に怪訝な顔をしながらも説明してくれる。
「わかりました。」
明日にでも何か受けてみよう。
改めてお礼を言って冒険者ギルドを後にした。
最近文章の短さについて悩んでいましたが、3000文字↑を目標にしたいと思います。




