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04:鍛冶の町の騒ぎ①

これから三話続く「鍛冶の町の騒ぎ①〜③」はとある男の目線になります。

主人公は影薄め・・・。

 


 おそらくこの数十年で一番街を騒がして、確実に俺の人生で最高の出来事を話そう。


 あの日、朝から御山の様子はおかしかった。


 いつもより流れ出る溶岩は多く、吹き出す火もまた強かった。


 それに御山の守護竜。炎帝竜リファイタ様のうなり声が街まで届き、街の奴らは尻が座らないみたいだ。


 俺にも下の奴らが騒ぐ気持ちはわからなくもなかったが、朝から炉の前にどっかりと座っていた。

 さすがに親方としてのメンツがあるからな。


 それにしても年に数回は機嫌が悪い事があるがこれほどじゃ無い。


 まさか馬鹿な冒険者が戦いを挑んで傷でも付けたんじゃねぇだろうな。


 リファイタ様は従える炎の様に荒々しい方だが、火の暖かさを持った心優しい方でもある。


 戦いを挑む冒険者を好み、時にその鱗を分ける事もあるくらいだが、礼儀を知らない奴や力不足の奴らが挑むと機嫌を悪くされる。

 もっとも山頂まで登れる冒険者は少ないのだが・・・


 その少ない冒険者もリファイタ様に傷の一つ付けられたという話しは聞いた事が無いので討たれてしまったという事も無いだろう。

 そもそもリファイタ様が討たれてしまったら御山は噴火し、ここいら一体は人の住めない地になるだろうから誰も討とうとはしていないと思う。

 どっかの馬鹿な貴族は討伐しようとして消し炭になったがな。いいざまだ。



 夜になっても街の様子は変わる事も無かった。むしろ悪化しているかもしれん。


 うなり声は大きくなり、時折地響きすらある。


 このまま続くようじゃ寝れない奴らは多いだろう。


 弟子達も仕事に身が入っていない。一応叱っておいたがしょうがないかもしれんな。

 今日は早めに仕事を上がろう。


 たまには弟子達にも酒を飲ませてやるか。


 そんな風に考えていると招集がかかった。


 街としての対策だと。原因もわからんのに対策もクソも無いだろう。

 たぶん何処かの馬鹿が格好付けて招集をかけたに違いない。


 あぁめんどくさい。


 酒でも飲んで寝ちまえと一番弟子に金を預けると中央の館に向かう。

 面倒だがこれも親方衆としての義務だ。


 やはりグリンゴの馬鹿が招集をかけたらしい。

 彼奴は人の顔色をうかがうのが得意だがそれだけだ。鍛冶の腕も強さも無い。

 強いて言えば品質の低い武器を高く売るのが得意だが、どちらにせよ尊敬に値する男ではないな。


 それに比べて女将衆をまとめるイヴはさすがだ。

 何があっても良い様に宿の女将達に通達を出して待機させているらしい。


 冒険者ギルドの副ギルドマスターも中々肝が座っている。

 マスターのジェイブの野郎は冒険者達を取りまとめているらしい。


 ぎゃあぎゃあ騒ぐのはグリンゴの馬鹿だけ。

 決めた。あとで彼奴あいつをぶん殴ろう。



 進まない話し合いに嫌気がさす。特に無駄に騒ぎ立てる馬鹿グリンゴ

 あ、イヴに叩かれた。ざまぁねぇぜ。

 

 そんな時、ジェイブの使いが走り込んで来た。

 制服を着ているところを見ると職員か。


 息を切らせながらも報告してくれる内容を聞いて驚いた。

 御山から竜が来るだと?


 外へ出ると街の奴らも御山を見ている。

 正確には真っ赤な御山の光を背負って暗い影だけが見える竜のシルエットをだが。


 近づくにつれてリファイタ様でないのはわかる。

 以前お会いしたリファイタ様はもっと大きかったし、口元から常に火が漏れていた。

 それに隣に小さな影があるのは気のせいだろうか?


 近づいて来た影は既にその隣の影も確認できる大きさになっている。

 どうやら中央広場に降りて来るらしい。街の奴らは遠巻きに見守っているがどうしたものか。


 ジェイブの奴が一歩踏み出している。

 イブの奴も行く様だし、俺も行かねぇと駄目だろうな。


 降りて来たのは綺麗な若い竜と子供のエルフ。

 エルフというのは見た目と年齢が合わない事が多いが、おそらくあの子供はハーフエルフ。おれらドワーフとそれほど年齢による変化が変わらないはずだ。


 「私はジェイブ。この街の冒険者ギルドのマスターを務めている。この街は少々立て込んでいるのだが、君は原因を知っているかな。知っているのなら教えて欲しいのだが。」


 ジェイブの野郎が私とか言っているのはちょっと気持ち悪いが、あれがギルドマスターの仮面の一つなんだろうな。


 「あ、はい。僕はルイジュ・ブラッドです。多分もうすぐ大人しくなるとは思うのですが、一つお使いというかお願いがあって来ました。」


 「願いだと?それよりもさっさとあの騒ぎを止めて来い。その竜に乗って山やって来たのは見たぞ。さっさと行け。」


 グリンゴの野郎黙っている事ができねぇのかよ。

 自分より弱いものには強く出る心意気気にくわねぇ。もっともあの子供がグリンゴよりも弱いとは思えねぇが・・・。

 それよりもあいつは立場というものがわかってねぇ。

 こちらはなんとか御山を落ち着かせたい立場。お使いと言った彼は少なくとも御山のリファイタ様との繋がりがある。あの人の逆鱗に触れたら人も街もあっという間に消し炭になる。


