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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
最終章「濡れて黒くなった袖口」
43/48

第43話 二人の最期の姿

 ――今週末、会える?

 雅から突然、メッセージが送られてきた。


 進と薫の命日に顔も出さないで、よく平気な顔して連絡して来れるねと怒りを露わにしながらも、いいよと承諾の返信をする。



 楓は腕を組み、カフェの奥の席に座っていた。


 薄暗い店内で、時計の針はすでに約束の時間を過ぎていた。


 机を爪でカチカチと鳴らす。


 待ちくたびれていたわけではない。

 ただ怒りが楓を突き動かしている。


 約束時間の30分を過ぎた頃、ドアが開き、雅はようやく姿を見せる。

 

「ごめん、遅くなった」その後ろには、男性を連れていた。


 誰かに似ている気がする。


 楓は目を疑いたくなった。


 怒りは一瞬にして戸惑いに変わる。

 

「渉……」最後に見た風貌とは変わっていたが、確かに彼だった。


 雅は焦った様子で楓の前に座り、渉もその隣に腰を下ろした。

 

 楓は微かな動揺を隠しきれなかった。


 目の前に座る渉は、かつての彼とはまるで違う。


 最後に会った時の面影を探すが、その姿は過去の記憶に霞んでいた。


 長く伸びた髪に、痩せこけた頬。


 それは別の誰かを見ているよう。

 

「久しぶりだな」渉の声は低く、硬い。


 楓の心に引っかかるような響きがあった。


 彼の目は楓を見ていない。

 遠く、どこか別の場所を見つめているようだった。


 

「うん」怖くて、渉を見ていられなかった。


 雅が今更彼を連れてきた理由も分からない。

 


 楓は落ち着かせるために、コーヒーで口を濡らす。

 

「私たち、結婚するの」楓は言葉を失った。


 瞬間、カフェの空気が一層重くなり、張り詰めた緊張が3人を包み込んだ。


 雅の言葉は、鈍く心の奥底でじわじわと広がっていく。


 二人の仲が良かったことは知っている。


 だけど、また再会し、交際してるなんて思いもしなかった。

 

「そうなんだ。おめでとう」楓は感情を表に出さずに、静かに答えた。

 

 2人は禁断の愛を乗り越え、1つになろうとしている。


 そこに外から邪魔することなんてできやしなかった。


 

「そう言ってもらえて嬉しいよ」雅と渉の表情には、戸惑いが見えたが、楓は気にすることなく、そのまま穏やかに2人を見つめた。

 

「俺たち、本当に言うべきか迷ったんだ」渉が言葉を絞り出した。

 

「でも、楓にだけはきちんと伝えたかった」楓は軽く微笑んで頷いた。


 

「話してくれてありがとう。私は二人の事を応援してる」楓はただ優しく二人を見つめ続けた。

 


 新たな道を踏み出し、満足そうな二人。

 


 それが楓が見た二人の最期の姿だった。


 

 

 ――幸せになってね。

 楓の願いは、歪んだ形で叶ってしまった。


 二人の死を聞いた時、それは衝撃以外の何物でもなかった。


 

 ――雅は生きている?

 彼が何を言ってるのか分からなかった。


 

 雅は殺されたはず。


 にわかには信じがたかった。

 

 

「ああ、菜々子がそう遺書に残していたんだって」

「菜々子って、大洋の奥さんの?」

 

「ああ、そうだ」

「どうして、彼女が関係あるの?」

 

「分からない。でも僕が知ってる雅は彼女しかいないんだよ」

 

「他には何か残されていなかった?」孝典は首を横に振った。

 


「それだけだと思う。警察は誰のことかも気づいてなかったし」

 

「そっか……」

「楓も、何も知らないんだな」

 

「知らないよ。もう何年も音信不通なんだから」

「そうだよな……」彼は残念そうな表情で視線を落とした。


「なんで、菜々子さんがそれを残したと思う?」

「そりゃ、僕と雅が知り合いだってこと知ってて」

 

「私はそれだけじゃないと思う」

「どういう意味?」

 

「分からないけど、彼女なりにあなたに伝えたいことがあったんじゃないかなって」

 

「なんだよ、それ」孝典は独り言のように小さく呟く。


 

 憶測の範疇だったが、楓にはそうとしか思えなかった。


 

「一緒に雅を探さない?」

「ごめん、それはできないよ」

 

「どうして?」

「僕、結婚したんだ。だから、もう解放されたいんだ」

 

「そんなの私だって……」自分勝手なと思いながらも、楓は言い返すことができなかった。


 

「協力してあげたら?」一歩引いて隣で聞いていた果穂が言った。

「……分かったよ」彼は渋々、承諾した。


 

「でも探すって言ったって、一体どうやって?」

「うーん。もう一度、彼女の遺品の中を探すとか?」

 

「遺品か……」孝典は、難しい顔をして俯いた。

 

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