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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おとぎ話シリーズ

チート人魚姫(後編)

作者: 青鬼

チート童話シリーズ第三弾の後編

前編と違って、ここから先はバッドエンドになります


注意

※先に『チート人魚姫前編』と『チート桃太郎』をお読みください


チート桃太郎を読まない方への注意

※この作品にはすごく強い桃太郎が出ます

翌朝、私は王宮の客室で目を覚ました。

昨晩、私の大胆な告白は、トーハ様の耳に届いていなかったらしい。

なんでも、あまりの恐怖で気絶していたらしく、昨日の晩のことは覚えていないらしい。

ヤイダは王子を騙した罪で牢屋に入れられており、何というか…哀れだった。


国王に話を聞いてみたところ、私がトーハ様と結婚することは大賛成だそうで、三日後に結婚式が開かれることになった。

ただし、条件として、クラーケンにトーハ王国の船は襲わないようにして欲しいとのこと。

クラーケンにお願いすると、あっさりと了承してくれた。


(クソ親父も賛成してくれたしね)


私が結婚すると知るなり、喜んで結婚式の準備を始めたクソ親父こと海神ポセイドンは、お祝いとして大量の財宝を寄越してきた。

その財宝の量に、トーハ王国は国中で大騒ぎだ。

もちろん、いい意味で。


(でも…肝心のトーハ様がアレじゃね…)


トーハ様は、色々なことが立て続けに起こったせいで、寝込んでいた。

何とかして元気づける事は出来ないかと考えながら、私は海岸へと向かった。

お姉さまに呼ばれているのだ。



「待っていたわ人魚姫」


海岸に着くと、お姉さまが居た。


「…」


「声を失って、海も失って、あなたは人間と結婚するというの?」


私は頷いて、肯定する。


「そう、覚悟は決めているのね。…あのね、人魚姫。実は、話があるの。ちょっといいかしら?」


真剣な顔つきで、お姉さまは私に問いかける。

私は、お姉さまの話を聞くことにした。


「実はね、魔女に頼んで、あなたの声と尾びれを戻す方法を聞いたの」


魔女が代償に選んだのは、お姉さまの美しい髪だった。

お姉さまの腰まで届くほど美しく長い髪は、よく見るとボサボサになっており、今までの美しさは消えていた。


(お姉さま…私のためにそこまで…)


「それはね、あなたの大切な人を殺すことだったの」


お姉さまはそう言って、目を伏せる。言うべきかどうか迷っているようだ。

しかし、意を決したように頷くと、私の瞳を見据えてこう言った。


「あなたにとって大事な人、トーハ王子を殺せばあなたの呪いは解けるわ」


それだけ言い残して、お姉さまは去って行った。

私は嫌な予感がして、急いで王宮に帰った。



必死に走り、私はトーハ様の部屋へ向かう。

扉の前まで来ると、護衛が眠らされていて、部屋の鍵が開いていた。

扉を開けると、そこは血に染まっていた。


マッ赤ナ血


そして、その血の海の中で、一人たたずんでいる少女が居た。


ヤイダだ


その手に短剣が握りしめられており、刀身は血でベットリと汚されていた

こちらを振り返る。

ヤイダの目は狂気の色に染まっており、私と目が合うとニタァと狂った笑みを浮かべ、ケタケタと笑いだした。


「ヒャハッ!ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


何を言うわけでも無く、笑い続けた。

私はその光景を見て、ただ立ちすくむしかなかった。


(なんで…なんで、ヤイダがここに?)


私が混乱していると突然、私の体が光に包まれた。


「あ…」


声が出る


視線を下に向ければ、足が無くなり、代わり尾びれが生えていた。


「そんな…まさか…」


信じられなかった、信じたくなかった、信じなかった。


私は魔術でヤイダを殺した。

跡形も残らずにヤイダは死んだ。

私はフラフラとした尾びれあし取りで一歩…また一歩と血の海に近づいていく


見たくない、みたくない、ミタクナイ


しかし、私の体はいうことを聞かずに、ついに、血の海が尾びれに触れる。


ドロリと青い鱗が赤い血に染め上げられる。

しかし、私はそんなことを気にかける暇は無かった。


「い…や…イヤァァァァァァァァァァァァァ!?」


そこには、トーハ様が見るも無残な姿で倒れていた。

体のあちこちに刺し傷があり、顔の皮が剥がされていて、筋肉が露出している。

潰れた眼球がくりぬかれて、死体のそばに転がっていた。

私は口を押さえて、トーハ様 (だったモノ)から離れる。


「ウ…ウェェェェェェ!」


吐いた


吐瀉物を床にぶちまけながら、私の瞳から大粒の涙がこぼれる。


「何で…何でぇ!?」


どうしてヤイダがここにいたのか

どうして部屋の鍵が開いていたのか

どうしてトーハ様が殺されたのか

どうして…


「どうして…?お姉さまぁ?」


私の口からそんな言葉が零れ落ち、自分で言っておきながら、どういうことかと考える。

お姉さまがこんな事をするはずがないのに?

トーハ様を殺したのはヤイダなのに?

なぜ私はお姉さまと言った?


