12:竜来る日
父が王都から居なくなっても日々は変わらない。
メリナに起こされて研究所へ行き、浮きながら色々な本を読む。
たまにエネさんから質問をされたり質問をしたりする。
最後にサルーンさん(さすがに僕はサル子さんとは呼べない。)の所で『識者』によってステータスチェックをしてもらう。
自分でステータス確認もできるのだけど、魔法を覚えるのは本来五歳になってかららしいので大人しくチェックを受けている。
その五歳の誕生日を一週間後に控えたある日、いつも通りに研究所へ行くとエネさんから研究所の外へは飛ばない様にと言われた。
最近は王城内であれば移動も飛んで行う事がしばしばあったので飛行を禁止されるのは不思議な感じだ。
「なんででしょうか?」
もしかしたら飛行魔法を見た誰かから文句とかが入ったのかもしれない。
「今日は5年に一度のグアスランド様の使いがやって来る日なんだけど、わからないか。」
僕の顔を見て理解していない事を理解してくれた。
「グアスランド様は地竜だ。以前この王国の興こりは話しただろう?」
「あぁ。あの地竜はまだ生きていたのですか。」
確かに王国の起こりの話しには地竜が出て来た。
ただでさえ長い寿命を持つエルフ、そのエルフ達が住む国の始まり出て来る竜が生きていたとは驚きだ。
「竜はハイエルフと同じかそれ以上、特に力を持ったモノ程長く生きる。グアスランド様は七竜の内の一匹。その寿命は特に長い。私達が知る限り代替わりもしていないしな。ともかくグアスランド様はその巨体と地竜であることから飛べない事ので使いの竜をよこすのだが、その時は竜騎士もグリフォン隊もその空を妨げる事をしない。妨げて怒りをかうのを避けたいしな。そもそも妨げにすらならないかもしれないが・・。」
とにかく飛んで目をつけられない様にしよう。
知っている街の住民もあまり出かけないらしいし。
そんなわけで大人しく本を読んで過ごす。
最近では魔法書だけでなく、王城の図書室から歴史書や図鑑、薬学の本、料理の本など様々な物を借りては乱読している。魔法の本だけだと飽きちゃうしね。
お昼を食べ終わってもひたすら本に向かう。もちろん部屋の中で浮きながら。宙に寝ながら本を読むのも慣れた物だ。
コンコン
ドアがノックの後に開かれた。
「ルイジュ居るか。」
エネさんだ。最近は君付けが無くなった。それだけ親しくなった証だとは思う。
「どうぞ。」
慣れた物で浮いたままエネさんを迎え入れる。
「すまないが一緒に来てくれるか。今さっき王城から遣いがあってな・・・。」
どうも歯切れが悪い。
なにか都合の悪い事でも起きたのだろうか。
「わかりました。」
読みかけの本にしおりを挟みエネさんの後を付いて行く。
向かったのは王城の中庭。
そこには濃緑色の鱗を持った竜が居た。王城の中庭はいざという時には近衛兵が集まれる程広いのだけど、竜には狭そうだ。
「来たね。僕はルーファ。グアスランドのお使いで来たんだけど、翼を得た人が居ると聞いてね。気になったから来てもらっちゃった。名前を教えてもらっても良いかな?」
「ルイジュ・ブラッドです。ルーファ様。」
「様なんていらないよ。竜の中じゃ一番小さく下っ端だし、今回もお使いに来ただけだから。」
グアスランドは興国の恩人。その遣いなら賓客だと思ったのだけど、本人が良いのなら気にしなくて良さそうだ。それに話し方もあまり大人な感じがしない。
「それではルーファさん。僕に何の御用でしょうか?あと何処で僕の事を聞いたのか知りたいのですけど・・・。」
「うん。聞いたというよりは知らされたかな。ここで話してあげたいけれど、人の耳が多いから話せないや。用事は見てみたかっただけなんだけど、こうして会ってみると一緒に飛んでみたいね。どう?」
「ルーファ殿。会話に口出す失礼をお許し下さい。」
いつものエネさんらしくない口調だ。
「なに?」
「ルイジュはまだ子供です。空を飛ぶという事は危ない事も多いと思いますので、今まで城から出て飛んだ事がありません。」
「あー。君たち人にはグリフォンや雑竜だけでなく大鷹や七色鳥なんかも脅威なんだっけ。」
「それに万が一落ちたりしたら・・・。」
「まぁ大丈夫だよ。僕が付いているし、そもそもルイジュにその心配は無用だと思うけどね。」
「しかし・・。」
まだ言い張ろうとするエネさんにとどめの一言が発せられる。
「それとも僕が信じられない?」
彼がまだ子供だとはいえ最強種である竜。それも今の立場はグアスランドの遣い。王族たるエネさんだからこそ彼を信じられないとは言えないだろう。
「まぁそこまで言うならルイジュ君に決めてもらおうか。」
二人の視線がこちらに向いた。エネさんには申し訳ないけれど僕の心は決まっている。
「ルーファさんお願いします。」
「よし。任された。」
「エネさん気を付けますから。」
「ルーファ殿よろしくおねがいします。」
「うん。じゃあ僕に付いて来てね。」
体に風を纏うと羽を一つ振るい、そらに飛び上がった。その巨体からは想像できない程の微風だけがその場に残って居る。
「ほら。こっちだよ。」
声に急かされて僕も空に浮かぶ。
「まずはお使いを済ませちゃおう。」
どうやら向かうのはケイラク山脈の様だ。
あっという間に街を抜け、森に差し掛かっても魔物がやって来る気配はない。それはケイラク山脈に入っても同じだった。
「僕達に喧嘩を売ってくる存在は少ないよ。特に空ではね。」
とはルーファの言。
さすが最強種。




