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絶賛婚活中です。byリコリス

右の掌を開いてエーテルボールを作る。その後で忍くんがやっていた属性の内、忍くんがあまり使ってなさそうな属性を重点的にやろうかと何がいいか考える。木と水のそれに比べて魔力の流れがぎこちないようだったのは火と土、だからやるならその二つだろう。でも、火はおすすめはされなかったし土かな。


「……魔術や魔法なんて《地球》にいる時は物語の中だけだと思ってたのに」


すっかり身近になったと小さく笑う。


あの日の私はリークの街の外、毒草の群生地にポツンと立っていた。図書委員の仕事をサボった人にプリントを渡しに行った忍くんと男子一名が忘れたプリントがあったからそれを届けに行った。そしたら教室から変な光が溢れてて、何が起きてるのか確認しようと扉を開けたつもりだったのに全然違う場所にいたものだから混乱して、一時間以上そこにただただ突っ立ってた。


その内に今ではお母さんと呼んでいる斧を持った冒険者兼魔術師が偶然毒草の採取の依頼で来て、何をやってるのかと聞かれて事情を話すと私は拾われた。


身元を隠せと言われ、確認しようがないという戦災孤児ということにしてリコリスという名前をもらった。信憑性を増すために土をかけられたり服を剥がれて裸にぼろ布だけにされた時は泣いた。門番がやっと町に辿り着いて嬉しいのだろうと涙の意味を勘違いしてくれたので今ではもういいかなと思ってるけどあれは辛かった。


お母さん達のパーティはお母さん含めてみんな残念な趣味や性格をしてたけどいい人達で楽しい人達だった。三年前に解散したけど。


二年前、お母さんは王都に行った。元から三年周期で王都とリークの街を行き来していたらしかったのだが私は連れていってもらえなかった。


お母さんは私が一人で暮らせるようになるまではと二年間予定より長く滞在していたらしいが、お母さんの協力者の人から、助手の仕事をやってくれてた学生が、卒業したら助手をやめることになったから助けてくれという手紙が山のように届き、私がBランクに上がって一人で暮らせると判断されたのもあって決定したらしい。


私はお母さんが行ってしまった後スランプになって簡単な依頼も仕損じた。確認のために残しておかなきゃいけない部位を壊したり、採取の依頼なのに原形をなくしてしまったりしてしまった。誰でもいいから誰か支えになってくれる人が欲しかった。


その時ちょうど入れ違いになるように忍くんがやって来た。最初はわからなくて忍くんが私の顔をまじまじと見てきた時に何ですかと冷たく当たったりしてしまった。その時、忍くんが知り合いに似てて、と言っていたがその知り合いは多分私自身だったのだろう。今思うと惜しいことをしてしまった。


休みの日にギルドが空く時間を見計らってイレイスさんと好きな料理の話をしていたら、イレイスさんがシノブくんは?と聞いたときに、肉じゃがですと即答したのでシノブさんが忍くんだとわかった。


その後、故郷の料理なのですがと熱く語られた内容も小学生の時ちょっと引いた内容とあまり変わらなかったのでやっぱりそうなんだと確信した。お母さんから勇者として召喚されたときに巻き込まれた人間が一人じゃない可能性もあると教えられていたので妙に納得した。きっとこれは約束されたことなんだと思った。やっぱり運命だったんだと思った。


それから私は忍くんを尾行して家を調べたり、イレイスさんからシフト表を買い取って忍くんのいる日に仕事をいれるようにした。ストーカーみたいだけど普通のよく言う好きじゃないから多分違う。


普通に好きなわけじゃないけど忍くんと結婚できればいいと思ってる。


普通に好きなわけじゃないけどずっと一緒にいたい、むしろ監禁してしまいたい。自分以外のものであって欲しくない。


普通に好きなわけじゃないけど将来忍くんの子供を産みたい。私とその子供で忍くんの見ているその全てを独占したい。


友達とかに感じる好きとは明らかに違う心地の良い感情。もしかしたらこれが恋とか愛とか言うものだろうか、昔から感じていたけどなるほど私はその時から愛していたのか。


忍くんならもし怪我して冒険者引退しても一応養ってもらえそうだし、意志弱そうだから押し切れそうだし、それに忍くんを見てると他の同年代の異性は何故かオークぐらいにしか見えない。


でも、支部長を焚き付けたりこうやって家まで押し掛けても他人行儀のままで一切の進展がない。家にまで来れたことが進展と言えば進展だけど秘密を握らせたのに脅しもしないし、一人で無防備な女の子なのに襲いもしない。もう少し私に興味を持ってくれてもいいのに。でもそういうところもいい。


ちなみに、勇者達に一人一能力あるように私にも能力がある。それは魔力の流れが見えること。能力の高い冒険者は魔力の流れを皮膚で感じるそうだけれど私は見える。だから薄く魔力で満たされた結界の中でも私には魔力の流れが見える。だからといって常時そんな状態な訳じゃなくて見ないようにすることもできる便利な能力。


