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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第5章「一番じゃないと気が済まない」
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第28話 破り捨てられた写真

 キャラクターが空中に浮遊している隙に、菜々子は聡のほっぺにキスをする。


 

「え?」聡は動揺して操作していた手が止まる。


 キャラクターはそのまま谷底に落ち、菜々子は勝った。

 

「やったー、聡くんの負け〜」満面の笑みを浮かべながら言った。

 

「いきなり、何やってるの」

「キス」


 

「ダメだよ、キスは。好きな人同士でするものだよ」聡は真面目な顔をする。


 

「じゃあ、聡くんは優希としたの?」菜々子は問い詰めるように聞いた。

 

「いや、まだだけど……」

「私は聡くんのこと好きだよ」真っ直ぐ目を見つめ、はっきりと言った。


 聡は黙って俯いている。


 菜々子は彼の手を握った。

 

「ねぇ、もう一回する?」聡は小さく頷き、唇を重ねようとする。

 

「ゲームだよ、ゲーム」菜々子は笑いながら言った。


 

 本心はして欲しかったけど、今はお預け。


 これで彼は意識するはず。

 

 聡は苦笑いして頭を掻いた。


 

 その後、少し遊んでからその日は何事も無く自宅に帰った。

 


 それから、二人の関係は変わる。



 目が合っても不自然に逸らされたり、唯一の楽しみだった放課後のあの時間、彼は水槽前に姿を見せなくなった。



 菜々子は一人で餌やりをする。

 

「失敗だったかな」餌を食べる鯉に聞いてみる。


 返事はなく、水槽のエアーポンプだけがブクブクと音を立てる。


 金魚の死と菜々子の恋は、水の泡になった。



 一筋の涙が菜々子の頬を濡らす。



 これで良かったんだと自分に言い聞かせるしかなかった。



 しばらくして、聡は学校に来なくなった。

 彼の両親が、亡くなったらしい。



 学校では、交通事故で亡くなったという噂が飛び交っている。


 菜々子は何も知らないふりをして過ごした。


 そんな噂も静まった頃、彼は何事も無く元気な様子で登校してきた。


 でも誰もが分かってた。


 いつも通りではないことに。


 けれども、誰も触れられない。


 

 放課後、生物係の菜々子が一人だけで水槽の世話をしていると、彼はやって来た。


 水槽の鯉は激しく泳ぐ。それは彼を歓迎するかのよう。

 

「聡くん……」久しぶりの会話に戸惑う。


 聡は何も言わず、水槽の中を眺めている。


 その横顔はとても悲しそうに見える。

 

「どうして……ここに来たの」沈黙に耐えられず、菜々子が先に口を開いた。

 

「浦原さんがいると思って」

「私のこと好きじゃなかったんじゃないの?」

 

「うん、好きじゃなかった」

「じゃあ、なんで」

 

「分からない。でも今僕は君と一緒にいたい」

 

「おかしな人。自分が何を言ってるか、分かってる?」

 

「うん、おかしいね」聡は笑顔を見せた。


 菜々子もつられて笑う。


 彼は一歩、二歩、菜々子に近づいてくる。

「ねぇ、抱きしめてもいい?」

「ダメだよ、誰がくるか分からないじゃない」

 

「じゃあ、誰も来ないところで」

「もうしょうがないなぁ」二人は教室を出る。


 誰もいない理科室に入り鍵を閉めた。

 

 聡は菜々子を優しく抱き寄せる。



 初めて抱かれた。

 

「私、あなたのことを好きでいていい?」そう尋ねると、彼は微笑みながら首を縦に振る。

 

「いいよ」彼は耳元で言うと、菜々子は嬉しくて泣きそうになる。


 その日以来、菜々子と聡の関係は始まった。


 二人だけの秘密の関係だ。


 彼が求めてくれるから、幸せだった。



 聡の家に遊びに行くようになったある日、ベッドの下にアルバムが落ちていた。


 見てはいけないと思いつつも、興味本位で中を見る。


 そこに写っていた写真を見て不満に思った。


 聡の隣には、菜々子のよく知る女の子がいたのだ。

 

「優希……」菜々子はその写真を破り捨てる。


 聡が本当に好きなのは、優希だって。


 分かってた、でも許せなかった。

 

 ――全部上書きして優希のことを忘れさせてやる。

 菜々子はその日、彼に全てを捧げた。


 どんなに痛くても我慢した。



 一番になりたい。


 優希から彼を奪ったという事実が欲しかった。


 聡が菜々子の物になった時、同時に彼は彼女を切り裂いていた。


 赤い血が流れる。


 それは、菜々子の証でもあった。


 二人は毎日のように愛を深めていく。


 

 学校でも、聡の家でも。


 そして冬休みに入ってからのことだった。


 菜々子はいつものように聡の家の玄関前で待っていた。


 チャイムを鳴らすとすぐに扉が開く。



 聡の姿は悲しそうだった。

「どうしたの?元気無いみたいだけど」

 

「僕、転校することになったんだ」

 

「そうなんだ……どこに行くの?」

 

「遠くだよ、大阪」

「そっか、もう会えなくなるの?」

 

「いや、きっとまたいつかどこかで……」聡は曖昧な言い方をする。

 

「いつ戻ってくるの?」

「さあ、わからない」聡は下を向いてしまう。

 

「やだよ、離れたくない」

「ごめん、菜々子。ずっと一緒にはいられない」

 

「そうだよね……」菜々子は涙を流す。


 聡は菜々子を強く抱きしめた。


 彼女の温もりを確かめるように強く。

 

「さよならは言わない」

「ありがとう、聡くん」菜々子は彼の背中に手を回して言った。

 

「また連絡するよ」


 翌日、聡は祖母のいる大阪に引っ越していった。


 菜々子は寂しさを堪えながら見送りをした。



 でも菜々子は泣かなかった。


 必ず帰ってきてくれると信じていたから。


 彼の乗った新幹線が見えなくなっても、彼女はその場から離れられなかった。

 


 ――また連絡するよ。

 彼は最後に言っていた。


 1週間経っても、彼は連絡してこなかった。


 菜々子も、彼にも都合があるのだと連絡できなかった。



 けれども、冬休みが終わっても連絡一つなかった。


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