葬儀を終えてbyジギタリス
図らずも連日投稿状態なので気をつけてくださいね……
カイトの葬儀は慎重に行われた。
作られた魔物であり、魔物と人と話せる魔物。
死体を欲しがるやつは少なくない。リークの街がサラマンダーとまともに契約を交わしているのが異常なことぐらいは誰だってわかるし、Sランクってのは何かを超越したような、そういう奴が辿り着く領域だ。
私のように、肉体的にも優れて、魔力的にも優れ、扱うセンスにも優れ、レッドキャップという種の限界を超えて見えるような才能に溢れ、それを伸ばす知識に触れる機会にも恵まれた。人が道理で作るじゃそうそう届かない領域だ。
カイトという存在はそれと契約できるキーパーツ。まぁ普通にSランク冒険者雇うより制御しやすいに違いないって人間の驕りが垣間見えるけど。
それが実用可能かどうかは問題じゃない。それを目的に墓を暴く奴が現れてもおかしくないというのが問題だ。
だからカイトは火葬にした。
僅かに残った骨も灰も等しく同じぐらいに粉々になるまで砕き、粘土に混ぜて焼きあげて、一組の陶器のペンダントにした。これはカイトの遺言書にあった処置だ。本人は書けないからとジジイが口述筆記してたのがあり、シノブとリンコに渡された。
それを敢えて言いふらしもした。その墓に死体はないが、墓は死者のところへ繋がる窓というか、手紙の受付所というか、ズカズカと踏み荒らされていいものじゃないのは確かだ。
それに、そんな小物にかまってられない。精霊国の罪のした事はれっきとした国際問題だ。
それそのものが最早国から嫌われてようと、それほど積極的に殺そうとして来た歴史がないのも精霊国の事実だ。
目の上のたんこぶではありながら、魔女を復活させてから全部の子孫を殺す為に敢えて存続させて来ているし、その為に精霊国で起きた反乱を鎮めた例もある。
それがついに他国に牙を剥いた。幾ら殺したと確実にわかってるのが他の奴らにとっては魔物と捉えられるカイトだけであろうと、侵入して来たのも確かだし、いつもならシノブを守る為にいるリンコが都合よく、緊急に入った軍も出る規模のゾンビ退治でいなくなっている時に来るとか偶然な訳がない。
精霊国の納め方はまぁ二つだろう。討伐を試みるか、国としては無関係だとほっぽり出すか。
でもそれはまぁ、前よりになるだろう。戦争したい理由もないだろうし、共同で討伐しようと言ってもおかしくない。
精霊国の面子的に放置はしないだろうし、第六王子がそういう方向に持っていく。
それはシノブとリンコが明らかにそう考えているからだ。
シノブは弱いしシノブ自身は戦って足しになる感じもない。まぁ強いてあるとしたならスイカが戦う場面が出て来たとしたら魔力と水の補給役か。
でも倒す算段を整えようとしてる。動機に関しては考えるまでもない。
問題は基本的に奴の根城が精霊国で国際的な云々が関わるとろこだが、シノブかリンコのどちらかならともかくどちらともとなると私だって止め難いから、第六王子としては精霊国だけに任せる選択をシノブに奪われてるとも言える。
本格的に戦わざるを得ない状況になってきた。考えとしてはシノブのそれもわからないではない。
向こうはおそらく今残っているリッチーで最古のリッチー、完全に独自に研究を続けていたとしたら私達の今持っているそれとまた違った体系の術式の数々を持ってる可能性すらあると共に、ある程度知られているものに関しては当然の様に修めててもおかしくない。
それでいて殺しても殺せない。
どこへ逃げようとも脅かされる危険がある。なら先手必勝はまぁ行き着くところの一つとしてありだろう。
その一方で、問題もある。
一般的なリッチーの殺し方と私が前に戦った感じから言うならばヒナがいる事で殺す事は不可能でなくなったと言える。でも、それで死ぬなら果たして今顔を出して追われる理由を作るか?
