05:ブラッド家の行方
皆が驚きの硬直から解けた後、母とのお別れにそれほど時間はかからなかった。
父が涙をこらえ言葉をかけ、僕が母の手に花を握らせる。
メリナは泣きながら母に話しかけた。
祖父と次兄と第二婦人は一言も発せずに祈りを捧げ、続いてウェルザード王子が貴族式に、ロバートさんが騎士式に祈りを捧げると続く人はいない。
最後にアスキンさんが再び神に祈りを捧げて終わりとなる。
この国で遺体は王城の後ろにある神木の元へ埋められるので、燃やす事も無い。
その為、国民は皆亡き人に祈るときは王城の後ろに回り、神木の元で祈る。
神木は光の女神の子とされている為にこの国では光の女神の教会が多い。
他の女神と対立している訳ではないようなので他の女神の教会もそれなりにある。他の女神の教会を全部含めた数と光の女神の教会の数が同じと言うから影響力は違うのだろうけど。
母の遺体は明日、僕とアスキンさんが連れ添って神木の元へと運ぶ。
父は王に呼ばれている為に来れない。そもそも今回出て来れたのも特例らしい。
お別れが済むと教会の一室を借りてこれからの事に付いて話す事になった。
父も僕も次兄も祖父も揃っているので丁度良いから。
ウェルザード王子だけが同席し、他の人は席を外してもらった。
まず父が不始末を皆に誤り、続いてウェルザード王子が言葉を発する。
「父の意向を伝えます。」
王子が言う父とは現国王クルト・メジク・デリエール大公である。
「ブラッド家には爵位の返上を求め、元の一騎士家とし、現在持つ武具販売許可その他権益の一切を白紙に戻すとのことです。しかし家屋等の財産は残すそうなので好きに処分して良いです。さらに任地としてゴーガス村へ赴任していただきます。それに伴い現当主ルイス・ブラッドはケイン・ブラッドに当主を譲り、補佐にゲルグ・ブラッドが付きルイス・ブラッドはケイン・ブラッドの元、武に励むようにとのことです。」
「ありがたいことです。」
祖父が口を開くが、家は取り潰されず次男への継承も認められている。祖父は隠居を止める事になるけどエルフだけあってまだ若く見える。若いと言っても40代後半くらいだけど。
「ただし、三人が赴任を望まぬ場合は家を取り潰す故、さっさと財産を持って国を出ろと仰せでした。」
「ゴーガス村でこの国の為に働きたいと思います。」
次兄が即答し、父も祖父も頷いて話しは済んだようだ。
ただ僕には一つわからない事がある。
「ゴーガス村って何処でしょうか?」
「ルイジュは知らぬか。私が初めて赴任した地だ。」
祖父の言葉を父が次いで補足してくれる。
「王城の後ろにある神木のさらに奥には森が広がっている。その森を抜けるとケイラク山脈が広がっており、その山脈の麓と森の間の村だ。山脈からの魔物の侵入を防ぎ、時に騎乗となるグリフォンや幼竜を捕える者達が休む場所でもある。」
過酷な地ではありそうだ。
「ルイジュ君について4つの選択肢があります。」
僕の目の前でウェルザード王子が四本の指を立てて、一本折る。
「一つはお兄さんに付いてゴーガス村へ行くこと。この場合はお父さん達と暮らす事はできますけど、ブラッド家はお兄さんの子供が継ぐ事になるので、いずれは一人で立たねばならないでしょう。」
続いて二本目の指を折る。
「一つはこの教会にお世話になる事。養子院では孤児、その他親を失った子供を引き取って育てていますし、エミリア様の許可もあります。養子院は十五才までの子供を預かる事にはなっていますけど大体は十二〜十四才で職を見付け働きに出る様になります。」
三本目。
「一つはロバードさんの家の養子になる事です。これは彼が貴方の母親から頼まれたので希望するなら子供として育てると言ってくれています。ただし彼には既に子供が三人居るので肩身が狭いかもしれません。」
最後の指をゆっくりと折り曲げる。
「最後の一つは王城にくることです。今回の件を調べているうちに君の固有魔法の件について僕の姉に知られてしまいました。彼女の興味がそう何年も続くとは思いませんけど、一度引き取った手前十五歳の成人までは責任を持って世話をしますよ。僕としてはこれをお勧めします。他の三つを選んでも姉の事ですから君の元を尋ねて行くでしょうし、僕としても文句を言われないので助かります。」
そこまで話し終わるとニコリと笑って僕の頭を撫でる。
「今回は君の三歳らしかなる言動を買って話させてもらいましたけど、お父さんと話して決めて下さい。城に来ればお父さんの所へいける様にしておきますから。」
ウェルザード王子がそう締めくくって話しは終わった。
祖父と次兄は本家へと戻り準備を。父とウェルザード王子は王城へ。僕はアスキンさんやメリナと夕食をとる事になっているのでその場でお別れだ。
明日、母を見送った後に父の元へ顔を出す約束だけをして皆を見送った。




