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今日もあの子とかくれんぼ

作者: tiny hip

 学校から帰って少しすると、いつものように仲良しのよしお君が家に遊びにきました。

 「さとみちゃん、遊ぼ」

 「いらっしゃい、よしお君」

 わたしのパパとママはお医者さんで、毎日夜遅くまで病院で働いているので、家にはお手伝いさんとわたしがいるだけです。よしお君は同じ学校に通う同級生で、家もすぐ近くなのでしょっちゅう遊びにきます。


 二階にあるわたしのお部屋で、一緒にテレビゲームをして遊んでいると、お手伝いさんが顔を出して、

「晩御飯のお買い物に行ってくるから、二人で仲良くお留守番お願いね」と声をかけてきました。

「ハーイ」

 お手伝いさんが出かけていくと、ゲームをやめてよしお君に言いました。

「ねぇ、かくれんぼしようよ」 

「え~、ゲームの方がいいよ。かくれんぼ昨日もしたじゃん」

「ゲームはまた後でやりましょ。さとみ、かくれんぼ大好きなんだもん。ね、やろうよ。ジャンケンポン!」

 わたしがジャンケンに負けたので、鬼になり、目をつぶって数をかぞえはじめます。

「い~ち、にぃ、さぁん…」

 よしお君がドアを開ける音がして、足音がだんだん遠ざかっていきました。


 百まで数えおわり、部屋を出てよしお君を見つけにいきます。よしお君が隠れる場所はいつもワンパターンなので、たいていすぐに発見できちゃいます。

 キッチンのテーブルの下、居間のソファの陰、二階のベランダの隅…

 今までよしお君が隠れた場所を一つ一つ見ていき、応接間に入っていきます。案の定、窓際のカーテンが一か所ふくらんでいて、カーテンと床の隙間からよしお君の足がのぞいています。

 笑いをこらえながら、気づかないふりをして、応接間の中をぐるっと一周します。

 もうちょっと気がつかないふりをしていてあげよう。せっかくかくれんぼにつきあってくれたんだし。かくれんぼで一番楽しいのは、なんといっても、鬼に見つからないように隠れているときのドキドキした感じだもの…


 そのまま応接間を出て、よしお君を探し続けるふりをするために、しばらく家の中を歩き回ります。その後、もう一度応接間に入っていき、今度は窓際に駆け寄ると、一気にカーテンを開けました。

「よしお君見ぃつけた!!」

「ちぇっ、見つかっちゃった」

 二人で私のお部屋に戻ると、よしお君が、

「さ、ゲームの続きやろう」と言いだしたので、

「ダメよ!今度はわたしが隠れる番でしょ!!」と怒ってよしお君に言いました。

 よしお君はしぶしぶ目をつむり両手で顔を覆うと、数え始めます。

「いぃち、にぃ、さぁん…」


 「…きゅうじゅうはち、きゅうじゅうきゅう、ひゃぁく」

 百まで数えおえたよしお君がわたしを探し始めます。わたしはじっと身動きをとめて息をひそめました。心臓が一気にドキドキしてくるのがわかります。よしお君の足音が、私が隠れている場所のすぐ目と鼻の先を通り過ぎていきます。

 見つかっちゃうかも…

 その場に固まって息をとめていると、よしお君は私が隠れていることに気づかず、足音は遠ざかっていきました。ほっと胸をなでおろします。

 しばらくの間、遠くの方で、よしお君の足音や、いろんな部屋のドアを開け閉めする音、物を動かす音などが聞こえてきます。わたしは隠れ場所からそっと出ていって、耳をすませて様子をうかがいました。よしお君はわたしが見つからないので、またこちらの方へ戻ってきます。わたしは、あわててもとの場所に隠れて息をひそめました。よしお君の足音がどんどん近づいてきます。

 あぁ、今度こそ見つかっちゃうよ…

 でも、今度もまた、私が隠れていることに気づかずに素通りしていきます。よしお君の足音が近づき、また離れていくたびに、見つかっちゃうかもというドキドキ感と、見つからずにすんでホッとした気持ちが、心の中で何度も入れ替わります。

 そうこうするうちに、遠くの方からよしお君の心細そうな声が聞こえてきました。

「さとみちゃん、降参だよぉ。出てきておくれよぉ」

 それを聞いて、わたしは息をふぅっとひとつ吐きだしました。ホッとして、体から力がぬけていきます。手のひらにはじっとり汗をかいています。

 今度も見つからずにすんだ…。それにしても、すごいスリル。だからかくれんぼはやめられないの…

 思わずくすくす笑いがこみあげてきました。


 わたしが姿をあらわすと、

「さとみちゃんのお家は広いから、全然見つけられないよ。いったいどこに隠れてたの?」とよしお君が不思議そうに聞いてきました。

「ひ・み・つ。言っちゃったらつまらないもの」わたしは勝ち誇って言います。

 よしお君は気づいていませんが、かくれんぼのとき、わたしはいつもきまって同じ場所に隠れるんです。でもまだ一度も見つかったことがありません。鬼はわたしのお部屋で百まで数えてから、見つけにいくのがルールです。よしお君が目をつむって数を数え始めると、わたしはドアを開けて部屋を出て、そのドアと壁の間のせまいすき間に隠れるんです。かくれんぼをするとき、普通はなるべく鬼から離れたところに隠れたくなりますが、わたしは裏をかいているわけです。よしお君は単純だから、まさかそんな近くに隠れているとは夢にも思いません。見当違いのところを一生懸命に探し続けているうちに、だんだん心細くなってき結局いつもギブアップです。

 

 そして、実はもう一つ、よしお君に絶対に知られてはいけない秘密が…

 ドアの陰に隠れる前、わたしは大急ぎで着ているお洋服をみんな脱いじゃうんです。上着もスカートも、そして下着まで…

 靴下をはいただけのスッポンポンになってドアの陰に隠れるんです。脱いだ服はもちろんわたしと一緒に、ドアの陰の足元に隠します。(なぜ靴下だけは脱がないかというと、裸足になるとペタペタ足音がするので、履いている方が都合がいいんです。)

 かくれんぼで、普通に隠れているだけでも、ハラハラドキドキするのに、ハダカになって隠れるなんて…。もしも、よしお君に見つかったら、何もかも見られちゃうのに…

 さっきは、わたしがカーテンを一気に開けて、よしお君を見つけたけど、逆の立場だったら…。よしお君が突然ドアを開けてわたしを見つけたら…。よしお君に何もかも見られちゃう…。考えただけで、恥ずかしさで頭がヘンになっちゃいそう。

 でも、わたしは自分に言い聞かせます。勇気を出すのよ、さとみ。この隠れ場所は、単純なよしお君には絶対に気づかれないはず。今までも大丈夫だったし…

 自信をつけたわたしは、だんだん大胆になって、スッポンポンのままドアの陰から出て、よしお君の様子をうかがいながら、スリルを楽しむ始末…。

 そして、今日もやっぱり見つからずにすみました。よしお君が降参すると、また急いでお洋服を着て、何食わぬ顔をして姿をあらわします。だから、わたしがハダカで隠れていたことはまだ気づかれていません。そしてたぶん、これからも…


 私のかくれんぼは、絶対に見つかるわけにはいかないのです…







 







 

 





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