03:出会いは突然に
二日ぶりにバイクで山を走る。
山を走ると言っても峠を攻める訳ではない。
道路交通法で許されるスピードで風と景色を楽しむのだ。
たまにちょっとだけ飛び出ちゃうこともあるけどそこはそれだ。
愛車は翼がトレードマークのHから始めるメーカーとだけ言っておく。
このバイクを選んだ理由はいくつかある。
第一に翼に憧れた事。
第二に250ccである事。
第三に乗っていて気持ちが良い事。
天気は良く、雲も少ない。
気温も暖かくなり始めもうすぐ桜も咲くだろう。
そうなると短い冬休みを終え学校も始まる。週に何度もバイクに乗る事は難しくなる。
後数日は充分に楽しみたいものだ。
僕が何故バイクで走るのか。それは愛車を選んだ理由にもにも繋がる。
僕は空が飛びたい。
なら飛行機にでも乗れと思うかもしれないけれど、それは違う。ヘリコプターも勿論違う。おそらくロケットも違うだろう。
僕は自分で飛びたいのだ。
思えば物心がついた頃から思っていた。空を飛びたいと。
鳥の様に空を飛びたい。虫の様に空を飛びたい。風の様に空を飛びたい。
箒に乗って空を飛びたい。觔斗雲に乗って空を飛びたい。気を体に纏って空を飛びたい。
勿論、高校生になった今では身一つで飛べないことはわかっている。
初めて自転車でスピードを出した時にはその先に飛べる可能性がある様な気がした。
飛行機に乗った時は部屋の中から外を眺めている気分だった。
ヘリコプターは音が五月蝿かった。
スカイダイビングは落ちているだけだった。
内緒で乗った大型バイクは確かに飛んでいた。ただし地面を。
バイクでスピードを出せば出す程地面に縫い付けられる。
だから法定速度。たまに少しオーバーしちゃうくらい。
そのくらいが一番自由なのだ。
そろそろお気に入りのカーブに差し掛かる。
そのカーブの先は切り立った斜面。そのためカーブを抜けた瞬間は目の前には空が広がり、いつもよりも飛んだ気分に成れる。
立ち上がりに少しアクセルを回すと更に良い。
ミラーに映る対向車はなし。
安心してアクセルを回した時に異変が起きた。
一瞬の白い靄。直後に現れた男の子。
どう現れたのかはわからない。
手で掛けた急ブレーキは前輪をロック。直後に後輪が流れ、バイクがぶれる。
地面に倒れ滑るバイク。
少年を避ける事はできた。けれど、右手と右足が地面とバイクに挟まれて僕も滑っている。
不思議と痛さは感じず、熱さだけを感じる。
視線の先にはガードレール。
少年は目を見開いて驚いた顔。
バイクと僕はガードレールにはぶつからず、その下をくぐって宙を飛んだ。
地面に引っ張られる束の間、確かに僕は空を飛んだと感じていた。




