06:メリナの行方
母の遺骸は祖父の手配してくれた馬車で神木の元へと運ばれる。
その馬車には僕とアスキンさんも同乗したけど神木の元へは直に着いた。
何故ならアスキンさんの教会は王城のお膝元で、神木までの距離が近かったからだ。
神木には警備兵が控えており、アスキンさんが書類を一枚差し出すと案内の兵士達が案内をしてくれた。神木の袂には花が咲き誇り、一カ所だけ穴がある。兵士達の助けを借りて母を地面に下ろすと、最初のひとかきは僕が土をかけ、残りは兵士達がかけてくれる。
母の姿が見えなくなるとアスキンさんが祈りを捧げ、兵士達もそれに続く。
祈りが終わると兵士達は直に去って行った。僕はアスキンさんといくつか花を摘み黒く盛り上がった土へと手向ける。神木の周りで花が咲いているところは既に亡骸が無い所であり、埋める人の報告が教会からあった時に先程の兵士達が掘っておいてくれることになっているらしい。
一面に花が咲いている所をみると神木の周りは地中での分解は早いのだろう。
若しくは最近死んだ人がいないという事かもしれない。
もう一度祈りを捧げると王城へと向かう。
一人で行こうとしたけれどアスキンさんが馬車と共について来てくれた。
どうもここのところ自分が三歳だという事を忘れてしまう。
城の入り口でアスキンさんと別れて父の元へ。
ウェルザード王子がきちんと話していてくれた様で真っすぐに父の部屋に通される。
ただし父は居ない。まだ王に呼ばれているらしい。
暇なので新しく得た称号と固有スキルの確認をしておくことにする。
『神託』:時に神からの言葉が与えられる。
『神言』:神の言語を理解し、発する事ができる。
『神託』は時たま与えられている人も居る様なので隠さなくても良さそうだけどどうしよう・・・。
そんな事を考えているうちに父がウェルザード王子と共に帰って来た。
「母様は無事、神木の元に納まりました。」
「いずれアスキロン殿にもお礼を言いに行かねばならんな。」
報告はそこそこに僕の身の振り方に着いて話す。
「私としては養子院か王城が良いと思う。ロバート殿にお世話になるならば王城で世話になった方が双方に良いと思うし、ゴーガス村はルイジュの年齢ではキツイだろう。どちらが良い?」
僕が二択から選べということらしい。僕が希望していた方法が二択に残っていたので問題は無いけど一つ聞いておかねばならない。
「メリナはどうなりますか?」
うちで家政婦をしていたメリナは一般家庭の出の獣族だ。両親は人族だけど先祖に獣族がいたらしく家族の中でメリナだけが犬族の特徴を持って生まれて来た。年は二十そこそこで独身。家族は6人。それほど裕福でなかった為、長女であるメリナが住み込みで働きに来ていたが、今は実家に帰り弟夫婦の世話になっているはず。
「メリナか・・・。希望すればゴーガス村には連れて行けるが、あまり良い環境ではない。こちらで仕事を探してみるつもりだ。」
基本的に男所帯らしいゴーガス村。
いくら荒っぽい連中でも騎士家の女性に手を出す馬鹿はいない。けれど、その家政婦となれば不埒な事を考える人が出て来てもおかしくない。お世話になったメリナをそんな目には遭わせたくない。
「ルイジュ君がうちに来るならメリナさんも引き取っても良いですよ。その人が王城の仕来りを学ぶつもりがあるだのだったらと条件が付きますけど。」
ウェルザード王子がこちらを見てニヤリと笑った。僕の言いたい事はバレバレらしい。
「メリナと王城でお世話になりたいと思います。」
知っている顔があれば王城での暮らしも少しは過ごしやすいだろう。
僕が王城に住む事になってからのウェルザード王子の行動は早かった。
城を出た足でメリナも元へと出向き、家族を驚愕させつつ説明。メリナが城に来る事になると僕の家へと向い家財道具の整理と引っ越しの用意。本家へ出向き祖父と次兄に話し、さらに教会へ出向きアスキンさんとエミリアさんへ説明。警備の詰め所でロバートさんへ報告。
正直一緒に連れ回された僕の方が疲れてしまった。彼は王子と言っても随分と積極的に動く人らしい。
最後に王城へ戻り、今日は父の所に泊まる。
母が死んで初めて父親と寝るとは不思議なものだ・・・




