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転生攻略キャラは幼馴染を手放さない

作者: 高月水都

 はっきり言おう。


――ゲーム時空の自分は大馬鹿だと。


「どうかしましたか? 夕陽さま」

 心配そうに顔を覗き込んでくるのは、黒髪ストレートの髪を腰まで伸ばしている。紫色の瞳が特徴的な物静かな幼馴染――兼執事の娘で将来の自分の側近というのが決まっている相手だ。


朝日奈(あさひな)のまとめた資料は今日も見やすいなと感心しているんだ。――いつもありがとう」

 そっと微笑むと顔を赤らめる朝日奈。


 何でこんな可憐な少女が傍にいたのにヒロインに惑わされたのかな。ゲームの俺はっ!!




 乙女ゲーム【光は貴方と共に】というのがあった。

 ヒロインは学園に入学して、さまざまなイケメンと出会い恋をするものだったが、その中に生徒会会長=とある有名企業の御曹司という攻略キャラは俺だ。


 ゲームの自分は自分と言いたくないが、今は自分なので複雑だが、ずっと傍で支えてくれて幼馴染であり、側近であり、誰よりも信頼できる存在が居るのにも拘らず、御曹司とか生徒会長という色眼鏡で見なかったというだけでヒロインに好印象を持ち、好きになる。


 そして、入れ込み過ぎている自分を心配する側近を遠ざけるのだ。


 ありえないだろう。人生の大半を支えてくれて、彼女無しの日々を過ごしていたのにパッと出の女性に心惹かれる?

 御曹司とかの色眼鏡で見ていなかったから?


 それも含めて自分だろう。それが嫌なら捨てればいいのに捨てないでその態度。ずっと支えてくれて案じてくれていた幼馴染を捨ててまで走るかのかっ!!

 

 納得できない。


 しかも今までいろいろしてくれたのに感謝すらしていなかったんだぞ。人として終わっているよな。


 なので、常にお礼を言うようになった。最初は下々の者にと言っていたが、

「世界は常に誰かの力を借りて動いているんだ。それに感謝できないと上に立つ者の資格はない」

 ………ちなみに、ゲームの自分はヒロインに()()お礼を言うのだ。あり得ないだろう。


 と言うことで、生徒会のメンバーにも、家で働いているメイドたちにもお礼を述べている。お礼が軽くなってはいけないから場合を選んでいるが、それでも人の上に立つ者ほど誰かに感謝をする心を忘れてはいけないという持論を持って行動している。


「朝日奈も一緒に食べよう」

 幼い時に朝日奈が頑張って給仕してくれたお茶のセットを並べるのを見てから。誘ったことがある。

「身分差が………」

 当初はそんな風に固辞していた朝日奈に、

「未来の部下になるとは言っても今は幼馴染だ。美味しいものを一緒に食べたいし、遊びたい。一人で食べるのは楽しくない。朝日奈が僕と一緒にいるのが嫌なら無理に誘わないけど」

「………そう言われて、断れると思いますか」

 困ったように……それでいて嬉しそうに微笑んで、

()()()()()()はそうおっしゃるんですね」

 と言われたことがある。


 心変わりをすると思われたのか心外だな。



 内心。パワハラじゃないかと冷や冷やしたけど、笑ってくれるなら成功だろうか。


 ああ、思いだすな。学生時代に親を亡くして、バイトに明け暮れて食事すらままならない自分に賞味期限切れて処分するだけだと勿体ないからとお弁当をくれた店長。あの人も押し付けの形でそんなこと言っていたけど、嬉しかった。


 苦しい時に遠ざかった人も多かったけど、苦しい時に助けてくれた人も多く、その人たちが困っている時は必ず助けると誓ったものだ。


 そう言えば、このゲームもその時助けてくれた友人がモニターしてくれる人が集まらなくてと相談してやったんだったな。




「夕陽さま?」

「いや、まとめてもらった資料を見ていたら、もうすぐ入学式なんだなと思ってさ」

 ゲームの開始時期の。


「昨年は入学を迎えて入った立場だったのに今回は迎える側だというのが感慨深くてね」

「緊張なさっているのですか?」

 問い掛けられて、考える。


 その通りかもしれない。ゲーム時空の自分は朝日奈という素晴らしい人物に気付かずにヒロインに心惹かれた。流石に心惹かれたりしないが、世の中には強制力というパターンもあるからな。


「大丈夫です。――何かあったらわたしが手助けします」

 朝日奈の言葉が嬉しくて頬を緩ませる。


「ああ。――もしもの時は頼むよ」

 そんな話をしていたのが入学式の前。いざ、入学式当日になった。




(ああ、ゲームヒロイン。転生者だな)

 遠い目になるのは仕方ないだろう。確か、ゲーム開始時に新入生に生徒会が胸に飾る花を配る。それを誰からもらうかで大体の攻略キャラが決まるのだが、生徒会長の自分の花は早めに配り終えて、受け取れない設定なのだ。


 ちなみに二周目以降は花を受け取れる。


 選んだキャラの友好度は高いが、恋愛に発展しない状況で維持をして、途中で紹介されるのだ。だけど、ヒロインはまだ校門が開かれる前に待ち構えているのだ。


(花を受け取った方が好感度は上がりやすい。特に、ゲームの自分は好感度が上がりにくい仕様で、二周目以降キャラという立ち位置だったので、一週目で上げる場合課金アイテムを使わないといけない鬼仕様だった)

