第4話
その後、俺は事務所を出た。
向かう先は呪具屋である。
比良田によると、徒歩圏内に「本物の呪具を売っている店」があるらしい。
そこで除霊に使うアイテムを揃えるというわけだ。
住宅街を歩く俺の手には再生中のレコーダーがあった。
比良田は先ほどから定期的に道案内をしてくれる。
俺の現在地を把握し、完璧なタイミングで指示できるのも予知能力なのだろう。
十字路を右に曲がったところで、俺はふと気になったことを尋ねる。
「そういえば、どうして録音で会話するんだ? 予知を見せつけたいのは分かるが、通話アプリとかでもいいだろ」
『企業秘密だ。今は話せない事情があるのだよ』
「じゃあ封筒に遺書と書いてた理由は?」
『それも企業秘密だね』
「説明する気はないってことだな、クソ」
俺はレコーダーをコートのポケットに押し込み、煙草を取り出して吸う。
その間も比良田は喋り続ける。
『別に意地悪をしたいわけではないんだ。君が余計な情報を知ることで、未来が変わってしまうのを防ぎたくてね』
「未来が変わっても予知できるんだろ?」
『確かに可能だが、変動し続けると対処できなくなる。だから既定路線から歪めたくないのだよ』
比良田なりの根拠と理由があっての判断らしい。
色々と気になることはあるものの、問いただしても教えてくれなさそうなので諦めることにした。
こちらの心情を察したのか、比良田は話題を変える。
『ところで、君はなぜインチキ霊能者なんてやっているんだ。騙し取った金で暮らすのは心苦しくないのか』
「なんだ、道徳の授業か?」
『真っ当な指摘さ。君は勘が良く、頭もそれなりに回る。その気になれば結果を出せる人間だ。あえて犯罪に手を染める意味がない』
「ハッ、予知能力者様も他人の心までは読めねえみたいだな」
俺は鼻を鳴らす。
そして紫煙を吐き出した後、ゆっくりと微笑んで言った。
「——俺は楽しいからやってるんだ。騙される方が悪い」
『身勝手な思想だね。いずれ因果が巡ってくるよ』
「おっ、またお得意の予知か?」
『どうだろうね……おっと、そろそろテープが切れそうだ。二番に入れ替えてくれ』
間もなく音声が終了した。
俺は②のテープを使おうとして、手を止める。
「…………」
ここで指示に逆らったどうなるのだろう。
さっきの説明に出てきた、既定路線とやらが歪むのか。
俺は好奇心に逆らえず、わざと③のテープを再生してみた。
すぐに比良田の声が聞こえてくる。
『君が番号順にテープを回さないのは予知していた。残念だったね』
勝ち誇る声を聞いた俺は、苦い顔で煙草を捨てた。