09:学校
「学校ですか?」
「うん。」
ある日ウェルザード王子が部屋に尋ねて来て「学校に行かないか。」と言って来た。
「学校ねぇ・・・。」
外を見ると紅葉も進み秋が深まって行くのがわかる。
そしてこの国で学校は雪解けの後、春から新しい学年が始まるのが通常だと記憶している。
何故今の時期なのか・・・。
「勘違いしている様だけど、今日明日からという事ではないよ。春から。」
「そうですか。まぁ行けと言われたら行きます。」
王族の三兄弟とは最近は軽口も聞ける仲になっている。長男のロバートさんはあまり会う機会が無いので無理だけど。
「別に強制じゃないよ。お願い。」
「正直言って学校で学ぶ事は少ないと思いますが。」
エネさんの魔法授業に加えてグアスランドさんから教えてもらった知識と日々図書館から借りている本達。今更そこらの学校で教わる事は無い気がする。
「あー。説明不足だったね学校と言ってもチクバ学園。今更ルイジュ君をそこいらの学校に行かせる意味はないもの。」
「チクバ学園ですか。理由を聞いても?」
他国に留学するということはお金もかかるし手続きも必要となる。
思いつきで行かされるとうことはないだろう。
「勿論。まず貴族の子はなるべく他国の学校に行ってもらっている事。それと来春からサルーンが入学するからルイジュ君も入学して、たまには相談に乗ってあげて欲しいと思ってね。」
「サルーンさんが?」
「うん。王族で行っていなかったのはサルーンだけだからね。まぁサルーンも今更勉強する事は少ないだろうけど、これも一つの務め。三年間学園で交遊を広げて来いということ。」
「もしかして貴族の子供の件も同じですか?」
「国同士が仲良くするには、やっぱり国の中枢に近い者同士が知り合いと言うのは大きいからね。それに僕達は他種族との結婚はそう多くはないでしょ?」
多くはないどころかほとんど無い。
僕の父と母の場合、第三婦人という事があっても例外的扱いだ。
それに王族の場合はエルフと結婚することもほぼない。血統を守る為なのかハイエルフ同士で結婚する。
「あとは例の問題もあるからなるべく色々な国と仲良くしておきたいのだよね。」
例の問題とは結界の話しかな。
「一応お願いなんだけど、父上からの指名だし断らないで欲しいかな。」
「王様からの指名って命令と何が違うのですか・・・。」
さらに衣食住を世話になっている手前断れない。
「ルイジュ君は「竜の友」とか「グアスランド様の使い」とか色々と規格外だから気を使っているんだと思うよ。まぁ父上からのお願いだから僕の裁量で報酬も用意してあるよ。」
「報酬?」
お金かな?
「じゃーん。冒険者ギルドへの推薦状です。」
懐から取り出したのは一通の書状。
冒険者ギルドは基本的に成年に達したものしか登録できない。もっとも成年に達していさえいれば登録できるので多くの人が身分証明目的で成年すると共に登録している。
また、銀行機能も付いている為にそちらを目的として登録する人もいるようだ。もっとも大きな金額に付いては引き出せない事も多いので、商人を志す人は商業ギルド、職人は各々の職人ギルドへの登録をするみたいだ。
「他にも今まで通り衣食住の保障に追加して、学園の入学金やその他必要経費も国持ちです。」
「推薦状は嬉しいですが、もう一つお願いできますか?」
「うん?言ってて。」
「メリナの件、骨を折ってくれませんか?」
「あー。いいよ。正直言って、もっと色々と条件を考えていたけどそんなことで良いの?」
「ええ。成年前に冒険者に成れるのは嬉しいですし、お金が必要なら冒険者で稼げば良いだけですから。それにメリナの事で僕が出来る事はあまり多くはなさそうです。」
メリナはこの一年程一人の騎士と良い関係になっているが、相手は三男坊とはいえ貴族。
エルフですら無いメリナとの結婚を向こうの家族が良い顔をしないだろうことは予想が出来る。
「ルイジュ君でもなんとかできると思うけど、まぁ僕の方で手を回しておくよ。なんにせよ話しが纏まって良かった。」
