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第7話

 恐ろしい光景に俺はぎょっとする。

 まさか幽霊が物理的に走ってくるとは思わなかったのだ。

 俺は慌てて反対方向へ走り、階段を数段飛ばしで駆け上がっていく。

 腰に吊るしたレコーダーからすぐに叱責が飛んできた。


『立ち向かわないと活路は開けないよ。すぐに止まるんだ』


「だって、あんな奴、怖すぎるって!」


『君の持つ呪具なら倒せる。腕っ節にはそれなりに自信があるだろう?』


「そりゃそうだが……っ」


 インチキ霊能者は恨みを買う仕事だ。

 だからたまに荒事に巻き込まれることだってある。

 そういう事態に備えて、俺は日頃から死なないように鍛えていた。

 努力の甲斐もあり、タイマンでの殴り合いでは誰にも負ける気がしない。

 ただし、それは人間相手の話である。

 霊は想定していない。


(だけど、比良田の言う通りだ。逃げてばかりじゃ勝ち目はねえな)


 俺は急ブレーキをかけて振り返る。

 忌示子が全力疾走で階段を上がってくるところだった。

 俺は金属バットで殴りかかる。


「うおおおおおおおおああああ!」


 渾身の一撃は片腕で簡単に止められてしまった。

 どれだけ力を込めてもびくともしない。


 忌示子のもう一方の手が俺の頬をぶっ叩いた。

 俺は軽々と吹っ飛び、回転しながら近くの壁に激突した。

 そして血を吐く。


 脳が揺れて気持ち悪い。

 だけど動きを止めたら終わりだ。

 そう自分に言い聞かせた俺は、再び金属バットで攻撃を仕掛ける。


 ところが、今度は顔面を掴まれて窓ガラスに叩きつけられた。

 そこから廊下の端まで投げ飛ばされる。

 ガラスの破片が頭や腕に刺さり、鋭い痛みを訴えてくる。


 早くも俺は満身創痍になってしまった。

 一連の負傷で金属バットも落とした。

 気絶していないのが不思議なほどのダメージだった。


「幽霊って……念力とか、呪い……で戦うんじゃ、ねえのかよ……」


『霊感ゼロの君には通じにくいと判断したのだろうね。単純明快な暴力で始末すると決めたようだ』


「くそったれ……」


 その間に忌示子が歩いてくる。

 俺は携帯していた身代わり人形を投げつけた。

 忌示子はあっさり避けると、お返しとばかりに蹴りを繰り出してくる。


 股間を狙ったその一撃を、俺は片脚を割り込ませて防ぐ。

 ただ、衝撃までは殺せず転倒した。

 防いだ脚が猛烈に痛む。

 骨が折れたかもしれないが、確認する余裕はなかった。


 すかさず忌示子が俺の首を掴んで持ち上げる。

 憎悪に歪んだ顔で、徐々に指に力を込め始めた。

 俺は呼吸ができなくなって必死に暴れる。

 何度も腹を蹴ったが忌示子が止まる気配はない。


 朦朧とする意識の中、俺は包丁で忌示子の腹を刺した。

 切っ先をぐりぐりと回しながら、歯を食い縛って言う。


「は……放せ……ぇっ」


 包丁の攻撃が効いたのか、忌示子の力が僅かに緩んだ。

 その隙を逃さず、俺は床に足を着けると、忌示子にしがみ付いたまま突進を開始する。

 忌示子が甲高い声を上げて抵抗しても構わず強行した。


 間もなく忌示子が後ろ向きに転んだ。

 そこにはちょうど俺が投げた身代わり人形が落ちていた。


「人形は霊が触れると爆発するらしいぜ……?」


 眩い閃光と爆発音によって、そこで俺の意識は途絶えた。

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