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最近になるまで気づきませんでした。

ちょっと猟奇的が過ぎるかも……

カイトが弱って来たのが目に見えるようになったのはここ数週間だ。


また召喚が行われてバタバタと凛子達も動き回り、いつ何がどうなるかも怪しいしと若干身構えていた時から既に弱って来ていた可能性もある、元の魔力の保有量が少ないせいか魔力だけを見る限りは凛子にはあまり差がわからないという。


カイトは作られた魔物で、作っていた奴らは既に潰されている。元に使われた魔物は確かにあるがやはりどの本を見ても治療については乗っていない。そもそも実験動物として扱える魔物とは、影響が見やすく飼育が容易で、それでいて、死んだとしてもすぐに代わりを用意できる魔物。


大抵の本に書いてある病気になった時の対処は栄養状態を良くする、環境を清潔にする、それでどうにもならなければその個体は諦める。という話が書いてある。


実験動物として扱う程身近な魔物であるのに実験動物としてしか扱えないから情報が偏っている。ネズミの魔物の類は下手すると深刻な病気とかに繋がるのでやはり許可なくしては飼えない。


それに、研究はどうしても派手な方に行きがちだ。私もだけども、まだほんの少しも明かされてない様な魔物が多すぎてついそっちに目が向いていた。


反省は後だ、とタリスさんから貰った本を開こうとして、その手を止める。


これを開いて何になるというのだろう。


この本はあまり資料価値の高くない本だ。擬人化的な表現が多用されている本で、私はその魔物達が通常言葉を用いていないのを知っているが、そうしたものも多く含まれる。


それでもこれを取り寄せたのはこの本が野生の状態の観察記録であるからだ。三割は作者の日記だが、なかなか細かい挙動の観察がされていると聞いている。


でも、カイトのそれはこれを開いて解決するものではおそらくない。老衰から来るものであるというならば果たして何ができるだろう?


無理に色々試すよりも生活の質を良くしたりとかそういう、いずれ来る死を受け入れる為の準備の方が必要なんじゃないか。


表紙が持ち上げられない。でも、だからといって何かすることもできない。何かしなきゃという意識はある、だけども具体的にどうすればいいのかもわかる、だけどもそっちに行動を移したくない。


カイトをもうすぐ死ぬものとして扱いたくない。


考えすぎて決められない。こういう事は何度もあって、その時に答えをくれたのは大体カイトだった。


『大丈夫だよ』


ふと足元で声がした。カケルがいた。


『なんで怖い顔してるのかわからないけど、みんないるから大丈夫だよ』


ありがとうとカケルを抱きしめる。ふと視線を感じて顔を上げるとお義父さんがスズメの脚を掴んで扉を開けて入ってくるとこだった。


「……あー、どうした?」


スズメはどこも傷ついてないからか特に何も言わずに死体みたいにぶら下がり、お義父さんだけがキョトンとした顔で私を見ていた。


「えーと……カイトの寿命の事で悩んでまして……」


ふむ、と一つ頷いてお義父さんが懐に手を入れるとカイトが出てきた。


「当のカイトもその事で話があるそうだ。これからの時間の使い方についてな」


私が手を出すとカイトが移ってくる。


「シノブの事だからきっとより長く生きられる方法などを考えてくれているのでしょうが、おそらく対処療法の様な事はできても根本的な治療はできないでしょう」


その言葉を否定したい気持ちがあるのに否定できない。まして本人が受け入れてるなら私もそれを受け止めようとしなくちゃいけない。


「それでですね、私の持っているちょっとした夢を叶えられたらと思うのです」


「何?」


可能な限りはなんだってしよう、第六王子に頼むでもギルドのアリに取り寄せてもらうでもなんでもやるつもりでそう聞き返したのだが、カイトの答えは思ってもないものだった。


「授業をやってみたいんです。シノブの教え子達に対し、魔物の目線から見たものというのを直接語れる機会もそうないでしょうし……いえ、多分そんな事は関係なく、ただシノブがやってる事を私も少しやってみたいんですね」


「わかった、ちょっと学校行って許可貰ってくる」


そのまま外に行きそうな私からカイトを受け取りつつ、お義父さんが待てと声をかけた。


「落ち着いて、授業の形式とかを先に決めるんだ。魔物ってだけで警戒されるから過剰な安全対策も用意して、学校にそれを願い出る前に賛同してくれる他の誰かもちゃんと抱き込まないと確実にやれるとは限らん」


相談なくリークに飛んでった時とそう変わらんなお前はと半ばお説教モードに入った教授に頭を下げると、それよりカイトにだと怒られる。


確かにカイトの事なんだからカイトが一番で、私が焦っても仕様がない。


カイトは何かしら大きな動きを見せるには体力がないので基本は私がやってる様な講義に近い感じ、ただ、それ以上に魔物との対話という経験を得させたいという事で質問を受けたりする感じで、聞かれた事に答える時間をより多く取る事にして、予め質問を考えてもらう課題をその前の授業の時間も使って生徒に与えてからという事になった。


