第41話 出会うべきじゃなかった二人
冷たい視線、青ざめていく表情。それは互いのトラウマを刺激した。
彼の後ろ姿は、追えば驚くほどに離れていく。彼との関係は、水と油のように一生混ざらない運命だと気付かされた。
「梅崎さん? だよね?」夏休み明け、大学に行くと彼女とすれ違った。
「あなた……楓さんね?」梅崎は楓を待ち受けていたように話しかけてきた。
彼女とは顔見知り程度でそれほど親しくはなかった。
楓が話しかけた理由はただ一つ。
「結城のこと、清水くんから聞いて」
「そっか。あたしもあなたと話したいと思ってた」梅崎が話すと、2人は落ち着いて話せるようにキャンパス内のベンチに腰掛けた。
「孝典は元気にしてるよ」梅崎は呟いた。
「そっか、良かった」楓は安堵から笑みをこぼす。
「あたし、彼と付き合ってるの」彼女ははっきりと言った。バリケードで囲うように。
「うん、知ってる。清水くんから全部聞いてる」
「そう。あなたと孝典の関係って何? ただの知り合いって感じじゃなさそうだけど」梅崎は鋭い眼光を楓に向ける。
楓はどう答えようか迷った。
彼がどこまで覚えていて、また彼女に話しているのか。
そもそも、全てを話す必要があるのだろうか。
あの時の彼が戻ってくるわけでもないし、もう彼女と争うつもりもない。
ただ梅崎の視線は、敵視しているようには見えなかった。
「こんなこと急に聞かされても信じてもらえないと思うけど、私たちは、自分たちの居場所を探していた。そうして、彼と私は出会ったの」
「友人でもなく、恋人でもない。家族のように親しくし、何も話さなくても、分かり合える最大の理解者になるはずだった。事故が起きるまではね」
「私は彼の過去を何も知らない。だから、どういうトラウマを持ち、それをきっかけに記憶喪失になったのかも分からない」
「ただ言えるのは、彼は結城孝典ではなく、私たちに嘘をついて、奥仲優希と名乗ったことだけ」楓は語り尽くした。
梅崎は口を挟むことなく、最後まで静かに聞いていた。
「あの日のこと、彼は何か言ってた?」
「過去が一瞬見えたんだって。そしたら、鬼の仮面をつけた女が横に立ってたって」
「鬼の仮面?」
「うん。それを見たら、怖くなって逃げてきたらしいよ」
「そっか、鬼の仮面ねえ」彼はやはりあの日の事件のことだけを思い出したわけではないみたいだ。
「楓さん、彼に何かしたの?」
「私はただ困ってる彼を救いたかっただけ。結城も理解してくれて、私たちと仲良くしてくれた。それなのに、ある日を境に避けられるようになった」楓はさらに続けた。
「私は彼が好きだった。でもその気持ちは、結城には迷惑で邪魔だったみたい」
「会って話してみたら?」
「ううん、もう私は彼と会うつもりはない」
「どうして?」
「結城にとって私は疫病神だから」梅崎は楓の一言に息を呑み、彼女の方を見た。
「疫病神……?」楓は頷いた。
「私たちのせいで、彼を巻き込んでしまったの。だから……もう結城とは関わらないでおく。元々、出会うべきじゃなかったんだよ」
「2人がそう思うなら、そうなのかもね」梅崎は楓の言葉に納得したのか、それ以上追及することはなかった。
「じゃあ、私は帰るね」
「うん、またね」楓は立ち上がり、梅崎に別れの挨拶をする。
「最後に一つ聞いてもいい?」梅崎は最後に楓を呼び止めた。
「何?」彼女は振り返って楓の目を見る。
「まだ、孝典のこと好きなの?」どうして梅崎がそんなことを聞くのか分からなかった。
「もう好きじゃないよ」楓は一呼吸置いてから答えた。
「そっか、分かった。じゃあまたね」梅崎は笑顔で手を振る。楓はその姿を見て何かが吹っ切れた。
「梅崎さん、じゃあね」そう言って、彼女と別れた。
もう迷うことはない。彼女を見ていると、そう思えたのだ。
――よし!
楓はカバンからスマホを取り出し、電話を掛けた。
「もしもし?」
「もしもし、急にどうしたの?」
「会いたくなっちゃて」
「そう。俺の家でもいい?」
「うん、すぐ行くね」楓は電話を切ると、ゆっくりとした足取りで大洋の家に向かった。