「助けてあげようかね?」


私が思考に没頭しているときに、しわがれた声が部屋に響いた。

顔をあげると、美しい金髪をした魔女がそこに立っていた。


「ま…じょ?」


「王子様を助けてあげようかい?」


ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、魔女は私に問いかける。


「王子様を…生き返らせることができるのっ!?」


「ああ、これは蘇生薬。死んだ人間を生き返らせることができる薬さ」


私は魔女に縋り付いて、「それをくれ」と頼み込む。


「いいともさ。ただし、代償はお前の全てをもらうよ」


「私の命でトーハ様が助かるなら、いくらでもくれてやるわっ!」


私は頭の隅に何か違和感を抱きつつも、魔女にその薬をくれるようにせがんだ。


「交渉成立だね。では、代償をもらうよ」


そういって魔女は私に向かって手をかざす。

私の体が光に包まれ、泡となって消えた。


・魔女視点


人魚姫は泡となって消え、部屋には私一人が残った。

泡を一つすくい上げ、それを飲み込む。

その瞬間私の体は光に包まれ、人魚姫そっくりになる。


そっと、自分の髪を撫でる。

この髪は、人魚姫の姉の物だ。

「人魚姫の声を取り返す方法を教えてやる」と言えば、簡単に交渉に応じてくれた。

自分の大事な髪より、妹の声の方が大事だということだろう。


「美しい姉妹愛ね。まあ結局、無意味だったけど」


そして、ヤイダとかいうバカ女に寿命を代償にを監獄から出してやり、そそのかしてやれば、簡単にあの女は復讐に走ってくれた。

しかし、人魚姫に邪魔をされる可能性があったので、人魚姫の姉に人魚姫を海岸までおびき寄せてもらっていた。


人魚姫は直感的にそのことに気付いていたようだが。


トーハを殺した瞬間を人魚姫に見せつければ、人魚姫は簡単に自分の命を差し出すだろうと予想は出来ていた。


「あの女のお蔭で計画が簡単に進んだわ」


人魚姫の姉の美しい髪に、人魚姫の美しい容姿。

ローブは美しいドレスへと変貌し、ウィッチハットは美しいティアラに変わる。

尾びれと足は自由に入れ替えることができるようになった。

そして極めつけは人魚姫の持つ強力な魔力だ。

桃太郎という男には劣るが、世界中を見てもこれほどの魔力を持っている者は五人といないだろう。

人魚姫の全てを奪う事が出来た。

私は、計画が上手くいったことに満足し、笑みを浮かべる。


「さてと、約束はちゃんと守らないとね」


貴重な蘇生薬の瓶のふたを開け、王子の死体にかける。

死体が光に包まれ、光が消えると、王子は生き返った。


「このまま王子と結婚するのもいいけど、桃太郎に勘付かれるのはまずいしね」


彼が、私は人魚姫ではないと気づけば、戦いは避けることは出来ないだろう。

彼と戦いになれば、無事に勝てる自信は私には無い。

海での戦いだって、王子や兵士を気遣った結果の負けだ。


「しばらくは身を隠しておこうかしら」


「待てよこのクソアマ」


私が窓から抜け出そうとすると、後ろから声がかかった。

振り返ると、桃太郎が鬼のような形相でそこに立っていた。


「あら、もう気づかれちゃったの?」


「腹黒魔女が。俺を怒らせてタダで済むと思うなよ?」


桃太郎から殺気の込められたどす黒いオーラが溢れ出し、王子の部屋を埋め尽くす。

私の額から冷や汗が流れ出した。

それ程の実力差があるということだろう。


「あなたに害を与えた覚えは無いのだけど?」


「確かにな」


だが、と付け加えて桃太郎が話す。


「他人の幸せを踏みにじられているのを見て、気分が悪いんだよ」


桃太郎が抜刀して私に切りかかってくる。

咄嗟に身を捻り、それを躱しながら全力で魔術を叩き込む。


「ライトニング・キャノン!」


「切り散らせ」


ドラゴンのブレスすら圧倒するその魔術は、刀の一振りによってあっさりと霧散する。


「炎槍」


桃太郎の周囲に六つの火の玉が出現し、槍へと形状を変えて私に襲い掛かる。


「そんなショボイ魔術、効かないわよっ!」


ライトニング・キャノンを撃ち出し、相殺しようと試みる…が


「飲み込め」


私の手から放たれた電撃は軌道を変えて桃太郎の刀へと吸い込まれていった。

よける暇も無く、六つの火炎が私に突き刺さり肉を焦がしていく。


「ヴゥゥァァァァァ!?」


「この刀は鬼族一の鍛冶師が鍛えた一級品でな。魔力を操る効果を持ってるんだよ。こんな風にな」


桃太郎が刀に手をかざし、刀身を撫でる。

すると、そこから紫電がほとばしり刀身に巻きつく。


「雷斬撃」


圧縮された魔力と雷が三日月状の衝撃波となり、私に向かって飛んでくる。

私は咄嗟に、いざという時のためにポケットに忍ばせていたマジックアイテムを取り出し、発動する。


「テレポーテーション!」


斬撃が私の体に触れる寸前、私は光に包まれて瞬間移動した。



「ハァッハァッ!ク…うううぅ……」


目が覚めた瞬間、あまりの苦痛にうめき声をあげる。

気が付いたときには、私は見知らぬ平原に移動していた。

最後の一撃が掠っていたらしく、私の右腕が肩口から切り落とされ、焼き焦がされていた。

いや、それは別に構わない。魔法薬を作ればどんな傷でも治せるのだから。

何よりも問題だったのは…


「思っていた…以上ね…」


あの桃太郎という男、海での戦いの時にどれだけ手を抜いていたというのだろう?

魔力を自在に操る武器なんて聞いたことが無い。


「目的を達成するには、もっと力を手に入れないとダメみたいね…」


私はそう独り言を呟いて、まずは隠れ家になりそうな場所を探すことに決めた。

もっと力を…

もっと犠牲を…

もっと美貌を…


「全ては、私の目的のため…」



その後、平原の近くにあった一つの街が、一人の魔女によって滅ぼされるのだが、これはまた別のお話。


メデタシメデタシ

どうしてこうなった

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