 課金アイテムを使いたくないからこその暴挙だろう。


 校門が開かれる数時間前に待つのは問題行動だというのを除けば。


「朝日奈」

「すでに警備の者に連絡しています」

 ちなみになんで自分たちがいるのかというと生徒会含む実行委員の最終確認のためだ。昔は最終確認などなかったが、この学園に入れなかった子供の逆恨みで入学式の看板などが壊される事件が起きたことがあり、昨日は早めに切り上げて、警備の者に頼み、朝早めに登校して確認する流れになったのだ。


 話がずれた……。


 というか、花を必ず手に入れるには早めに来るという流れを作るしかないという状況を知っている時点で、ゲームの流れと違うし、早めに来ると言うことは。

「俺狙いか……」

 勘弁してくれ。


「夕陽さま。どうかなさいましたか?」

「いや、朝日奈。新入生が入学初日で張り切っていると言っても限度があると思ってな……」

 よく徹夜組とかに迷惑しているというニュースを見て他人ごとだったけど、こうやって実際見ると大変さが分かる。


「あっ、夕陽だぁ~♪」

 警備員に捕らえられたヒロインが嬉しそうにこちらに気付いて手を振る。


「ちょっと、離してよっ!! あたしは夕陽と話をするんだからっ!!」

「…………………」

 こっちは話をする気はないのだが。


「夕陽さま。安心してください」

 朝日奈が前面に出て守ってくれる。男の沽券として好きな女性に庇われるのも複雑な気持ちがあるのだが、執事の娘。そして、側近という立ち位置なので庇うのが当然でそのような訓練も受けているので素直に受け入れることにする。

 好きな子に庇われないほど強くなろうと鍛錬をしたのだが、どんなに努力しても朝日奈の方が上だったので仕方ない……。


(ゲームの設定で護身術など身を守る術はすべて一流でゲームの自分(夕陽)がどんなに努力をしても叶わないというまさかの強制力が働いたんだよな……)

 強制力などないと思っていたその当時の自分が強制力を信じるきっかけになってしまった。


「ありがとう朝日奈」

「いえ……護衛として当たり前のことですから」

 いつもの習慣でお礼を述べると朝日奈は若干照れたように耳を赤くして返事をする。


「えっ⁉ お礼を言う夕陽なんて解釈違い!! 何それっ⁉」

 喚く声が聞こえる。


「もしかして、あんたも入れ替わりっ⁉ 中身キモオタってことっ!! マジ最悪!!」

 自分も入れ替わりだと明言しているが、事情を知らない朝日奈含む警備員。生徒会面々は首を傾げるだけ。


「やばっ。キモっ。キャラ改変してまでさ~」

「いい加減黙れ」

 警備員に注意されるも、

「改変してあたし以外を狙っているパターンでしょ!! キモイ考え~。性格の違うあんたを誰が好きになるのよっ!!」

 そんな言葉に思わず反応してしまう。


 そうだ。ゲーム時空の朝日奈はゲーム時空の夕陽が好きだった。彼がヒロインの影響を受けて変化するのを嫌って暴挙に出たのだ。


 朝日奈はゲームの設定を無視した自分は恋愛対象から外れているのでは……。


 とっさに朝日奈を見て様子を窺う。

「何を言っているのでしょうか……あの方は」

 不愉快そうに顔を歪めて呟く様に、自分のことは悪い印象を持たれていないのだと安堵して、

「もしかして、何か病気なのかもしれないな……主に頭の」

 心配する風を装って、精神病院か何処かに送った方がいいのではないかとにおわせておく。まあ、自分に害をもたらそうとしているのはあの発言で察せれただろうから朝日奈を通して父に連絡が行くだろう。


 まだ喚いているヒロインを無事に退場させれたが、それでも心配なことがある。


「――ところで夕陽さま」

「なっ、なに?」

 朝日奈が自発的に声を掛けてくるなんて珍しい。


「夕陽さまはいつも凛々しくて立派で、私の大切な方なので、ご安心ください」

「朝日奈?」

「あの方の言動に惑わされないように気を付けてください。――気持ち悪いなどと夕陽さまが素晴らしさを知らないで外側だけ見ている人の戯言なので」

 きっぱりと告げてくる朝日奈の言葉に戸惑ってしまう。だけど、もしかして脈あり……。


「朝日奈。――この学園を卒業する時に」

 そっと朝日奈の左手を取って、

「この指に指輪を着ける権利をください」

 と遠回しの告白をすると朝日奈は顔を赤らめてそっと頷いてくれた。




わたしには何度も繰り返した記憶がある。敬愛する方が突然現れた少女によって変化するのをつぶさに見せられ続ける夢で、最後には嫉妬で狂い、敬愛する方を傷付けようとしている。

 いや、そうし向けられるのだ。


「悪役はみっともなく退場しなさいよ」

 少女がわたしに何かをするとわたしの身体は勝手に動き、そんな行為を繰り返す。


 だけど、今回は違った。

「いつもありがとう朝日奈」

 あの方はわたしの行いを褒めてくれて、認めてくれる。


 今度は傷つけたくない。もうこれ以上繰り返したくない。


 それだけでよかったのに。

「夕陽さま……」

 彼のしてくれた約束が嬉しくて、そっと薬指に触れるのだった。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 イケメンに暴言を吐くヒロインを見た事がないので、新鮮と言えば新鮮。 が、やはり惹かれないですね。 「ありがとう」は人と人をつなぐ大切な言葉。 きちんと大切にする夕陽くんは偉い。
頑張れ夕陽、ゲームの強制力はここからが本番だ、 朝比奈とのエンディングまで、立ち止まるんじゃねーぞ(縁起でもない?)
他の人の感想のゲームの中説で行くとこのループは幸せなループだったってことになりそうで若干ホラー味を勝手に感じてる。
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