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「お前は、誰なんだ」


「…私は、ただ陛下の子供、ラティーナ・レオ・ライハルです。」




私は、本当の子供ではない。


そう言い聞かされて生きてきた。


虐げられて、見捨てられて、いつも同じ人生。




そんな養子やら、拾われるやら、入れ替えやら偽物の人生を繰り返してきた。その記憶を思い出したのは、10回目の転生の時だった。




前回、私は、とにかくつらくてそれしか知らなかった。無知だった。




母が死んで、虐げられていたことを知られ、部屋を移され、きれいな服を着せられた時から、家族に愛されていると勘違いをした。実際には、部屋が移ったこと以外何もなかった。洋服はいいものだけど、毎日たたかれ、いくつもキズがついていたし、食事は今までと変わらなかった。今までいじめてきた使用人も。でも、彼らの態度が違うから、恭しくされていたから、それが普通だと、ましだったから、敬われているものだと思ってた。毎日、叱られても、自分が悪いことをしたからだとおもった。自分が王女と知って納得した。物語のように私は、人の上に立ち、愛され幸せになるんだと思った。でも、成長して、嫌でも、自分が何か違うと気づかされた。




パーティで出てくる料理は、自分が食べる冷たく、黒いそれとは違く、使用人が食べていたそれだった。最初はけなされているのだと思った。私が食べるものではないわと思った。周りが食べるから、ああ、彼らは私より下なんだと思っていた。だから、周りに何を言われても無視した。それを兄に知られれば、なぜか冷たい視線を送られた。




だんだん、見られれば見られるほど、人は、私に悪口を言い始めた。いつも使用人が言うようなものではなかったけれど、悪いことをしているわけではないはずなのに言われる悪口は、つらかった。それでも、愛されていると信じてやまなかった私は、家族は、私を信じてくれて、助けてくれるはずだと思っていた。




父は、私を社交から遠ざけた。守るためのものだと思っていたけれど、17になって気づいた。兄が、結婚をしたとき、一度だけ、外に出るのを許されたとき。私だけ、護衛が厳重だから守られていると思っていたけれど、結婚式の会場に入り、式が終わって、兄にお祝いを伝えようとしたとき。兄は直前に席を立っていて、そこには、花嫁と義理の母しかいなかった。挨拶をしようと一歩近づいた。その瞬間、二人から向けられたのは、非難とおびえと得体のしれないもの。拒絶だった。気づいた時には、義理の母が、顔を白くしていて、倒れていた。私は一瞬で取り押さえられ、引きずられた。周りが見えなかった。でも、兄の顔がよく見えた。恐怖と侮蔑と、耐えられないといった殺気だった怒り。助けを呼ぼうと口を開いた瞬間、兄に剣を向けられていた。初めてだった。どうしてと思った。何もわからなかった。周りがよく聞こえた。




非常識、魔女、皇室の汚点、薄汚いねずみ、心の汚い守銭奴、親不孝な子、いっぱい




そこで、私は初めて知った。自分が、嫌われている。と。知らない感情の名前だった。嫌うという言葉自体、私は知らなかった。存在すら。愛されていると信じてやまなかったから。




結局、その後、私は幽閉された。結婚式の日、なにも行動していなかったこと、王女ということを考慮されたとのことだった。それから、私は顔も見たことのない父の愛を信じた。自分を王女というふさわしい身分にした父を。だから、王女という身分に執着した。でも、ある日、母によく似た顔に、父と同じ暗い色の髪を持つ本物の子供が現れた。彼女は、愛を体現したような存在で、一瞬でみんなを虜にした。父も、義理の母も、兄たちも、兄の嫁も、弟も。国民みんなに愛された。私は、忘れられた。使用人は、みんな彼女のところへ行きたがり、私の世話をする人はいなくなった。時々、食事が来るくらい。父が許さないといえば、ただ笑い、起これば、嫌がり、誰も来なくなった。




一人になった。




餓死するかという時、ある人と会った。本物の子の父親だという。あの人は、私に食事を与え、救った。かわいそうだといい、私の頭をなでた。そして、本物の子をずるいといい、私に復讐しないか、そういった。私は、それから、本物の子を殺すことしか考えられなくなった。そして、使用人に紛れナイフで彼女を殺そうとした。でも、失敗した。あの人が、本物の子をかばったから。どうしてかわからなかった。私より、本物の子のほうが大事だと、自分が父と思われていないのに無事でよかった、守れてよかったと最期に言った。言われた彼女は泣いていた。それから、私に向かって悲しそうにした。でも、それは、ゆがんだぞっとする笑いでもあった。また、得体のしれない感情。そのあと、すぐ父が駆け付け、状況を見るなり私を牢に入れ、次の日には、殺されることになった。史上最速の死刑判決だそうだ。




冷たい牢獄で朝を迎えた。一睡もしなかった。衛兵にされるがまま連れていかれた。そうして、皮肉にも、私は初めて、王宮の外に出た。見たことのない街並み、広場、いろいろな立場の人。その中で私が見たことがあるのは、よく知る怒りと侮蔑と非難の顔と声だった。一番つらい火あぶりで殺されるという。すべてが、憎かった。わからなかった。父も、兄も、本物の子も、あの人も。誰もが。小さいころを思い出す。母に、ののしられていたころ。つらくて辛くてでもそれさえ知らなくて、何も感じなかったころ。あの時のほうが、ずっと楽だったな。




罵倒と歓声の中、火がともされる。静かに目をつぶった。




私は、ライハルという帝国の王女。でも、狭い離宮の奥にある部屋に隔離されていた存在。兄が二人と弟が一人いる。母親は、兄二人のあと、私を生んで死んだことになっている。本当は、私ではないけれど。


戸籍上の母は、とても美しかったという。顔はあまり覚えていない。彼女は、陛下の妻でありながら、不貞をして子を身ごもった。相手の特徴を色濃く受けていた子供をごまかすため、母の周りの人は、母の付き人であった幼かった侍女が身ごもった子を入れ替えたらしい。それが、私。戸籍上の母は、いつも怒っていた。私のせいで、愛する人といられなくなったといつも怒鳴っていた。あなたさえいなければ、本当の子といられたのにって。そのころ、陛下は、違う女性を愛していし、不貞をしていた相手も母が身ごもったと知り、逃げ出していたから。いつも、泣いていた。私は愛されるべき人なの。こんなの間違っている。あなたもそう思うでしょ。あなたは、私を愛してくれるわよね。そう言って私を抱きしめた。




その時だけが唯一救われる時だった。




でも、でもね。やっぱり違うんです。愛されるべきとか、そうじゃないんです。そもそも愛なんて信じちゃいけなかった。愛なんて存在しないから。何も、期待しちゃいけなかったの。




つらかったな。もし次に人生があるなら、愛になんか縛られずに、ただ、王女として生きられるかな。私は、確かに血筋として王女ではないよ。でも、王女として生きてきた。王女の自覚はある。だから、自分なりに、やった。でも、愛に目がくらんだ。だから、自分の義務を果たしたい。次こそ。




足元が熱い、焼ける。痛い。でもそれはつらくはない。何も感じない。声は出さない。とにかく静かに、誰にも知られず、死にたかった。何も知らない自分がつらかったから。






















朝、目が覚めた。

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