第44話 死んでも家族
東京に戻った二人は早速、浦原菜々子の実家を訪れる。
孝典の話によると、菜々子と大洋が同棲していた家は引き払ったみたいだった。
彼はやけに詳しく、楓は疑いの目を持った。
「話せば長くなるから」と孝典は言い逃れをし、話してはくれなかった。
――チーン。
おりんを鳴らし、仏壇に手を合わせる。
そこには笑顔の菜々子の写真が飾られていた。
「わざわざありがとうございます」菜々子の母親は丁寧にお茶を出してくれた。
「いえ、こちらこそ押しかけてしまって」孝典は頭を下げ、それにつられるようにして楓も下げた。
菜々子の母親が淹れてくれたお茶をゆっくりと啜る。
「菜々子は好奇心旺盛な娘でね、よく皆様にはご迷惑をおかけして」菜々子の母親は、涙ぐみながら話し始める。
すると、孝典は握り拳を作り、その手を震わせていた。
「あのーすみません」楓は話を遮るように口を開いた。
「菜々子さんの部屋ってどちらですか? 以前貸していた本を返していただきたくて」
「菜々子の部屋は2階です」菜々子の母親は立ち上がり、案内してくれた。
「こちらです」母親は扉を開ける。
そこは綺麗に片付けられており、ガランとしていた。
机や本棚はあるものの、何も残っておらず、もぬけの殻のようだった。
「遺品は?」
「すみません。主人が全て処分してしまいました」
「え、そんな……」楓たちは落胆する。
「申し訳ありません」
「本当に何も残ってないんですか?」
「はい……使っていたスマホぐらいしか……」
「そのスマホ、見せていただけませんか?」楓が尋ねると、菜々子の母親は一階に行き、引き出しからスマホを取り出した。
「それだ」ピンクのケースを見た孝典は、そう言って受け取った。
電源ボタンを押し、起動を試みるも、電池切れのようだった。
「少しの間だけ、お借りしてもいいですか?」
「ええ。もし良かったら、差し上げます」
「え?」楓と孝典は顔を見合わせた。
「処分に困っていたもので」
「あ、ありがとうございます」困惑しながらも、スマホを受け取り、楓は礼を言った。
「では、私たちはこれで」孝典が頭を下げて、玄関に向かう。
「ありがとうございました」楓も頭を下げ、そのあとに続く。
「なんか変な家族だったね」楓は帰り道を歩きながら、孝典に言った。
自分が家出した時を思い出し、比較した。
もう亡くなったとはいえ、自分の娘だ。
すぐに割り切って、遺品を処分できるものかと、楓は不思議に思った。
「そんなもんだろ」孝典は素っ気なく返してきた。
「そんなことない! 家族は死んでも家族だもん!」楓はつい強い口調で返す。
家族と会いたくても会えない悲しみは同じだと思ったからだ。
「死んだことで清々してるとしたら、どうだ? 言ってただろ? 皆様にはご迷惑をおかけしてってな」彼も人を亡くす悲しみを知っているとは思えないほど淡々と冷たかった。
「何か知ってるの?」
「……何も知らねーよ」孝典は口ではそう言っていたが、明らかに知っている様子だった。
「私たちの間で、隠し事は無しだからね」楓は釘を刺した。
「……あいつは僕の幼馴染を殺した――」彼は衝撃の一言を放った。
「だから僕はあいつが死んでも許さねぇ」彼から過去の出来事を全て聞き、あの時の怒りに満ちた表情を理解した。
彼に掛ける言葉は思いつかなかった。
全てが薄っぺらく聞こえる気がして何も言えなかった。
果穂が待つ自宅に戻ると早速、菜々子のスマホを電源に繋げる。
しばらくして、電源が入る。
画面をタップすると彼女が設定したのか、孝典の顔写真が表示された。
それを見た途端、背筋がゾワっとする。彼もまた、呆然としていた。
スマホにはロックがかかっており、4桁のパスコードを要求された。
彼女の誕生日や結婚記念日などを入力してみるが、ブルっと鳴り、間違いの表示が出るばかりだった。
「僕の誕生日か?」彼は0815と入力する。
だが、1時間後にやり直してくださいと表示されるだけだった。
「警察に相談しようか?」
「いや、警察でも開けられないよ」
「どうして?」
「犯罪者でもプライバシーがある。ここに事件の重要な証拠でも確実にあるなら話は別だが、このスマホがここにあるって事は、警察は重要と思ってないってことだろ?」孝典は冷静に分析する。
「そうだよね」
「諦めて、別の方法を考えるしかないな」彼はスマホを机に置いた。
「このスマホ、私が預かってもいい?」楓は尋ねる。
「好きにしろ」孝典はそっけなく言った。
それから数日間、菜々子のスマホを解析しようと試みるも、何もわからず、途方に暮れていた。
電源ボタンを押し、ロック画面を開く。
「あれ……?」楓はある事に気づく。
それは、ロック画面の壁紙が開くたびに変わっている事だ。
全部で5枚あるが、それは全て彼の写真だった。
異常な執着心を感じられ、正直ストーカーのようで、気味が悪かった。
――高村聡。
彼の前の名前はそう言ったっけ?
「聡……?」楓は入力を試みた。
「3……1……0……4……」画面のロックは解除された。
「やった」楓は一人で叫びそうになった。




