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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第5章「一番じゃないと気が済まない」
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第30話 たった一度の失敗

 菜々子はいつからか、人が喜ぶ顔を壊すことに快感を得るようになった。


 幸せそうな人をどん底に突き落としたい。


 絶望する顔がたまらない。


 それが彼女の生きる糧となっていた。


 中学では不良のリーダーを虐め、立場を逆転させた。


 さらに高校では男性教師を誘惑した。


 その気にさせると金銭を要求、加えて襲われたと嘘をつき、懲戒免職にさせた。


 チョロかった。何でも思った通りに動いた。

 

 そして、菜々子は大学生になった。


 今度は誰に何をしようか、ターゲットを探していた。

 

「久しぶりに会えないか」そんな時、彼は数年ぶりに連絡してきた。



 今更、もう遅いんだ。


 どれだけ辛かったことか。


 高村聡、あなたには分からないでしょうね。



 それなのに、会ってみたい自分がいた。


 会ってみるだけ、会うことにした。



 待ち合わせ場所に行くと、彼は既に待っていた。


 久しぶりの再会だ。

 

「元気にしてたか?」菜々子を見るなり、聡は笑顔を見せる。


 成長した聡は、より男らしくなっていた。


 一瞬、ドキッとする。



 けれども、今は昔の感情など無いに等しい。

 

「うーん……まあまあかな……」

「何だよそれ」と聡は笑っていた。


 懐かしい会話、嬉しかった。


 昔に戻ったような気がした。


 

 彼がもし縒りを戻したいというなら考えてやってもいい。


 二人は古びた喫茶店に入っていく。

「僕さ、東京の大学に行くために、こっちに戻ってきたんだ」

 

「へぇーそうなんだ。どこの大学?」

凛和大(りんわだい)凛和大学(りんわだいがく)と言えば、桜成大学に次ぐ難関大学だ。


 頭が良いのは知っていたが、そこまでとは思わなかった。

 

「凄いじゃん!」菜々子は素直に褒めた。

「浦原さんは?」

 

「私は、白橋大(しらはしだい)

「白橋大か……彼女と一緒だ」

 

「彼女?」菜々子の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

「ああ、僕の彼女。一緒に上京してきたんだ」

 

「そう……なんだ」期待していたわけじゃない。


 でもなぜだか、ショックを受けている自分がいた。


 

 菜々子は運ばれてきたアイスコーヒーにミルクを入れてかき混ぜる。


 カランッという音が響いた。

 

「ねえ、私に会いたいって言ってたのは何で? 別に会わなくても良かったんじゃないの?」菜々子は気になっていたことを尋ねた。



 すると、彼の表情から急に笑顔が消える。


「そうだね、確かに今さら会う必要なんて無かったよ。でもけじめをつけるべきだと思ったんだ」

 

「けじめ?」

「うん。当時は言えなくても、今なら言えるだろう?」

 

「一体何の話?」

「全部、池山さんから聞いたよ」その名前を聞いた瞬間、血の気が引いた。


 全身の血が全て抜けたかのように体が震えだす。


 菜々子は動揺を隠しきれなかった。


 必死で言い訳を考える。


 どうすれば誤魔化せるだろうか。


 だが、思考回路は完全にストップしてしまった。


 

「僕はずっと前から、君がやったことを知ってたよ」彼の一言は菜々子を奈落の底へと突き落とす。


「なんのことかなぁ?」菜々子は笑ってみせた。上手く笑えた自信はないけれど。

 

 

「しらばっくれるのか?」聡の声は低く怒りを帯びていた。

 

「違うって! 本当に知らないってば!!」菜々子は激しく否定する。


 しかし、聡は信じてくれなかった。

 

「私の事より、あの女の言うことを信じるの?」菜々子の言葉に、聡は大きくため息をつく。


 

「ああ。だってよ、泣きながら電話してきたんだよ。僕だけが信じてくれれば、それでいいって」菜々子を見つめる瞳は冷たかった。


 聡の目を見て確信した。

 

 もう逃げられない、終わりだと悟った。


 でも認めるわけにはいかなかった。


 認めたら全て終わってしまう。


 だから嘘をついた。


 菜々子は涙を流す。これしかできなかった。


 

「もういいよ。本当のことを話してくれたら許そうと思ってたのに」聡は席を立った。

 

「待って……お願い……行かないで」菜々子は慌てて呼び止める。



 聡は立ち止まり振り返ると、サヨナラと一言だけ残して去っていった。

 


 一人取り残された菜々子は絶望する。


 

 テーブルの上には飲みかけのアイスコーヒー。


 静寂の中、コーヒーを啜る音が寂しく響く。


 一口飲めば、ついさっきよりも苦い。

 

「氷はいいよな」自然と消えてなくなるから。菜々子はアイスコーヒーの氷を一つ摘まむと口の中に放り込んだ。



 ガリガリと噛み砕く音が虚しさを倍増させる。

 


 それを飲み込むと笑いが込み上げてきた。

「いい事思いついた」菜々子は笑顔のまま喫茶店を出ていく。


 

 ――2度と同じ失敗はしない。

 

 ――あなたは私のもの。

 菜々子は密かに次の計画を練り始めた。


 計画は順調だった。あの男が邪魔をするまでは。

 

唯月(いつき)、どうしたの? 元気ないじゃない?」覇気が無い彼女を見て、菜々子は心配した。


 ここ最近の唯月の様子は変だ。


 妙に避けられている気がする。

 

「菜々子……」彼女は今にも泣きそうな表情で、抱きついてきた。

 

「何かあったの?」菜々子が頭を撫でて宥めると、唯月は言いづらそうに話し始めた。


 

「彼氏と喧嘩した。急に別れるとか言い出して」

「あれ、本当だったんだ」菜々子は心の中で呟く。

 

「家に帰って来んし、電話しても出んし、メッセージ送っても既読つかんし……」

 

「それは心配だね」


「菜々子、知らへん?」

「ううん、知らないよ。会ったことも無いのに」

 

「せやんな。ウチ、頭おかしなってるわ」唯月は力無く笑った。


 ごめんな、と謝る姿も弱々しい。

 

「元気出して、私が慰めてあげる」菜々子は優しく抱き締めた。



 ――なんだろう。こんな気持ちは初めてだ。

 彼は本当にいなくなったのかもしれない。


 そうなれば、殺す理由も無くなった。


 嫉みや怒りは唯月を見てると消滅していく。

 


 これが情ってものなのか。

 

 彼女の様子が気になる。


 気になって仕方がない。


 日を追う事に、弱っていく唯月の姿は目も当てられなかった。

 

「大丈夫、すぐ戻ってくるよ」励ましの言葉は虚しく、より傷つけるだけだった。

 

 まるで、氷のようだった。


 触れば冷たく、溶けるスピードは増すばかり。



 水になれば体積は減っていく。


 ――カランッ。

 アイスコーヒーをストローでかき混ぜる。見るたびに思い出す、たった一度の失敗。



 菜々子はストローをスーッと吸った。

 

 ――カシャッ。

 突然、聞こえるシャッター音。

 

「何撮ってんのよ」菜々子は恥ずかしそうに顔を隠す。

 

「いいじゃねーかよ、せっかく旅行に来たんだからよ」二人っきりの沖縄旅行。

 邪魔するものは何も無い。


 

「じゃあ、私も撮っちゃおうっと」カメラのメンズが映すのは、サングラスを掛けた妻子持ちの男。


 名前は呼ばない方がいいかな。


 新しいターゲット。


 この男はどんな顔をしてくれるのだろう。


 考えただけでワクワクする。


 菜々子は不適な笑みを浮かべた。

 

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