第6話
大変な出費を強いられたが、これで除霊の準備は完了だ。
俺は無人販売所から離れながら比良田に訊く。
「悪霊はどこにいるんだ?」
『今夜、近くの廃校に出没予定だよ。周囲の被害も少ないし、そこで始末するのがベストだね』
「包丁で金属バットで本当に倒せるのか……?」
『呪具の性能と私の予知を信頼したまえ。君は全力で挑むだけでいい』
不安が過ぎるも、ここでやめるわけにもいかない。
俺は比良田の案内で廃校に向かった。
入口のフェンスを乗り越えてさっさと校舎内へ踏み込む。
咎める者もいないので遠慮なく土足だ。
まだまだ時間に余裕があるので、目についた教室で休憩する。
ここまでの道中で買ったパンと缶コーヒーで腹を満たす。
霊を戦うのだから、今のうちに栄養を補給しておくべきだろう。
パンを齧りつつ、俺は比良田に念押しする。
「もうほとんど一文無しだ。報酬は忘れるなよ」
『一億円だね。もちろんだとも』
「さっさと悪霊をぶっ殺して金持ちになるんだ……」
俺はふと閃いたことを提案する。
「そうだ、依頼が終わったらあんたと会わせてくれよ」
『……なぜだね』
「予知能力者なんだろ。自分で確かめろ」
比良田は数秒ほど沈黙する。
やがて彼女は少し苦い口ぶりで言った。
『別に面白いものじゃないよ。私と会うのは推奨しないがね』
「まあ検討しといてくれ」
『死亡フラグのようなセリフだね』
「ハッ、そんなフラグ叩き折ってやるぜ」
雑談で時間を潰すうちに日が暮れて夜になった。
校舎内は真っ暗になった。
月明かりが僅かに差し込んでいるが、光源としてはかなり頼りない。
俺はレコーダーに次のテープを挿しながら、スマホのライトで教室内を照らした。
照らせる範囲はそこまで広くない。
「肝試しって感じだな」
『本物の幽霊も出てくるよ。贅沢だね』
「さすがにポジティブすぎるだろ」
廊下から物音がした。
嫌な予感がした俺は、慎重に顔だけ出して確認する。
廊下の端に誰かが立っている。
白いワンピースを着た、青白い肌の女だ。
長い黒髪を揺らしながらこっちに歩いてくる。
暗闇の中でもくっきりと輪郭の浮かぶ姿は、不吉な迫力を纏っていた。
忌示子だ。
俺は反射的に金属バットを強く握りしめる。
次の瞬間、忌示子は金切り声を上げて走り出した。