名前の理由
あかりに笑太なんてとんでもなく明るくって能天気な名前だよね、今考えたら。
よくこんな名前つけれたもんだよね、こんな萌え系アイドルみたいな名前嫌い。
頭悪そうだし、歳とったら恥ずかしいし、そういえば名前に恥じない生き方しろみたいな事中学の熱血教師が言ってたっけ。
ばっかじゃないの
自分の子供もまともに育てらんないような頭の悪い人がつけた名前に「恥じない」も何もないでしょ。
やんなっちゃうよもう
でもね、あかり笑ちゃんの名前は大好き!
だあいすき!
ピロートークにしては随分長ったらしく、甘さの欠片もなく、そしてあかりの嫌いな類の話だなあと、珍しいと思った。
頭ひとつ分下、布団の中から俺を見上げてあかりが言った。
俺も自分の名前は、そういわれれば、あんまり好きじゃなかったなあ。
とんでもなくやんちゃになる前、まだ近所でガキ大将と自ら名乗ったりする馬鹿になる前の純粋にちょっと悲しい過去を持った子供だったころの話。
先生に預かってもらうようになったころの話。
自分で言うのもあれだけど、悲しい過去もってる割には健全に、生きてたと思う。
人を羨ましく思うことはあれど、あかりのように僻んで相手の不幸を願ったり、影でひたすら泣いたりなどはした覚えはないし、あかりのように変に擦れて大人に可愛くない態度を故意に取ろうとした事もない。
ただ先生のとこに住み始めたころ慣れなくて、からかわれ泣いたとき、決まって
笑太は人よりたくさん笑えるように笑太と親が名づけてくれたのだから、泣いたりするのはおよしなさい
みたいな事を言った。それだけはすんなり心に入ってこなかった。
俺はそんな事親から聞かされていないし、もしかしたら先生が勝手に後付けしたのかもしれない。
本当に、もしかしたら、親が先生に伝えてくれと頼んだのかもしれない。だとしたら
どの面下げて言ってやがんだ
割と先生の言うことはよく聞いていたけれど、それだけは、子供心にも許せなくて
あの言葉で泣き止んだことは一度もない。
「笑ちゃん?」
あかりの声で回想から引き戻された。
なんだっけ?何の話だっけ?
「でね、あかりは笑ちゃんの名前はきっと特別な意味があって付けられたと思うの」
どうして、と先を促してやりながら、もしかしたらこいつも同じことを言うのかと思った。
まあ、こんな名前であの解釈の他も無いだろう。
実際自分でも思いつかないし、ただ少し面白くないからもし言ったら素直には受け取ってやるまい。
なんか意地悪してやろっかな
「笑太の笑は、あかりを笑顔にしてあげなさいって意味だよ!ぜったい」
そうくるか、というかなんかもう
「あっさーい、浅いよあかりちゃん」
ちょっとシリアスに考えてた自分が恥ずかしいだろうが
なんでぇ、なんて抗議してくるあかりの頭を布団の中に沈める
でもちょっといいかもしれない、なんて考えてしまう自分も恥ずかしい。
だってこいつの頭ん中には笑ちゃんとあかりしかない。
だからこいつが考えた名前の由来には、笑ちゃんとあかりしか出てこない。
笑太とあかりなんて、誰が見ても苦労人には見えないだろうし、しかも名前の由来がこれじゃあバカップル以外に言いようが無い。
結構じゃないか、馬鹿みたいで、とんでもなく明るくって能天気!
名前のとおりに生きているのだ、文句なんて言わせるか
先生には悪いけど、俺はきっとこれから名前の由来はこれにするんだろうなあ。
だったらあかりにも由来をあげよう。
俺一人でこんな恥ずかしい由来を背負っていくのはムカつくから
そう思って布団をめくる。
「おい、あかり」
寝てやがる