07:鳥の行方
父親と差し向かって取った朝食が終わるとウェルザード王子が迎えに来た。
「例の姉の所に連れて行くね。」
昨日一日付合って行動したせいか口調が少し柔らかい。それに歩きながら色々と教えてくれる。
「姉の名前はエネ。僕の二つ上の姉なんだけど僕達兄弟の事を知っているかい?」
知らないので首を振る。
「そうか・・。まだ三歳だもんね。でも此処で暮らすなら知っておいた方が良いと思うから教えておくよ。一番上がナクス兄。次がエネ姉。三番目が僕。最後がアミル。の四兄弟。母親はナクスとアミル以外は違うけど兄弟仲は良いから安心して。それで王位を継ぐのはナクス兄貴の予定。だから僕は法律とかを学んで大臣を目指しているんだ。そうやって各兄弟が得意分野で国に貢献するつもりなんだけど、エネ姉の担当は魔法研究。軍の魔法隊とは違うから怖くはないよ。」
そうやって話しをしているうちに城から出てしまった。
「あそこが魔法研究所。まぁ研究所と言っても五人しか居ないんだけどね。」
そう言って苦笑しながら建物へと近づく。
五人とは少ないけれどなんでなのだろう。
「五人中四人にはすぐに会うだろうけど、最後の一人は代表でエネ姉の母親だから中々会えないとは思うよ。」
確かエネ姫様の母親は第二王妃様だったはず。滅多に会えないというのも納得ではある。そう考えると王子様達にこうして会っているのは珍しいのだろう。
研究所は中庭を取り囲む様に作られた石造りの建物で特に装飾はなく、いくつかドアが立ち並んでいる。
「ここがエネ姉の研究室。」
ウェルザード王子が扉をノックして声をかける。
「エネ姉!いるんでしょ?ルイジュ君連れて来たから顔見せだけして。」
暫く待つとばたばたとしながら一人のエルフの女性が顔を出した。ぼさぼさの髪はくすんだ金色。黒いワンピースに汚れた白衣。目元に皺を寄せてこちらを覗き込んで来る顔は化粧っけは無く、目ヤニまであり整ったその顔を台無しにしている。
「ちょっとルイジュ君驚いてるから離れて。」
「あぁ。すまん。キリエ頼む。」
エネ姫様の後ろから水が飛び出て来てその目元を漂う。顔を洗うのかと思ったけれどそうではないようだ。
「ルイジュ君すまんね。目が悪いもので。私がそこのウェルザードの姉エネザベートだ。君が生まれたときから固有魔法を持っているという事を聞いて気になってね。」
「はじめましてエネザベート姫様。ルイジュ・ブラッドです。」
父に習った貴族式の礼をする。
「姫様ではなく気軽にエネと呼んでくれ。これから一緒に研究するのだからね。それで早速見せてもらえるかい?」
「ちょっと姉さん。」
王子が何か言っているけど、彼女が見たいのはステータスだろう。
取り出したステータスタグを見せる。
「ステータスタグだね。」
「僕達は良いけれど誰にでも見せる物じゃないんだよ。スキルとかレベルとか悪用しようとする人も居るから。子供のステータスを知りたがる人はいないだろうけど今度スキル欄を隠して貰おうか。」
隠せるのか。
「確かに固有スキルに飛行魔法とあるな。見た事は無いがLv01か・・。」
「危ないので禁止されていましたから。」
「確かに魔法は使用によってLvが上がる場合が多いからな・・。それに・・・。しかし・・。」
その場でぶつぶつと呟き始めた。
「まぁ姉さん今日はそれくらいにしとこうよ。」
「あぁ。すまない。ついつい考え込んでしまった。」
エネさんと別れて研究所を出る。今日は引っ越し準備の続きをする予定だ。
手伝いはウェルザード王子とメリナ。ウェルザード王子は今回の事が片付くまでは他に仕事が無い為、父が部屋を出ない限りは暇らしい。
家は襲撃者に荒らされ、騎士団の検分もあったので更に汚れていたが、昨日軽く掃除していたおかげでそれほどひどくはない。もっとも普段家の管理を一手に引き受けていたメリナからしてみたら気に食わない所は多いらしく怒っていたけど・・・。
持って行く者は着替え・本くらいで、王城の方で用意してくれる家具や調理道具は置いて行く。母の着替えはメリナに貰ってもらった。恐縮していたけれどまさか僕が着る訳にもいかないので押し付けた形だ。荷の積み込みなんかはウェルザード王子の手配してくれていた人に任せ、同じく手配済みの馬車に僕共々積み込まれて準備完了である。
王城に着くとこれまた手配済みの兵達によって一室に運ばれた。
僕のために用意された部屋は父の居た部屋よりも広くドアを区切って隣と繋がっている。隣はメリナの部屋だ。なんでも何処かの貴族がメイドを連れて来た時とかに使用される部屋の一つらしい。今まで住んでいた部屋よりも広いので驚いたけれど、書類上僕はエネさんの招待客となっている為、この部屋でも問題はないというか下手な部屋に住まわす訳にもいかないとはウェルザード王子の言。
荷物が運び終わると荷解きにかかる。ほとんどメリナがやってくれたけれど、荷物が少ないので直に終わった。
荷解きが終わるとウェルザード王子から城で暮らす上での諸注意(行って良い場所、行ってはいけない場所。城の出入りについて。他の人と食事をする場合。等)を受け、ようやく一人で落ち着いた。メリナは更に説明する事があるらしいので、ウェルザード王子と何処かへ行ってしまった。
一人になったのでパラパラと本をめくるが、頭に入って来ない。
家族と離れ不安なのか、王城での暮らしに興奮しているのか、母のことで心がざわついているのか、それとも他の理由か・・・。
自分の心だからこそ良くわからない。
本を放り出してベットへ飛び込む。
空は青く澄み渡り、鳥の群れが飛んで行く。
あの鳥は何処まで飛んで行くのだろうか。
神木か。森か。ケイラク山脈か。
それとももっと遠くの国まで飛んで行くのか。
それは鳥だけが知っているのだろう。
いつか僕も自由に飛んで行きたい・・・・。




