慈愛、他者への思いやりに欠ける
あの猫は結局拾ってしまった。
俺はあの必殺技に滅法弱い。
連れて帰るとあかりはわざとらしく頬を膨らませて俺をみてくる。
いや、そんな顔されたって……そういやこの前の犬の時もこんな顔を
「笑ちゃん、あかりが一昨日言ったこと覚えてる?」
あぁ、犬は一昨日だっけか。
今度は俺の腕の中に我が物顔で おさまっている 白い猫に向かって同じ顔をしながらあかりが言った。
「可愛い顔してんだろ? あれ? あかり猫のが好きって言ってたよなぁ?」
「笑ちゃん!」
わざと解らないふりしてあかりに笑いかけてやったら怒鳴られた。
言いたいことは解る。「またそんなモン拾ってきて」。
「もぉ、拾ってきちゃってもその猫ちゃんの面倒見るの絶対あかりだよね? あかりそれが嫌だからこの前のわんちゃんは飼い主さん探してくれるとこに頼んだんだよ? 笑ちゃん解ってる?」
文句を言いながらもあかりはてきぱきと猫をタオルで拭いて、
ソファに置いてあったブランケットをダンボールに入れ即席猫用ベットを作ってそっと猫を入れる。
「さっすが、あかりさん」
「誰のせいよ!」
あまりの手際の良さに感嘆の声をあげたら睨まれた。
まごうことなく、俺のせいです。
なんか食べ物持ってきてと言われたので、
冷蔵庫から今朝のツナ缶を持っていく
皿に入れながら振り返るとあかりは自分の髪の毛を持って猫の顔の前で揺らし、じゃれついてくる猫と戯れている。
だらしなく頬を緩ませて「にゃあ」なんて言いながら、目は爛々と輝いてるし
おい、お前
「本当にうちで飼うの嫌なのか?」
「嫌なの!」
即答して髪の毛ももとに戻したけど、
どうしたっていまだに猫を横目にみてる爛々とした目は隠しきれないだろう。
「お前こういう可愛くってちゃっちいもんとか大好きじゃん」
「ちゃっちくない! 小さいのが好きなの」
「ああ、お前でかいもんなあ」
ぎろり。
あかりの睨み付けをさらりと交わして猫を抱き上げ膝の上に乗せる。
「ちっせえなあ、手なんかこんなだぞ」
柔らかそうなピンク色の肉球を押すとまた みゃあ、と鳴いた。
思ったより可愛らしいもんだなあ。
「なによう、仲良くなっちゃって」
俺が可愛らしいと思ったのを目敏く感じ取ったらしいあかりは必殺技を繰り出す。
甘えた声で 笑ちゃん、と意味もなく繰り返しながら、猫から俺の興味を奪還しようと必死に
猫はあかりの足によってどかされ、俺の膝の間には子猫と入れ替わりにあかりのからだが割って入った。
「どうせ、面倒なんかみれないくせに」
膨れた顔であかりがこぼす。
「俺は手一杯だからなあ」
あかりが俺をみあげる
とびっきり媚びて笑ってみせる
いい加減にしなさい。
額に唇をつけてやると目を閉じて喜ぶ
「あかりは今幸せです」って器用に顔に出す
どかされた子猫に目をやると、床においてやったツナの皿にダイブしていた。
後で洗ってやんなきゃなあ
といっても、あかりがやるんだけど。
子猫一匹面倒みれない訳じゃあない、こいつが邪魔さえしなければ