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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第4章「あの日の真実と嘘」
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第25話 ボロボロになった床のタイル

「なんだよ、あいつ」郁人は呟く。

「で、結局誰が押したんだ?」続きが気になる孝典は、話を戻した。

 

「えーっと確かな、池山実加(いけやまみか)っていう子だった」

「でも、ただの噂だから。誰も見てないし、どこから広まったのかも分からない」

 

「ふーん、その子は今日来てる?」

「まさか、来てないよ。池山が今何してるかも誰も知らないよ」池山はあれから不登校になったそうだ。

 中学になっても、在籍はしていたが一度も登校したことはないみたいだ。

 


 しばらくしても、沙耶は戻って来なかった。


 孝典は心配になり、彼女を探す。


 トイレ前の廊下にしゃがみ込んでいた。

 

「小沢さん?」彼女は泣いていた。

「こっち来ないで」真っ赤になった涙目で睨みつけられる。

 

「どうしたの?」

「元はと言えば、あんたが悪いんだから!」記憶喪失の孝典にはとんだとばっちりだった。

 

「え? どういうことだよ。説明してよ」沙耶はそれを理解したのか、首を激しく横に振り黙り込む。


 やはり、彼女は何かを知っていそうだ。


 孝典はため息をつく。

 

「分かった。言いたくないなら、聞かない」孝典は、沙耶の隣に同じようにして座った。

 

「なんで、近づいてくるの」

「なんでかな、自分にも分かんない」

 

「意味わかんない」

「小沢さんが落ち着くまでそばにいるよ」

 

「余計なお世話だよ」沙耶は泣きながら悪態をつく。


 

「私あの時、実加のこと助けられなかった」沙耶はしばらくして口を開いた。

 

「どういうこと? あの時のこと詳しく聞かせて」

 

「私と実加は家が近所で小さい時から遊んでて、親友だった。でも実加が犯人だって噂が広まった頃、私はそれを否定する彼女を信じてあげることができなかった。それどころか、私は実加を虐めたんだ」


 

「どうして?」

 

「怖かったの。否定すればするほど、皆は面白半分に騒ぐし。実加を助けたら私のこともいじめられるんじゃないかって思ったら、急に恐ろしくなって。だから、黙って見過ごすことにしたの」


 

「そうなんだ……」

 

「実加が不登校になる前、最後に実加に言われたんだ、友だちだと思ってたのにって。それが忘れられなくて、ずっと後悔ばかりしてきた。あの時助けていられたら、何か変わってたのかなって」沙耶は流れた涙を拭いた。


 

「今そう思えるなら、池山さんに伝えたほうがいいんじゃない? 彼女もそれで救われるかもしれない」孝典はアドバイスを送った。

 

 

「うん、そうだね。そうするよ」沙耶は気が晴れたような顔をしていた。



「でもさ、僕が悪いってどういう事? まさか僕が……⁇」

 

「あんたはもう転校していなかった。だから何もしてない」それは理不尽極まりなかった。


 

「だったら? なんで?」

「あんたがいなくなったからよ」彼女の言う意味が分からなかった。孝典は聞き返す。


 

「あんたが……」沙耶が何かを言いかけた時、誰かが廊下に来るのが分かったのか彼女は黙った。

 

「あ! いた!」廊下に来たのは、菜々子だった。彼女は近づいてくる。

 

「こんなところで何してるの?」

 

「ちょっと2人で話してた」孝典は立ち上がり、ズボンについた埃を払うように自分のお尻を叩いた。


 沙耶も少し遅れて立ち上がる。

「気をつけなよ」彼女は、孝典にしか聞こえない声で言った。


 沙耶はそれだけ言い残して、会場に戻って行った。


 孝典は彼女の後ろ姿を追視し、棒立ちで立ち尽くす。

 

「どうしたの?」菜々子は心配そうに聞いてくる。

 

「なんでもないよ」孝典は横に首を2回振った。

 

「そっか。2次会カラオケだって、どうする?」

「僕は帰るよ、菜々子さんは?」

 

「じゃあ私も帰る」同窓会はお開きとなった。


 久しぶりに集まった友人たちに別れを告げ、孝典と菜々子はそのまま駅に向かった。


 

「今日は楽しかったね」道中で、隣を歩く彼女が微笑む。

「うん」楽しい時間はすぐに過ぎていく。


 あっという間に駅に着いた。

 

「またね」彼女とは路線が違うのでここで分かれる。


 孝典と菜々子は見つめ合う。


 頭では分かっているつもりだ。

 

 でも身体が動かない。


 改札の前で固まる。


 彼女を見つめていると急に懐かしくなった。


 孝典は一歩前に踏み出す。

 

「前にも同じことあったよね」

「覚えてるの?」

 

「ううん、何となくそんな気がした」

「正解」菜々子は笑った。孝典も微笑み返す。

 

「この後、何したか分かる?」

「分からない」集中して思い出そうとする。


 しかし、何も浮かんでこない。孝典は首を横に振る。

 

「キス……」菜々子は恥ずかしそうに言った。

 

 ――そうだ。13年前、ここで彼女とキスをした。

 ICカードがタッチしにくかった自動改札、何万という人が歩き擦れてボロボロになった床のタイル。


 駅はあの時から変わってしまった。

 

 だけど、2人だけは変わらない。

 

「菜々子」彼女の顔が目の前にあった。


 唇が重なる。


 それは一瞬の出来事だった。


 すぐに離れる。



 電車の到着のアナウンスが鳴る。

 今なら走れば間に合うはずだ。


 

「6年ぶりだね」菜々子は呼び止め、指を絡ませるように手を握る。


 孝典は動けなくなった。

 

「6年ぶり?」彼女の言葉に困惑する。



 6年前とは、福井で事件に巻き込まれる直前であり、その頃、菜々子と会っていたことになる。


 

「そうだよ、あなたは私に会うために上京してきたんだよ」到着した電車は発車してしまった。


 

「どうして……もっと早く言ってくれなかったの」

 

「言ったって覚えてないでしょ」孝典は何も言い返せなかった。


 

「ずっと心配してたんだよ? 急に連絡が途絶えて」菜々子は泣き出す。


 それを見た孝典は彼女を抱きしめた。

 

「ごめん、本当にごめん」何度も謝るが菜々子の嗚咽は止まらない。


 背中をさすりながら優しくさすったり叩いたりしていると次第に落ち着きを取り戻してきたようだ。


 

「行こう、家まで送るよ」

「うん、ありがとう」2人は同じ電車に乗り、菜々子の家に向かった。


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