元々殺される理由を欠く事はないが二度召喚が行われたということは二人殺し得る存在が確実に現れたということだ。どちらか闇討ちでもするならともかくそういう事もしていない。
それに、元々のやつの目的を考えればこの国の王族が召喚をしようとしない訳がない。やっぱり何かしらの対策はあるんだろう。
通常のリッチーの様に肉体と魂を単に切り離すだけで済むのか。
シノブも自分から調べたりしてることを考えればその可能性には思い至っているんだろう。
可能な限りのリッチーの文献と死に様を確認している。
使われた死霊術に関しては大概禁忌の術と秘匿されてるし、知識のないシノブに読み解けたものではないし、私の知識だってそんなに足りたものじゃない。
魔物の人形にその魔物か近い魔物の魂入れたら本物に近づくんじゃないかなんて考えて少し勉強して以来だ。
まぁしかし、これ以上私の子供を殺されても困る。幸い、シノブに教授とこの国の中でそうした場所に近い場所への伝手はある。あとはまぁ、最悪脅してでも資料の限りを読ませてもらうしかないか。
「……お義母さん?」
リンコの声に振り返ると、余所行きの格好で扉のところに立っていた。
「ちょっと出かけるからシノブさんのことよろしくね」
嘘だろと思ったがまさかそんな嘘を吐く訳もない。
「どこに行くんだ?」
「ちょっとリークの街に。ちょっと少し死霊に関しての知識を持ってる当てがあるから。全力で走るから今日中にはリークに着くと思うけども、帰りは明日か明後日か、もしかしたらもっと遅くなるかも」
当てって誰だと私が首を傾げるのにも構わずにリンコは窓から飛び出して行く。
確かにこの部屋はリーク方面向きの窓が付いているけど、流石に玄関から出ろよ。
少しするとコンコンと、今度はノックがされる。
「誰だ?」
「シノブです。殺しても死なないリッチーの話って聞いたことあったりしませんか」
「ねーな、殺し方が甘くて死なねぇのは割と聞くが。粉々になるまで燃やして砕いて生き返った話は聞いたことがねぇ……」
「……あと、これからちょっと学校行きたいんで付いてきてもらってもいいですか?タリスさんと一緒じゃないと家から出たらダメとか言われたので……」
わかったちょっと待ってろと言う。
学校行くのは正直あまり好きではない。完全な部外者でジジイの関係の冒険者ってだけならまだしも身内となると相応に顔を整えておかないといけない。帽子も斧もないと落ち着かなくて仕方がないんだが仕方がない。
あの場で何もできなかった、力不足は私も一緒だ。
やつを殺さずにいられないのもまた一緒だ。
軽薄な笑みが思い出される。手の中でカイトの首の骨を折った軽薄な笑みが。
シノブには聞こえていただろうか、無人種相当の耳なら多分聴けてないんだろうとは思うが、小さな骨が折れ砕ける音は私には今まで殺して来たどんな魔物の骨が折れる音よりきつかった。
最初はそれこそ家族ごっこの気でいたが、案外私が思ってるほど情がないわけじゃなかったらしい。
ギリギリと自分の歯ぎしりの音が頭に響いて不快だ。
カイトがペンダントをシノブとリンコに渡したのは多分正解だった。火葬にしたのも正解だ。
私の手元にあって形が残ってたらふいに激情した時にカイトの魂を呼び戻そうとしてたかもしれない。
ああ早く行かなきゃなと適当に対人用の武器から小さなナイフを手に取り、置く。
これは対人なら使えるやつだ。人形を動かす様に、突き刺した人型のものなら手足の関節を逆に無理やり曲げさせる。
対普通のリッチーやオーガの系統、熊に近い魔物の時にもよく使う。両手足を封じて核を探り当て、術式を解除できるなら解除する。
かなり長い付き合いのある愛着のあるナイフだが、これを今は見たくない。前に遭遇した時にこれを使った結果はそのまま耐えられた。
私が注ぎ込んだ魔力で関節ぶち壊す勢いで一気に引っ張る力より、向こうがそれに耐えるべく反射的に使った魔力と筋力の総計の方が優っていたという事。一瞬で出して使える魔力量の差がそこに現れている。
普通はそうはいかない。リッチーであっても再生はそう早くないことが多い、傷は小さくしたいし人間の時の癖で怪我は庇いたくなる。
ナイフで刺される事を気に留める必要ないからの行動が制限されるものだけ適切に防ぐ行動。それを実行できる内包した尋常じゃない魔力、魔力を大量に流しすぎて壊れる事を恐れないでいい肉体。
肉体的に強者ではない精霊人種、その筆頭のエルフの弱点が失われている。魔力量に関してはエルフだと見てもやはり異常と言わざるを得ないところはあるが、死なない体に改造を施すリッチーはそう少なくない。というか再生するというのがまず本来は一つの追加要素だ。
基本的には肉体から魂を離さない。これだけだ。
これができてアンデッド、不死者になるが、脳が腐ったりすれば単なるゾンビだ。さらにそこに防腐処理をして一つ上の存在に、死体ではあるが魔力を以って生前の機能をある程度維持してさらに一段上のリッチーとなる。
生前から有する自己治癒力も含めてリッチーとするならば再生能力を持つ時点でリッチーの上位とも言えるが、やつはさらに次元が違う。
吹き出す血が暖かい。そもそも血が流れるまでに生前の機能が維持されてるのが異常なのに、血は暖かく心臓の鼓動も続いている。
死者が蘇ったのをリッチーと考えた場合、もしかしたらやつはリッチーですらない、本当の意味でのアンデッド、死なないし死んでいない存在なのかもしれない。
このナイフはそんな格が違うという事を思い知らされたもので、頼りになる武器だがやはり、今は見ていられない。
代わりに別のナイフを取る。確か巨大な魔物の血管にぶっ刺して筋肉を硬直させるやつだったか、これは逆に普通の死体を魔力で操り人形的に動かしてるリッチーには効かないがやつには通用する可能性がある。護身用としても申し分ない。心臓でも掠めれば即心臓の動きが止まり、動かない。
さて、早く行かないとな。待たせすぎたかもしれない。
復讐へ。




