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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第5章「一番じゃないと気が済まない」
31/48

第31話 美しいものには毒がある

 海からの風が心地よく肌に当たる。


 エメラルドグリーンの浅瀬。


 奥に行くほど、色は濃くなりコバルトブルーに変わる。


 太陽に照らされてキラキラ輝く水面と真っ青な空。


 どこまでも広く広がっている。その景色はまるで、菜々子を歓迎しているようだった。

 

「懐かしいな」菜々子は呟いた。

「ここに来ると落ち着くんだよね」と微笑む。

 

「来たことあるんだ?」

「うん、昔ね。この近くにおばあちゃんが住んでてさ、連休の時よく遊びに来てたんだ」

 

「へぇーそうなんだ」

「でも、もう亡くなっちゃったけどね」菜々子は彼の目を見ながら、彼の手をギュッと握った。

 

 彼もまたその手に力を込めた。そして再び歩き出す。

 

 二人の手は離れることはなかった。

 

 波打ち際まで行くと足を止める。


 靴を脱いでズボンの裾を上げて、砂浜を歩く。


 足の指の間から砂が流れていく感触がくすぐったい。

 

 足元に寄せる波が、濡れるか濡れないかのギリギリを攻めてくる。


 それを何度か繰り返すと、波は菜々子のつま先に触れた。

 

「ひゃっ」海水が冷たく、菜々子は叫んだ。

 

「何やってんだよ」隣では彼が笑っている。

「笑わないでよ」菜々子は頬を膨らませた。

 

「ごめん」言いながらもまだ笑っていた。菜々子は水面に手を差し伸べる。

 

「えいっ」小さな水飛沫が上がった。

「やめろよ!」嫌がる姿を見て、菜々子は悪戯っ子みたいに笑う。

 

「もう怒ったぞ」大人気なくバシャバシャと倍返しされる。


 菜々子は走って逃げた。


 彼は待て待てと追いかける。


 そんな姿に菜々子はまた大笑い。



 楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 


 気が付くと夕暮れ時になっていた。


 オレンジに輝く太陽が水平線へと沈んでいる。


 海に反射した光が眩しいくらい綺麗だ。

 

「帰ろうか」彼が言った。


 菜々子は頷き、彼の腕に自分の手を絡ませる。

 

 そして二人は歩き出した。



 少し歩くと、緑の自然が目に入ってきた。


 伸び伸びしている。何でも無い景色、東京でも木ぐらい生えている。


 だけれど、何かが違う。


 良い空気を吸っているからか、緑が青々している。5メートルを超える大きな木も、それに負けじと生える雑草たちも。

 

「綺麗……」菜々子は小葉に身を隠す美しい赤い種に見惚れる。

 

「どうした?」彼がそう言うと、菜々子は指差した。


 深みのある宝石のような美しさ。


 その美しさから、アクセサリーにする民族もいるらしい。

 

「確かに綺麗だ」

「でも、猛毒があるんだよ。昔おばあちゃんに触るなって怒られたんだ」彼女はそう言って苦笑する。

  


 美しいものには毒がある。


 どこかで聞いたことのあるフレーズ。菜々子は心の中でそっと呟く。




 二人は東京に戻り、不倫旅行を終えた、いつもの日常に戻る。


 朝起きて支度をし会社に向かう。

 

 菜々子は会社でお土産を配る。

 

「誰と沖縄行ったの?」

「彼氏だよ」菜々子は嘘をつく。

 

「えー、菜々子って彼氏いたんだー。どんな人なの、教えてよ」

 

「内緒ー」

「えーいいじゃん」菜々子は笑って誤魔化す。

 

「課長もどうですか?」

「おう、サンキュー」森尾課長は、お土産を受け取る。


 菜々子は席に戻った。



 スマホの通知が来る。

 

 ――あとで資料室に来て。

 彼からだった。


 菜々子は彼とアイコンタクトを取る。そして小さく首肯した。

 

 ――わかったよ。

 菜々子はそう返した。


 菜々子は呼び出された通り、資料室にやってくる。


 中に入ると、いきなり抱きつかれた。

 

「ダメだよ、仕事中だって」

「いいじゃん、ここは滅多に誰も来ないし」

 

「もう」菜々子は抵抗するのを諦め、そのままキスを受け入れる。


 

 長い口づけが終わると、奥に人影が見えた。


 菜々子は誰かと目が合った。

 

 ――まずい、見られた。

 菜々子が思った瞬間、通知音が資料室に響く。

 

「え?」彼は後ろを振り返った。

 

「私だよ」菜々子は咄嗟に嘘をつく。


 彼に見られたことが気づかれたら、大変なことになると思ったからだ。


 

「部長が探してるって」菜々子は、スマホを取り出し、嘘を取り繕った。

 

「そうなんだ、ありがとう」彼はすぐに信じてくれた。


 彼は急いで部屋を出ていく。

 

 足音が完全に消えるのを確認すると、菜々子の身体の力が抜けた。


 安堵して、ため息をついた。


「すみません」見ていた男は姿を現した。


 彼は確か、新入社員の竹岡匠海だ。


 菜々子は彼に近づく。

 

「見てたよね」菜々子は訊ねた。

「はい、見ました」彼は明らかに動揺している、

 

「お願いだから、誰にも言わないでくれるかな」菜々子はガンを飛ばした。

 

「言いません、言えませんよ。課長と浦原先輩が……なんて」

 

「分かってるよね?」

「はい……」竹岡は戸惑いながら返事をした。

「約束だよ」菜々子は念を押し、その場を立ち去った。



 ――近いうちに終わらせないと。

 でもただ終わらすだけじゃつまらない。彼が絶望する顔が見たい。


 どうすれば一番面白いのだろう。菜々子は考えた。


 

 そして、一つの結論に辿り着く。

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