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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第4章「あの日の真実と嘘」
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第24話 必死に制止する会話

「記憶喪失……そんなことがあったのか」誠也は小声で呟いた。

 

「そういう理由なら、別に一人ぐらい飛び入りで入っても問題無いとは思うけど……。五十嵐はどう思う?」彼は、一華に意見を聞いてみる。

 

「私もいいと思うけど」

「じゃあ、決まりだな」二人が賛同したことで願いは叶った。


 孝典は胸の奥底で安堵していた。

 

「ありがとう、関町くん」菜々子は彼に礼を言うと、誠也は照れた様子を見せた。

 

 それからすぐに同窓会が始まった。


 同窓生たちは、孝典のことを快く受け入れてくれた。


 何であっても十数年ぶりの再会だ、元気そうで良かったと声をかけてくれた。


 だが、彼らのこと何一つ覚えていない孝典は、何を話せばいいのか分からず、ただ気まずくて菜々子の後ろを付いて回るしか無かった。

 

「せっかくなんだから、誰かに話しかけてみたら? 皆んな優しいよ」菜々子は突き放した。


 孝典はひとりぼっちになる。


 酒を飲み、騒ぎ出す同窓生たちの異空間。


 ここは居場所ではない。

 帰りたい気持ちでいっぱいになった。

 

「おーい、こっち来いよ」遠くの方で呼ぶ声が聞こえる。


 孝典は自分のことではないと無視していた。

 

「お前だよ、聡」男は近くに来て言った。

「誰だっけ」男は、大平啓介(おおひらけいすけ)と言った。


 彼は、高村聡とは幼稚園からの幼馴染だと言った。


 全く知らないが、彼について行くことにした。


 彼は男女2人ずつの4人で飲んでいた。


 啓介と他のメンバーは、茶谷郁人(ちゃたにいくと)星田栞里(ほしだしおり)、小沢沙耶。


 彼らは高村聡をよく知ってると言った。

 

「お前も飲め!」ビールを注がれる。孝典はぐいっと一杯飲んだ。


 4人の中に、1人だけ目に留まる人がいた。


 小沢沙耶。


 そう言えば、菜々子が高校までずっと一緒だったと話してたっけ。

 

「そういえば、あんた菜々子の結婚式にいたね」

「なんで、知ってるの」

 

「私もあそこにいたんだ」

「へぇーそうだったんだ、全然知らなかった」

 

「あんためちゃくちゃ目立ってたもんね」孝典には見覚えがなく、首を傾げた。

 

「ほら、口喧嘩してたじゃない?」

「ああ、そんなこともあったな」莉沙に言いがかりをつけられていた所を見ていたらしい。

 

「まあ、それどころじゃなかったけどね」沙耶は手前に置いてあった、さきイカの天ぷらをつまんだ。


 あの時は、まさかあんな事が起きるなんて考えもしなかった。

 

「何、その面白そうな話。詳しく聞かせろよー」悲劇を知らない啓介たちは、探ってくる。

 

「その話はちょっと」二人は絶対に話せまいと、口を閉ざした。

 

「じゃあ、菜々子に直接聞いたろ」啓介はグループから離れ、菜々子を呼ぼうとした。



「絶対ダメ!」孝典は彼の腕を掴み、口を塞いだ。

「話すから、直接聞かないで」沙耶も必死になって彼を止める。


「何だよ、二人して」二人は、結婚式であった一連の話をする。それを聞いた彼らは静まり返った。


「飲みの席で、そんな話するなよ」

「啓介が、話せって言ったんじゃん!」

 

「え? そうだっけか? 忘れちまったよそんなこと」どっちが記憶喪失なんだと突っ込みたくなった。


 啓介は再びビールを注いだ。

 

「まさか、そんなことがあったとはな……元気そうに見えるけど」菜々子は楽しそうに別の五十嵐一華らと話している。


 彼女がこっちをチラッと見ると目を逸らした。

 

「まあ、あれから1ヶ月は経つしな」孝典は、ビールをゴクゴク飲んだ。


「てっきり、お前が菜々子と付き合ってるのかと思ったよ」

「偶然知り合っただけだよ。別に彼女はいるし」

 

「そうなのか? 付き合ってどれくらいになる?」

「5年だよ」

 

「5年も付き合ってたら、そろそろ結婚だな?」

「うーん、どうだろう。考えてはいるけど、まだかな」

 

「意外と慎重だね」

「まあね、皆んなはどうなの?」4人は答えた。


 彼らの中で結婚しているのは、啓介だけだった。


 栞里と沙耶は恋人がいるらしいが、郁人は恋人すらもいないそうだ。


 なんだか気まずくなったのでその話は終わった。


「記憶が無くなるってどんな感じなの?」栞里は興味津々に聞いてくる。

 

「うーん、どんな感じか……。何となく、頭の中がモヤモヤしてきて、徐々にそれが強くなってくるんだ。それからパッと冷静になった時に何でここにいるんだっけってなってね。そしたらあれもこれも思い出せなくてね」


 

「それって、酔っ払って記憶が無くなるのとは違う?」

「うん。酔っ払ってる時は断片的に覚えてるからね」


「確かにそうだね」栞里は枝豆をつまんだ。


「どっちかって言ったら、電車で寝てて気づいたら知らない駅にいる感じ」

「ふーん、そうなんだ」

 

「教えて欲しいんだけどさ、僕って小学生の頃どうだった?」孝典は過去の自分についてどうしても気になって聞かずにはいられなかった。

 

「どうって?」彼女は質問の意図が分からないようだった。

 

「例えば、ヤンチャだったとか、真面目だったとか」

「どちらかと言えば、ヤンチャだったね」

 

「へえー」

「でも、根はいい奴でさ、運動神経も良くて結構女子人気あったんだよ」

 

「そうだったんだ……」

「聡くんのこと好きな子いっぱいいたと思うよ、皆言わないだけでね。だって彼女いたしね」彼女、菜々子のことか。孝典は思った。

 

「優希とラブラブだったからね、羨ましいかったな」

「……今、優希って言った?」

 

「うん、あんたは奥仲優希ちゃんと付き合ってたんだよ?」

「え? それは知らなかった」菜々子はそんなことを一言も言っていなかった。


 彼女は事故で亡くなったとしか。

 

「事故で亡くなったのは、本当?」

「……なんだ、それは知ってるんだ」

 

「うん、菜々子から聞いてる」

「下校途中にね、階段から足を滑らせてね」

 

「ねえ、もうその話やめよ?」沙耶は止めようとする。


 なぜそんなことするのだろう、理由が分からない。

 

「いいじゃん、知りたがってるんだからよ」しかし、酔いが進んでいる彼らは止まらない。

 

「噂では、誰かが背中を押して……」

「お願い! もうやめて!」沙耶は叫んだ。


 賑やかに話していた他のグループも静まり、こっちを見ている。

 

「ごめん、大声出して。私、トイレ行ってくる」彼女はその場から立ち去った。


 孝典は、彼女を目で追う。


 彼女の後ろ姿は哀愁が漂っていた。

 

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