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第8話

 ぼんやりとした意識が輪郭を帯びてくる。

 目を開けると白い天井が見えた。

 周囲はクリーム色のカーテンで仕切られて何も見えない。


 身体には何本も管が繋がり、あちこちに包帯とガーゼが巻かれていた。

 どうやらベッドで治療を受けているらしい。

 身体が異様に重く、動けそうになかった。


「ここは……」


 遠くからパタパタと足音が近付いてくる。

 カーテンを引いて現れたのは若いナースだった。

 そのナースは事務的な口調で話しかけてくる。


「笹垣さん、こちらを再生してください」


 手渡されたのは古い型のレコーダーだった。

 俺は困惑しながらも受け取り、ナースに尋ねる。


「え? あの、これって誰が……」


「失礼します」


 俺の質問を聞き終える前に、ナースはさっさと退室してしまった。

 仕方ないので俺は残されたレコーダーを再生する。

 すぐに比良田の声が聞こえてきた。


『おはよう。目覚めはどうだね』


「最悪だ。全身が痛い」


『至近距離で爆発を受けたのだから当然だ。むしろ生きていることに感謝すべきだろう』


 指摘されたことで、気絶直前の出来事を思い出す。

 夜の廃校で俺は霊と殺し合ったのだ。

 我ながら滅茶苦茶な戦いだった。

 結局、悪運で生き残ったようなものである。


「あの悪霊……忌示子はどうなった」


『死んだよ。木っ端微塵になって消滅した』


「俺が爆発で仕留めることも予知していたのか?」


『もちろん。こうして三日間の昏睡を経て生還するのも把握している』


 三日間の昏睡か。

 そりゃ驚いた。

 身体の状態は分からないが、かなりのダメージを受けたことは間違いない。

 ひとまず手足の感覚はあるし、指も欠損した様子はなかった。

 ただ、少し身じろぎするだけであちこちが痛む。

 出血やら火傷が重篤なのだろう。


 俺は天井を眺めたまま脱力する。

 しばらく無言になった後、レコーダーを見て言った。


「……なあ」


『ん? どうしたのかな』


「予知能力があるなら、もっと安全に勝つパターンもあったはずだ。わざと俺がギリギリ生き延びるような展開に誘導しただろ」


 俺の指摘に対し、比良田は嬉しそうな声で応じる。


『鋭いね。大正解だ』


「なぜそんなことをした?」


『インチキ霊能者を懲らしめようと思ったからさ』


「……クソ野郎め。ひでえ性格してやがる」


『騙される方が悪い。君の常套句だよ。今回の一件で反省したのなら、詐欺から足を洗うことだね』


 比良田の助言に舌打ちする。

 正論をぶつけてくるだけの説教は嫌いだ。

 ただ、まあ、これで一億円が貰えるだから文句はあるまい。

 なんだか急に眠たくなってきたので、俺はもう一度目を閉じた。

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