安全対策とかに関してまずクロースさんに相談して、許可を取る時まで協力して貰った。


同程度のサイズのネズミの魔物というのは結構いるし、毒や呪いや病気や、おそらくは上三つのどれかに該当するけども定かでないものを持っているものなどもいる為、ネズミの魔物の知覚範囲の参考になるだけで一つ生徒達には益がある。という事を言っていたが病気はともかく呪い持ちのネズミの魔物は獣人国の方にしか生息していないし、理由づけだろうと思う。


ちなみにその呪いを撒き散らす魔物は、今の私としては絶対に会いたくない魔物だ。


オスはまだいいけどメスがやばい。この魔物はかなりグロい。


かなりの頻度でこの魔物は妊娠している状態に遭遇するのだが、かなり見境なく襲いかかってくる上に、殺した時に恐ろしい事になる。この魔物は死ぬと呪いが殺したものに襲いかかる。


この世界の呪いは名前を知れば猿でも生贄にでもすれば例えそれが第六王子でもおそらく誰でも殺せる様な類のものである。そして、このネズミの場合は殺した時の死因になる場所が呪われる。


例えば頭を割ったとすれば頭が割れる様に痛み苦しむ事になるだろうし、妊娠中のネズミで腹の子も一緒に潰していたりしたら全身が潰される様な痛みが続く。


そしてこの魔物は、何が恐ろしいっておそらくそれがこの魔物の生き残る手段にして、餌を確保する手段なのが恐ろしい。


例えばうまく親の頭だけを砕いたとする。すると、子供が腹を食い破って生まれてきて、殺したものは腹を食い破られる様な痛みにも襲われる。まず間違いなく失神する。そして、失神していて無防備になったらまず頸動脈が狙われるし、なんとか意識を持っていても正当防衛しながらでも殺したらまた呪いが重なる。


腹の子供の為に親が命をかける。命を捨てる、そういう魔物。


基本的にこの魔物に対しての対処は逃げ一択。無人国での呼び名は存在していないが、現地では死神の呪いと呼ばれているらしい。


一応それを狩る冒険者も少数ながら存在している。腹の子も親もどちらも獣人国では呪いや呪術、死霊術の関係で使われるらしく、状態が良ければちょっと豪華が過ぎる家が一軒買える値段で取引される。


まぁ良い状態というのは限りなく生きてた頃に近い状態の事で、失血死させるのがベターだが、例えば脳に針を刺して殺すとか水に沈めて殺すなどしてからすぐ冷凍したものはより高い値段で取引される。


その場合は殺した人はそこそこのレベルの高い法術師の結界の中で短くとも三年、長くて十五年は過ごさないと頭の痛みから自殺などするケースに繋がる。


ちなみに、尤も被害が少なく狩るには足を止めて空気穴を開けた箱に入れ、法術等で外傷を治し、餓死するまで閉じ込める。死因になる傷が鍵になる呪いの様で、死因が外傷でなく死んだ時に人の手でつけた傷がなければ呪いは起きない。


妊娠中のメスは栄養状態が悪くなると子供を栄養として吸収する。それなりの手間と相応の時間、下手して殺したら法術師にかからなければならない上に超長期契約で資材が吹き飛ぶ事になるが、それでも一攫千金の方法として行う人はいる。


これを、私が最も会いたくない魔物というのはその死に様もそうだけども、これを狩る側で過去にあったある事件が頭によぎるからだ。


子供に死神の呪いの入ったケースを水に沈めさせて水殺させ、失神したその子供も水に沈めて最高級の品質のそれを得ながらノーリスクという悪魔の様な所業を実際にした人がいる。


その人はウサギの獣人で、至る所で恋人を、特に生活に困窮する女性の恋人を作り子供を産ませ、結婚はできないが責任は取ると子供を引き取っては殺し、引き取っては殺し、得た金を使って女性を誘い……という手口もまさに外道。


もちろん私はそんな外道のつもりはないけども、カイトは家族で、その家族に果たしてどれだけ何ができただろうと、むしろ頼ってばっかりじゃないかとか思うと、子供の命を使って生活をしたその男と私とがまるで同じ穴の狢の様に思えてしまう。


きっちり許可も取り、家に帰るとカイトは寝ていた。


大丈夫かなと少し不安になりながら見ていると、珍しくリークに行っていた凛子が帰ってきた。


「何か、話したい事があったりしませんか?」


「……じゃあ聞いてもらってもいいですか?」


凛子に向けて話してみても解決はしない、それはわかっていたことだけどただ何も言わずに聞いてもらえるだけでかなり楽になる。特に何も言ってはいないけど、それ言ったら強引に結婚とかする為に生活滅茶苦茶にした私もその人でなしと同じになりますけど私に対してそう言えます?という感じの表情もかなり効く。


わかってる。私はそもそも頭では私がそうではないことがわかっている。ただ、心の方が追いついていないだけだ。


この世界に来たばかりの頃の様に、悲しさを紛らわす忙しさもないし唐突に奪われたから何もできないのも仕方ないとも思いにくい。だけど、できることは少なく、それこそ、カイトをアンデッドにでもするしか他に方法がないのだから。

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