 「とっとと失せろエルフのくそガキ!」


 「はぁ。」


 「なんだ?この私に、「黙りな。」」


 俺が手を出すのとイヴが手を出すのとどっちが早かったか。どちらにせよ馬鹿グリンゴは俺の足下に眠った。


 「すまないね。この馬鹿の意見がこの街の総意という訳じゃないから勘弁しておくれ。」


 「あ、はい。ほらルーファも落ち着いて。」


 あの竜はルーファというのか。とりあえず話しを聞いてくれる相手で良かった。

 副ギルドマスターにグリンゴを任せると直に猿ぐつわをされ、手足も結ばれてる。自業自得だ。


 「それでお願いって何だね?リファイタ様から何か頼まれたの?」


 子供の相手はイヴがする様だ。まぁ厳つい顔のジェイブよりも良いだろう。イブも年がいったが美人な方だし子供も三人いる。子供の相手は慣れているはずだ。

 ジェイブもイヴに任せた様だし、俺の出番は無い。


 「はい。一番腕の良い武器職人さんをお借りしたいのです。」


 「武器職人かい?この街には沢山居るけれど、何の武器を作るかによってかわるのよ。職人によっても得意分野があるからね。」


 「えっと。竜の素材を打てる人が良いのですけど・・・。」


 「それは御山が騒がしいのと関係しているのかな?」


 「はい。それが終われば落ち着くと思います。」


 「ゴリガス!」


 やれ、お呼びか。まぁ武器職人の事だったら俺が一番詳しいか・・。


 「あぁ。竜のどの場所だ?それによって道具も変わる。あとはイヴが言っていた何にするかだな。それに必要な道具がこの街にあるかは不明だ。」


 俺の工房にある物で済めば良いが、他の職人が何を持っているかまでは知らん。工房はそれぞれの職人の聖域だから覗く様な真似はしねぇ。グリンゴの様に首を突っ込む馬鹿も居るにはいるが、そんな奴らの腕はたかがしれている。


 「角です。道具はこちらで用意していますけど、武器の種類はわかりません。」


 「あぁ?」


 「すいません。」


 いや、怒っている訳ではないのだが・・。


 「ごめんね。怖いけど怒っている訳ではないんだよ。(ほら、職人や冒険者を相手にしているわけじゃないんだから、自分の孫を相手にしていると思って相手しなさい。)」


 イヴに怒られたが、俺は以前子供にも孫にも泣かれたんだが・・・。


 「えっとな、坊主。道具を用意してあるって坊主が用意したのかい?竜の素材はそこいらにある様な道具じゃ駄目なんだが・・。」


 「違います。道具はメルティナさんがとっておきを出すそうです。」


 「そうかい。じゃあ道具はそのメルティナさんに任せるとしても、場所が御山という訳にはいかんだろう。鍛冶には火だけでなく水もいるんだ。あの山に持って行ったら直に蒸発しちまう。それに職人がもたねぇ。」


 あの山にはいる最初の関門はその熱さだ。上に登れば登る程熱くなり、水袋に入れておいても蒸発しなくなってしまう。


 「えっと、水はリヴァイアさんとソレイズさんが用意するそうですし、熱さもなんとかなると思います。細かい事は直接見た上で聞いてもらった方が良いと思います。」


 「それもそうか・・・。」


 最初にお使いだと言っていたのを忘れていたぜ。


 「じゃあ俺が見に行くからちょっと待ってくれ準備をするからな。」


 「移動は僕が運んであげるからねー。」


 それまで黙っていた竜が言葉を発した。周りが驚くのも無理は無い。


 これは飛行騎士達が飼いならすような竜ではない。リファイタ様に近い竜だ。


 となるとこの坊主は予想以上の大物かもしれんな。とっとと準備をして広場へ戻る。準備と言っても武器や食料は無し。水と防炎布のマントだけなのでそう待たせる事は無かったと思う。


 「行けるぞ。」


 「よろしくお願いします。ルーファ。」


 「リョーカイ。」


 竜の背に乗るのかと思っていたが、口にくわえられた。

 イヴそんな顔をするな。痛くも痒くもねぇ。



 声をかけようと思ったが、あっという間に地面が遠くなる。


 坊主は竜の背だろうか?


 いや隣に浮かんでやがる。


 この坊主も竜なのか?






 

ある男とは「ゴリガス」のことです。

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