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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第4章「あの日の真実と嘘」
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第23話 静かにつま先トントン

 捕まった森尾和希は、以前のストーカー行為もあり、警察にマークされていた。



 そして、4日前から菜々子の自宅にインターホンを鳴らし続けたこと、さらにはマジックが得意な竹岡匠海に結婚式で余興をするように助言し、こっそりと使用するワインにタリウムを混入させたこと、全て自供して罪を認めた。


 

 自宅からは、検出されたものと同じ成分のタリウムが見つかり、それが動かぬ証拠となった。


 大洋殺しの事件はこれにて一件落着した。

 

「やたらと詳しいのね」果穂は言った。

「菜々子さんから聞いたんだ」

 

「いつの間に仲良くなったの?」

「えーっと⋯⋯」孝典は、自分でも分かるくらい目が泳いだ。

 

 相変わらず、果穂には大洋と密会していたことは聞けていない。


 面と向かって、聞く勇気がない。


 彼女の顔を見ては、目線を逸らした。

 

 そんな日々を過ごしながら、1週間ぐらい過ぎた頃、菜々子から再び連絡がきた。


 

 ――来週小学校の同窓会があることをすっかり忘れていました。一緒に行きませんか。


 

 孝典は卒業生ではないが、5年は一緒に過ごした友人たちが集まる。


 もしかしたら、何か記憶が戻るきっかけが生まれるかもしれない。


 孝典はすぐに行きたいと返信した。


 もちろん不安もあったが、それよりも記憶を取り戻したいという気持ちの方が強かった。

 


 同窓会当日、服を着替え髪をセットし、いつもより気合いを入れていると、果穂が様子を伺う。

 

「ねぇ、誰とどこに行くの?」

「果穂の知らない友だちと渋谷で」


「ふーん、私の知らない友だちか。名前は?」

 

「別に、誰でもいいじゃん」

「名前くらい教えてくれてもいいじゃない?」

 

「……田中だよ、田中」

「ふーん、田中ね? って絶対嘘じゃん、それ」

 

「うるせぇなぁ……」孝典は苛立ちを隠さずにそう言ったが、彼女は引き下がらなかった。

 

「まさか、菜々子さんじゃないよね?」果穂は彼女の名前を口にした。


 流石の果穂も怪しいと疑い始めていたか。


 孝典は図星を突かれて何も言えず、洗面所から移動する。

 

「それは、もう浮気だよ? 分かってる?」浮気。その言葉に孝典の心は大きく揺れた。


 まさか自分がそんなことを言われる立場になるなんて……。


 孝典は心の中でそう呟いた。

 

「僕だって知ってるんだ。果穂が大洋とこっそり会ってたこと」

 

「な、なんで知ってるの?」彼女は見るからに動揺していた。

 

「そんなこと別にいいだろう。果穂だって隠し事の一つや二つあるんだから」

 

「……」彼女は押し黙ったまま俯いていた。

 

「僕は二人で何してたか聞かないよ、信じたいから」果穂は顔上げた。孝典は果穂を見つめる。


「だから僕のこと、信じてよ」

 

「分かった、でも最後に聞かせて。私に好きとか愛してるとかって言葉、最後にいつ言ったか、覚えてる?」孝典は答えられなかった。


 

「言えないよね、だって最近全然言ってくれないもんね。菜々子さんと出会ってからずっとそう。だから、私が寂しかったってことは理解して欲しい」確かに最近、おかしいかもしれない。


 菜々子といる時間が楽しく感じているし、もっと一緒にいたいと思うようになってきている。


 だが、これは浮気ではないはずだ。


 だってただの友人なんだから。


 それに彼女のことが好きだとか愛しているだとか、そういう気持ちは全く抱いてないんだから。


 孝典は自分に言い聞かせるように何度もそう思った。



 しかし、それを口に出して断言することはできなかった。

 

「絶対帰ってくるから」孝典は靴を履き、つま先をトントンしてから玄関を出た。


 先に菜々子と合流してから、同窓会が行われるお店に行くことになっている。


 同級生たちと久しぶりに会うことに孝典は緊張してる。


 彼女は、駅前の待ち合わせ場所に先に来ていた。


 菜々子を見ると一安心する。

 

「ごめん、待った?」

「ううん、今来たところ」菜々子は横に首を振った。

 

「そっか」今日の菜々子は、いつもより大人っぽく見えた。きっと服装が違うからだろう。

 

「じゃあ行こっか」二人は並んで歩き出す。

「今日って誰が来るの?」

 

「えっとね、この前言った小沢沙耶って子覚えてる? あの子と幹事の関町誠也(せきまちせいや)くんと五十嵐一華(いがらしいちか)さん」

 

「なるほど」孝典は3人の名前を聞いてもピンと来なかった。

 

「他にもたくさん来るみたいだけど、会ってみなきゃ分かんないよね」


「そうだね」


 歩いているうちに同窓会が行われるお店に着いた。


 中に入ると既に何人か来ているようだった。

 

「菜々子! 久しぶり!」ある女性が話しかけてきた。菜々子は手を振った。

 

「一華ちゃん、元気してた?」

「まあまあかな」一華は、横で棒立ちする孝典に目をやった。

 

「えーっと誰だっけ? ごめんね。知ってるはずなんだけど、名前が……」

 

「高村……聡です」孝典は、言い慣れない古い名前を初めて使った。

 

「高村くん? 久しぶり、五十嵐一華です。覚えてる?」彼女は名前を聞くとハッと思い出したようだった。


 しかし、孝典は首を横に振る。

 

「綺麗になったから気づかなかったって」

「そう?」一華は嬉しそうにする。


 孝典は首を傾げた。

「おい、綺麗になったって言えよ」一華は馴れ馴れしく肘で突いてくる。


 孝典は顔を顰めた。

 

「まったく、冷たいなあ」

「久しぶりに会うから、距離感に困惑してるだけだと思うよ」菜々子がフォローしてくれる。

 

「それもそうか……あれ? でも高村くんって確か転校したよね?」一華は気づいてしまった。

 

「うん。今日来たのには、事情があって」菜々子が話そうとする。

 

「事情?」一華は奥にいる男性に目配せする。

「関町くん! ちょっと来て!」一華は奥にいた彼を呼んだ。

 

「どうかしたのか?」誠也は足早にやってきた。

「関町くん、久しぶり」

 

 

「おお! 浦原さん久しぶり、どうしたの?」

「今日の同窓会、彼も入れてやって欲しいの」菜々子は孝典が記憶喪失になったことを話し、彼の記憶を蘇らせるために参加させて欲しいと頼み込んだ。孝典も頭を下げる。

 

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