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序章 胎動
口内炎が、二つ。口角を上げて笑う度、歯が触れてじくりとした痛みが灯る。小さな痛みが、ひとつ、またひとつと増えていくようだった。
痛みに耐えかねて、目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは父と母の、怒声と泣き声が交錯し、溶け合った音と、月夜に照らされた、雪のように白い──いや、青白い、冷たく輝く彼女の肌の色。
白く煙る吐息が、彼女の頬に淡く重なり、静かにほどけた。
もう、何も考えなくていい、と。
そう身体が伝えてくれているのだろうか。
彼女に持たされたナイフが、手の中でわずかに震えを帯びた。