纏まるも何も行けと命令すれば済む事なのにありがたいことだ。
「さっそく登録しに行くかい?」
「そうですね。折角なので。」
「じゃあ行こうか。」
どうやら一緒に行ってくれるらしい。
手早く準備を済ますと城を出る。
冒険者ギルドは街の略中心にあるがそれほど大きくはない。それはこの国の冒険者がそれほど多くないからだ。そして他国との交易が少ない理由でもある。
このエルフの国「オビリオン王国」は四方八方を森で囲まれているが、結界のおかげで魔獣が出る事はない。となると冒険者達の仕事は薬草採取や獣の狩猟、それに街の雑用となる。そしてそれらは稼ぎになりにくく人気がないので冒険者は集まらない。
それでも困らないのは、ある程度成長したエルフなら森の中で困る事は無く、採取も狩猟もこなすからだ。その為わざわざ冒険者ギルドを通すメリットが少ない。ギルドの場合は保証という面ではメリットがあるけれど、エルフの人口はそう多くは無い上に皆長寿なので顔見知りが多く、個人な依頼をお互いに融通し合ってしまうのだ。
また、森に囲まれた国ではあるが、多少の農場はある。そして少しの農場で食料自給のほとんどをまかなえてしまっている。その理由は精霊魔法。精霊にお願いして収穫を早め、土壌を回復する。そうした工夫によって主食として食べられている麦に至っては年6回の収穫が可能だ。
海が無い為、塩だけは輸入に頼っているけれど、その塩は国が一括して買い取り管理している為に商人の出る幕はあまり無い。
そして最大の理由は特産品にある。魔獣が居ないために魔石は出ない。ダンジョンが無い為に宝物もない。森や山を荒らす事をしないので宝石もほとんど採れない。有名なのは弓、そして木工細工。弓矢は良い物が多いけれど消耗品である為にそれほど買って行く商人は居ない。そうなるとどうしても商隊の規模は大きくなりにくく、塩を運んで来た馬車に弓と木工細工を乗せ、多くは空き馬車で帰る事になってしまう。
商人としての旨味は少ないのだ。
勿論、纏まった塩を定期的に売れるのは良い事なのだろうけど、値段は国同士で話し合われている為に商人の裁量で決める訳にもいかないのだ。
かといって外貨獲得の手段が無い訳でもない。竜やグリフォンの卵である。
飛行騎士団等は卵の状態からそだてて自らの騎獣にする為、ケイラク山脈から運ばれた卵は必要とする国に売られる事になる。
しかし、これもほとんどが国同士の取引になるので商人の出る幕は無い。
売る方としては何処に売っても構わないのだけど、買う方はその国に睨まれたく無いので国を通すようだ。
あと来るとしたらエルフの国を見てみたい観光客か、流民。
エルフは子が出来にくい為に他人の子でも種族全体で大切にする。それは王家が主体となって経営されている養子院といった形で現れていると言えるだろう。流民のほとんどは親を失った子や仕事を失った者達だが、この国では少なくとも子供だけは守られるので毎年少なくない数の流民がこの国を目指してやって来る。
これは頭の痛い問題でもある。
国に住む事は構わないし、食料も何とかなる。ただし、仕事は少ない。
森で働ける様な人は流民になるよりも他国で冒険者になっているし、かといって農業は精霊魔法が使えないと厳しい。良くて雑用である。
街中で商売をしている人もいるし、メリナの様に使用人になる人も居るが、寿命や魔法能力の差から、どうしても稼げる仕事についている人はエルフが多い。
経済的格差は不満を生む。
元々流民であった為に衣食住をなんとか賄えている現状をありがたく思っている人も多いし、仕事を作る様にはしているけれど、この不満はいずれ大きくなるのではないかとウェルザード王子は呟いていた。
今のところ僕には関係がないけど国を圧迫する前になんとかしないといけないのだろう。
国政とは色々と面倒そうだ。
「チクバ学園=筑波研究学園都市+竹馬の友」より。
ちなみに王様はルイジュに命令することはありません。それだけ「竜の友」とは重要な事なのです。