魔術の模倣も、作る過程をゆっくり見せてもらえればそれは黒板の数式を写すような簡単なこと、属性付加も思ったより簡単だった。


過去にお母さんにこの能力を言ったらいきなり上級魔術を見せられて、複雑でできなかったらもう魔術教えるのめんどいとか言われてもう教えてもらえなかった。


まぁとりあえず、私には魔力が見えるのでこの家の中に何体か魔物がいるのがわかってる。井戸には多分スライムかウンディーネが、屋根裏にはネズミみたいな見たことがない魔物、地下室にも何かいるみたいだけど漏れ出た魔力しか見えなかったので種類はわからない。台所にもいるのかもしれないけど魔物の肉とかを調理すると魔力が満ちることがあるので確信は持てない。さっきの忍くんの話した内容的にいるんだろうとは思うんだけど。


これも進展しない理由の一つなんだろう、隠してるみたいだから裏を返せば強請る要因にもなり得る。でもできればお互いに幸せな形で結婚したいので今はしない、私にとっても家族になるかもしれないんだし。


「やっぱり周りから固めて行こうかな……」


でも今できることはないのでとりあえず今日はこのまま練習してよう。隣の隣の部屋で忍くんが何やってるかにもよるけれど。そう、理由なんていくらでもこじつけられる。例えばもう一回見せて欲しいとかちゃんとできてるか確認して欲しいとか。


左手の上にもエーテルボールを作る。右手のエーテルボールを火に、左手のエーテルボールを土に、忍くんのものと同じような感じのものを作る。やっぱり流れがぎこちない。でもどこがぎこちないか目で見てわかるから簡単に修正できるけど。


それにしてもどうやったら忍くんと結婚できるだろう。こっちだともう結婚適齢期だからなるべく早く結婚したいんだけど、忍くんが他の人と結婚しようとされたら困る。死人は出したくない。


まず忍くんがあまり恋愛に積極的でないことが要因の一つだと思う。昨日も付き合っているという方向に持っていこうとしたら全力で否定されたし、私に異性としての興味がないとも思えるけどできれば違って欲しい。


でも顔は良いとは言えなくてもそこまで悪く無い筈だし、何でだろう。冒険者だから? 忍くんより高収入だから?それとも、というかこれはかなり大きいと思うけど斧を背負っているからだろうか?


だけど流石にまったく武器を持ち歩かないのは怖い。何度か他の冒険者に闇討ちにあったこともあるし、返り討ちにしたけど、あくまで斧があったから殺さずにできた、剣や槍ではそううまくいく気がしない。勢い余りそうな気がする。


うん、考えても仕方がないしとりあえず忍くんの様子を見に行こう。


両手のボールを解除してソフトボール大の岩を手に持ちながら扉を開けて廊下に出る。隣の隣、右側は一つも部屋が無いので自然と左側ということになる。魔力も見えるし。


確か隣は昨日見せてもらった図鑑の部屋だ。その隣の部屋、不動産屋から聞いてきた間取りだと寝室の筈なんだけど、寝てるのだろうか? 他人が家に来てる状況でまさか寝てるとは思わないけど、寝てたらそれはそれでいいかもしれない。私にとって都合がいい。


そーっと扉を開く。中には簡単なベッドと机だけしかなく、机の上には細い枝を編みこむようにして作られた死神マンティスや昨日図鑑で見たヴリトラ等の魔物の人形が十数個ある。色は付いて無いけど魔物の生々しいえぐさがあって、少し怖いけどそれなりのお値段になりそうな出来だ。そういえば魔物討伐課の課長さんが鑑識課からもらったとか言ってた人形に似てる。


ちょっと魔力があるか見てみれば少しだけ残ってる。一番最近作られたのは死神マンティスの人形みたいで一番多くの魔力が残ってる。もし私が数日前に狩ったのを見て作ってみようと考えてくれてたなら少し嬉しい。


そうだ、忍くんだと思ってベッドの方を見てみると忍くんはベッドの上で寝てた。寝る気はなかったみたいだけど疲れて寝ちゃったらしくさっきのままの服装で少し不自然な体勢で寝ている。毛布を掛けてあげた方がいいのだろうか。


毛布を掛けると忍くんが少し動いた。魔力を見てみると少し活性化してる、起きてしまったらしい。でも忍くんは寝たふりを続けるつもりのようで動かないのでそのまま乗ってしまうことにする。


「……シノブさん。寝てるみたいなのでメモを残して帰りますね……」


大きな葉っぱを作ってその上にインクを垂らして置き書きする。紙はそれなりにお値段がするから勝手に使っていいものじゃない。そうだ、せっかくなので少しいたずらをして帰ることにしようか。ちょっと明日の反応が面白いかもしれない。


忍くんの耳元にそっと顔を近づける。忍くんが小さく動いたけど気づかないふり、構わず近づける。


「……シノブさん、私、シノブさんと結婚できればなって思ってるんですよ?」


まぁ聞こえてはいないでしょうけどと言い残して部屋を出て斧を回収して忍くんの家を後にする。明日も仕事自体はお休みして、空いてる時間を見計らってギルドに遊びに行こう。忍くんの様子を見に。

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