あなたのものでわたしのものではないもの
ちょんぎっちゃったの。
いいでしょう?
俺たち2人だけじゃ、 危ないと思った。
2人だけじゃ、 絶対壊れていくから。
何だって出来てしまうから。
お互いが望んでいることを、 望んでいるままにいくらでも
家の中が一番危ない。
外で皮を被っている反動で、むき出しになってしまう。
だから
もう一人入れたらどうかと思った。
この子が家に来れば、家でも皮を被っていられるのだ。
そのほうが絶対に、お互いに良いはず。
まともに、生きていけるはず。
「ただいま」
今日はいつもより早く帰れたなあ、 なんて思いながら玄関の扉を開けて上着を脱いで靴を脱いで……異変に気づく。
あれ、あかりが出迎えに来ない。
料理をしてるときはキッチンから
「おかえり」
という返事があるはず
どんなにそっと帰ってきたってちゃんと気づいて……
ああ、寝てるのか?
今まで一度も帰ってきたときにあかりが寝ていたことなんて無かったから考えていなかった。
いろいろ考えながらリビングのドアを開けて
しまった
と思った。
昨日拾ってきた子どもは、腰まで届くようなロングヘアーの女の子だったはずだ。
けれど、今俺の目の前でソファに座ってテレビを見ている子どもの髪はショートカットというにも短すぎる、ベリーショートになっていた。
俺はその子の隣に座り短くなってしまった髪を撫でる
「ただいま、 雛子」
「おかえり笑ちゃん」
大きな目で俺を見ながら言う雛子は笑顔だ
朝に「いってらっしゃい」と言った時にはあった目のすぐ上までの前髪は、綺麗な形の額の上に気持ち程度に乗っているだけ
つやつや輝く長い後ろ髪も、前髪と変わらない長さに切られている。
美容院で切った、と言う様子は伺えない。
おそらく鋏で散切りにしたのだろう。
「あかり」
雛子の頭を撫でながら、声をかけた。
あかりはベランダに続く大窓の前の床にべたりと座り込んでいる。
ベランダには黒い束が散らばっている
ああ、 ベランダでやったのか
「だって、 だって」
ベランダの方を向いたまま、雛子くらいの子どもが必死に甘えるときに出すような声であかりは言った。
「雛子ちゃんの髪が長かったら、笑ちゃんが小さくって長い髪の子が好きみたいになっちゃうでしょ?
それじゃあ、困るもん。あかりが困るの。だってそれじゃあ」
--------あかりもそうみたいでしょ?